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第二章

第50話『レベル上げ』

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「──────────来い!!」

 そう叫んだのと同時にポイズンラビット3匹が一斉に飛び掛ってきた。恐らく、先程の溶解液の犯人はこいつらだ。毒系の魔物は見たところ、ポイズンラビットしか居ないからな。間違いないだろう。
大きさや形は普通の兎と大差ないポイズンラビットは毛皮が毒々しい紫で、鋭い牙には紫色の液体─────毒がべったり····。さっきの溶解液とはまた違う毒か?まあ、何にせよ触らない方が良さそうだ。未知のものに無闇矢鱈に手を出すもんじゃない。まずはきちんと警戒し、その未知のものが何なのか見極める。それが出来なきゃ、これから先生き残れないからな!
 俺は飛び出してきたポイズンラビットの突進を小さな動作で躱し、正面に剣を構える。ベルゼほどじゃないが、なかなかのスピードだ。それに跳躍力も凄まじい。軽いジャンプで俺の目線まで飛ぶことが出来るポイズンラビットは油断ならない相手だ。単純な身体能力だけなら、俺以上かもな。体が小さい分、小回りも利くし····!!
 ポイズンラビット一匹一匹の位置と動作をきちんと把握し、回避に専念する。たまに仕掛けられる毒攻撃も全て回避した。
 ベルゼメスゴリラを相手にしてきた俺にとって、ポイズンラビットの攻撃回避は難しいことじゃないが·····。

『このままだと、埒が明きませんね』

 だな。
避けてばかりでは埒が明かない。こちらもいい加減、反撃しなければ····。
そう考えるものの、俺の脳内に有効な攻撃手段が何一つ思い付かなかった。いや─────────思い付いてはいるのだが、それを使う決断が出来ていないのだ。
 さっきの溶解液の出来栄えと効力を見る限り、鉄をも溶かす毒液である可能性が高い。短剣で攻撃したところであの溶解液を浴びせられれば一発アウト····。それに毒系の魔物の体液や血液は毒である可能性が高いんだ。ラノベで言う『お約束』と言うやつである。
だから、出来れば接近戦は····あっ!そう言えば、俺····!スターリ国の王家から、短剣の他にもう一つ武器を····!!
 俺はリュックサックに無造作に手を突っ込み、ある物を取り出した。
この世界に来てからずっと短剣ばっかり使っていたから、忘れてたけど─────────俺には“拳銃”もあるんだったな!!

「─────────反撃開始だ!!」

 俺は勢いをつけてピョーンッとジャンプしたポイズンラビットに銃口を向けた。
当然ながら、つい最近までただの学生であった俺が銃の扱いに慣れている筈がなく····ポイズンラビットにきちんとピントが合っているのかすら分からない状況だ。
 そういやぁ···この拳銃に弾って入ってたっけ?異世界の拳銃にも安全装置って、あるのか?
拳銃を使うのは今回が初めてのため、不明な点が多い。
俺目掛けて大きくジャンプしたポイズンラビットはすぐそこまで迫っていた。
 えっ····マジでどうし····。

『───────大丈夫です。そのまま撃ってください』

 えっ?でも····!!

『いいから、早く撃ってください!!死にたいんですか!?』

 ビアンカは半ば怒鳴るように俺を嗾け、拳銃の引き金を引くよう促してきた。
死にたいんですか!?って····死にたくないに決まってんだろ!!俺は適当に世界救って、適当な土地で適当にスローライフ送る目標があるんだよ!!その目標を実現するまでは死ぬ訳にはいかねぇ!!
 俺はビアンカに促されるまま、もう目と鼻の先まで迫ってきたポイズンラビット目掛けて引き金を引いた。これだけ距離が近いなら、弾を外す心配もない。
 カチャッと引き金を引いたのと同時に拳銃の銃口からは銃弾ではない何かが飛び出る。ラノベや漫画にあるような『ドン!』とか『バン!』と言う発砲音はなく、ほぼ無音だ。
 銃口から飛び出した銃弾ではない白い光を放つ“何か”はポイズンラビット目掛けて真っ直ぐに飛んで行き───────その兎の脳天をぶち抜いた。
撃ち抜かれた場所から、ワインにも似た赤紫色の液体が勢いよくブシャッと吹き出す。
 あっ、やべ····!!この距離だと、ポイズンラビットの血が····!!

