無職が最強の万能職でした!?〜俺のスローライフはどこ行った!?〜

あーもんど

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第二章

第56話『可愛いお客さん』

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 へ、部屋がっ───────────荒らされてる!?
ビリビリに引き裂かれたカーテン、開けっ放しの窓、割れた花瓶などなど····とにかく部屋が荒らされていた。泥棒でも入ったのか!?ってくらい荒らされている。
部屋の家具や小物は魔法か何かで固定されていたため、人族と魔族の戦闘で倒れたとは考えにくい。タンスの中身も漁られてるし····。
家具や小物が倒れただけなら、まだ事故である可能性があったが、タンスの中身も漁られているとなると人為的なものと断定せざるを得ない。
一体誰がこんなことを····?そもそも、この部屋に高価なものなんて何も····。
 慎重に辺りを見回しながら、壁にペタンと背中をくっ付けた俺は壁沿いに部屋の中を探索し始める。パッと見、この大部屋にはもう居なさそうだな。俺の使用する部屋にはリビングと寝室を兼ねたこの大部屋の他に二つ部屋がある。トイレとシャワー室だ。まだ部屋荒らしの犯人が居るとすれば、その二つの部屋のどちらかに居る可能性が高い。
 いつでも応戦出来るよう、身構えた状態で壁沿いに歩みを進めた。
まずは手前にあるトイレから確認しよう。
 ゆっくりと慎重に歩みを進め、トイレの前で足を止める。真っ白な扉を見つめ、『ふぅ····』と小さく息を吐き出した。
 すげぇ今更だけど···マモン達を呼んだ方が良かったか···?
俺はこの世界を救うための希望だ。俺が死ねば、この世界の存続は厳しくなる。少しでも危険だと感じたなら、幹部の誰かを呼ぶべきだったんじゃないか?

『今更ですね』

 相変わらず容赦ねぇーな、デーモンエンジェル····。
分かってるよ、今更だってことくらい。んな事より、やっぱ呼びに行った方がいいのか?
まだ部屋荒らしの犯人と俺は接触していない。逃亡という選択肢はまだ残っていた。

『いえ、逃げる必要はありませんよ。だって···』

 ビアンカがそこで言葉を区切ると、バンッ!と勢いよく隣の・・扉が開いた。
やべっ!部屋荒らしの犯人が·····!!
 身構える俺の前に現れたのは──────────紫檀色の長髪少女だった。

『─────────部屋荒らしの犯人はウリエルですから。警戒する必要はありませんよ』

 ビアンカは区切った言葉のその先を淡々と述べた。
 ウリエル····なんでここに!?
以前と変わらぬ癖毛がちな紫檀色の長髪に、大きな紫結晶アメジストの瞳。柔らかいピンク色のワンピースに身を包んだ少女は何故かまだ“あの”ローブを羽織っていた。
それ、何でまだ持って····?もう衣服に不自由していないだろうに····何でまだそのローブを持っているんだ?
以前、俺が即席で仕立てた赤ワイン色のローブを···ウリエルはまだ持っていた。それが嬉しいと思う反面、もっとちゃんとしたローブを羽織れば良いのにと思ってしまう。

「ウリエル····」

 たった一週間会わないだけでこんなにも懐かしく感じるのは何故だろう?まるで数年間会えなかった兄弟と再会した気分だ。
 俺の一人言にも似た小さな呟きをしっかりと拾った彼女はその大きな瞳に俺を映し出す。すると、途端に笑顔になった。

「オトハ····!!良かった!!無事で!!人族が来たって聞いた!!」

「うおっ、と····大丈夫だ。心配してくれて、ありがとう」

「ううん!!オトハに怪我がなくて本当に良かった!!」

 ドンッと勢いよく俺に抱きついたウリエルは俺の無事を確かめるように力強く抱き締めてくる。それはもう···痛いくらいに。でも、不思議と嫌な気はしなかった····まあ、めちゃくちゃ痛いが。
 俺の事を心配して、ここまで来てくれたのか。本当ウリエルはお転婆だな····それで凄く優しい子だ。
 朝日のことで悩んでいた俺は可愛いお客さんの突然の訪問に頬を緩めた。柔らかな紫檀色の長髪を撫で、微力ながら俺もウリエルを抱き締め返す。