「────────《シールド》」

「·····へっ?」

 得体の知れないポイズンラビットの血液がかかる!と本気で身構えた俺だったが····赤紫色のそれが俺にかかる事はなかった。赤紫色のそれが俺の肌に触れる前にアスモが結界魔法を張ってくれたおかげだ。どうやら、俺を守ると言う役目はきちんと全うしてくれるらしい。
 見事赤紫色の液体を弾いた透明な壁に頭に風穴が開いたポイズンラビットがゴンッとぶつかって来た。鈍い音を立てて結界に直撃したポイズンラビットは最後にドタッと地面に落ちる。瀕死状態ではあるが、まだ息はあるらしい。辛うじて息をしていた。
 なんつー生命力だ····。脳天ぶち抜かれても死なないとか、ただの化け物じゃねぇーか!

『まあ、このポイズンラビットはレベル40超えですからね。しぶといのも仕方ありません』

 れ、レベル40超え!?俺と同じくらいのレベルだったってことか!?どうりで拳銃一発じゃ死なない訳だ····って、そうだ!!拳銃!!
おい、ビアンカ!この拳銃何なんだよ!?銃弾がなんか白く光ってたんだが!?

『あぁ、説明がまだでしたね。それは魔力を媒介とする特別な拳銃です。まあ、早い話が魔力を圧縮して相手に撃つ───────魔力銃というやつですね。さっきは音羽が拳銃に込める魔力量を調整する前に引き金を引いたので、拳銃が勝手に音羽の魔力を奪い取りましたが、本来はスナイパー自ら消費魔力を調整して扱う武器です。ちなみにその拳銃の限界魔力消費量は一度に1000ですね。それを上回る魔力を込めると壊れてしまいますので、ご注意を』

 魔力を圧縮し、銃弾として撃つ特別な拳銃か····。さすがは異世界。拳銃のレベルが違いすぎる····!なんだよ、魔力を圧縮して撃つって·····!!
まあ、でもこれで銃弾が無かったことに納得が行く。銃弾が無かったのは必要がなかったから。この拳銃に既製品の銃弾は必要ない────────必要なのは己の魔力のみ。ある程度魔力量に自信のある人なら普通の拳銃より、こっちの方が安上がりだろう。まあ、本体価格は知らんがな····。

「あらあら····オトハってば、そんな珍しいものを持ってたのね」

 ビアンカの説明を脳内で反芻しながら、拳銃を眺める俺にアスモは何の気なしに話しかけて来た。その手には鞭が握られている。どうやら、俺がビアンカと念話している間に周りにいた魔物を粗方片付けてくれたらしい。さっきまで右も左も魔物で溢れ返っていた筈なのに今ではもう数匹しか見当たらなかった。

「····助けてくれたことには感謝するが···こんなに倒したら、俺のレベル上げが出来ないんじゃないか?」

「問題ないわよ。そのポイズンラビットを殺せばレベルが一気に跳ね上がる筈よ。セレーネ様が貴方に与えた加護のおかげでね」

 こいつ···俺の加護を知って·····!?
まあ、でも知っていて当たり前と言えば当たり前か。俺の動向を探る手段を持っているのだ、俺のステータスを覗くくらい朝飯前だろう。
 動揺をひた隠しにする俺にアスモは『その子にさっさとトドメ刺しちゃいなさい』と言って、残りの魔物を狩り始めた。多種多様な魔法陣と鞭を用いて、舞うように戦うアスモの姿は────────まさに蝶そのもの。圧倒的スピードを誇るベルゼとはまた違う戦い方だった。
 あの分だと、すぐに決着がつきそうだな。言うまでもなく、助太刀する必要なさそうだ。
と─────────なると、今の俺のすべきことは一つ。
もはや虫の息と化した、このポイズンラビットにトドメを刺すこと。いつまでも相手を苦しめる趣味はない。すぐに楽してやろう。

「─────────じゃあな、毒兎」

 生き物を殺すことに躊躇いを感じなくなった俺はポイズンラビットに銃口を向け─────────速やかに引き金を引いた。
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