「それにしても、よく三階まで来れたな。怪我しなかったか?」

「飛んできたから、大丈夫!怪我してない!」

 俺の腹に顔を埋めていたウリエルはパッと顔を上げて、無邪気に笑う。少女の背中に生えている小さな翼が誇らしげにピクピク反応していた。
そうか。ウリエルも一応ドラゴンだったな。空を飛べて当然だ。
だから、閉めておいた筈の窓が全開だったのか。これでやっと謎が解けた。
 『ふむふむ』と一人納得した後、俺は抱きついて離れないウリエルをそっと抱き上げる。以前より格段に筋肉がついた俺は難なく、幼女を抱き上げた。
なんか、今までは引き締まった体を鏡で見ることでしか筋力アップの実感を得られなかったけど、ウリエルのおかげで実践的な意味でも実感が湧いてきた。以前までの俺なら、ウリエルを抱き上げるだけでも一苦労だったのになぁ····。今じゃ、全く苦に感じない。さすがに『持っている実感が無いほどに』とまではいかないが、ウリエルを軽いと感じているのは事実だ。

「今更だが、一週間ぶりだな?ウリエル。ルシファーとの謁見以来か?」

「うん!魔王様とお話ししてから会ってない!だから、久しぶり!」

 俺と再会出来て嬉しいと言わんばかりにキャキャッとはしゃぐウリエル。バタバタ足を動かすものだから、少しスカートがめくれ上がっている。それをササッと素早く整えた。
 そういえば、ルシファーとの謁見の後なんだかんだ忙しくてウリエルと会う時間が無かったからなぁ。ここ一週間ずっと訓練と筋トレばっかりだったし····ぶっちゃけ、ウリエルの存在をすっかり忘れていた。とりあえず、強くならなきゃ!って必死で····。ウリエルのために強くなろうと····この世界を救おうと思ったのにウリエルのことを忘れるなんて、馬鹿だな俺は。
俺の行動理念は····いや、原点はいつだってウリエルだったじゃないか。そう、俺の原点は·····。
 そこで俺の中に複雑に絡まっていた糸がヒュンッ!と音を立てて、一気にほどけた。

「そうだ····俺の原点は····最優先事項はいつも─────────ウリエルだったじゃないか」

「?」

「俺は一体何を迷っていたんだ····!?」

 コカトリス戦の時、俺は確かに誓った。ウリエルを救うためなら、迷いなんていらないと···!罪悪感なんて幾らでも背負うと!!俺は確かにそう誓った!!
 俺の中にある理不尽な天秤が告げている。
─────────朝日より、ウリエルの方が大切だ、と···。
俺にとって、朝日の命は────────ウリエルの命より圧倒的に劣る。朝日を切り捨てることで、ウリエルを救うことが出来るなら、俺はそれで構わない。朝日に恨まれようと、周りに蔑まれようと····ウリエルを守れればそれで良いんだ。
 一種の執着とも言えるその感情が俺の背中を押した。
醜く歪んだ感情でも、研ぎ澄ませばそれは立派な刃となる。

「オトハ、どうかしたの?」

 モチモチとした小さくも柔らかい手の平をペタンと俺の頬に添えるウリエルは小首を傾げた。さっきから、ずっと意味不明な発言を連発している俺を心配しているのだろう。
片手でウリエルを抱き直した俺は空いた方の手でウリエルの手をそっと包み込んだ。
 この小さな手を····儚い命を守れるのなら、俺は朝日を切り捨てられる。俺に幸せと言う感情をくれたこの子に俺の全てを捧げよう。俺の手も、足も、命さえも····この子のためなら、惜しくない。

「オトハ····?」

「ん?あ、いや、何でもない」

 不思議そうに俺の顔を覗き込んでくるウリエルに苦笑を漏らし、包み込んだウリエルの手の甲を指の腹で撫でた。そうすると、目の前の少女は嬉しそうに頬を緩める。子供特有の無邪気な笑顔は俺の心を癒すには十分だった。
 さて、ウリエルの愛らしい笑みも久々に見れたことだし、部屋の片付けに取り掛かるか。

「ウリエル、片付けに取り掛かるぞ」

「分かった!片付けしたら、また抱っこしてね!」

「ああ」

 抱っこの約束を承諾すると、ウリエルは紫結晶アメジストと瞳を輝かせて嬉しそうに笑う。俺の腕から飛び降りて、直ぐさま片付けに取り掛かった。クッションや衣類を拾い集めるウリエルの背中から視線を逸らし、俺は割れた花瓶を片付けにかかる。
 ウリエルのおかげですっかり元気になった俺の脳内に『やっぱり、音羽は幼女趣味が····』とビアンカがツッコミを入れるまで、あと数秒。
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