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第二章
第46話『決断の時』
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俺の職業────────無職は極めれば誰にも負けない最強の万能職だ。だから、ルシファーは俺を求めた。勇者にも聖女にもなれる可能性を秘めた俺の出現はルシファーにとって、棚から牡丹餅であっただろう。しかも、俺は朝日と違って人族の王族連中に執着されていない。ルシファーや魔族にとって、ここまで都合のいい人材は居ない。
ルシファーは深い赤を宿したレッドアンバーの瞳をゆっくりと細めると─────────俺に一つの決断を迫った。
「さて────────オトハくん。君に一つ問おう。私達に協力し、真の英雄になる気はないか?」
銀髪赤眼の美丈夫が雪のように真っ白な手を俺に伸べる。俺を真の英雄へと導く心構えは出来ているらしく、ルシファーの目に迷いはなかった。
魔族に協力して根暗陰キャの俺が真の英雄、ねぇ····。それはなかなか面白い提案だ。
ルシファーの話は一応筋が通っているし、細かいところまできちんと説明が出来ている。嘘にしては出来すぎだ。だから、ルシファーの話が嘘である可能性は非常に低い。もしも、今話したことが全て嘘ならルシファーはかなりの切れ者だ。おまけに演技も役者並み。
「·····断ると言ったら、俺はどうなる?」
「ふふっ。そうだねぇ····洗脳でもして、無理矢理にでも私達の計画に協力してもらうかな。さっきも言った通り、もう時間が無いんだ。新しい召喚者を待っている余裕は残念ながらない」
申し訳なさそうな表情で眉尻を下げるルシファーは耳から下げたイヤリングをふわりと揺らした。月のように丸い形をしたイヤリングはルシファーの耳で、誇らしげに光を放っている。
洗脳、か····。はぁ····それってさ、俺に選択肢があるようでないよな?だって、結局はこの世界を救うために色々協力しなくちゃいけないんだろ?
自分の意思で彼らに協力するか、洗脳されて無理矢理協力させられるか····。
この二つしか俺には選択肢が残っていなかった。『逃げる』と言う選択肢もあるにはあるが、この顔ぶれに勝てるとは思えない。魔王ルシファーと魔王幹部二人、それから短期間であれ時間を共にしたウリエル···逃げ切れる訳が無い。しかも、ここは魔王城···奴らの腹の中だ。最初から俺に選択肢なんて一つしかないんだよ····。
「はぁ····本当、自分の不幸体質が嫌になる···」
自分で言うのもなんだが、俺はつくづく不幸な奴だよ···。まあ、でも──────────この世界に来て良かったとは思っている。
最初の頃は朝日のことを恨んだし、自分の持った職業を絶望したりもした····でも、ウリエルと出会って変わったんだ。その小さな手で俺に触れ、その耳に馴染むソプラノボイスで俺の名を呼び、そしてその愛らしい笑みを俺に向けてくれたウリエル。ずっと虐げられ続けてきた俺にとって、それは全部初めてのことで····。
偽善でも何でもない純粋な子供のウリエルだからこそ····彼女の言葉だからこそ、俺の胸を激しく揺さぶったんだ。恐らくウリエルの言葉じゃなきゃ、俺の心に響かなかった。『また偽善か』と自嘲にも似た笑みを浮かべていたと思う。
だから──────────俺の心は最初から決まっていた。
ルシファーが俺に長い長い昔話を始めた時から、俺の心は既に····決まっていたんだ。
「────────真の英雄なんか望んじゃいないが、まあ····たった一人の女の子を守るために世界を救うのも悪くないな」
唇の片端を吊り上げ、ニヤリと笑う俺に銀髪赤眼の美丈夫は愉快げに目を細めた。人形のように整った顔に淡い笑みが浮かぶ。
「─────────交渉成立だ。君の身の安全は保証する。我ら魔族が責任を持って守り抜こう。しばらく窮屈な思いをさせるが、何か要望はあるかい?出来るだけ叶えるよ」
こちらの要望を受け入れる姿勢を見せるルシファーはニコニコと終始笑顔だ。
要望、か···。最低限の生活をさせて貰えるなら、俺はそれで····あっ!
「出来ればで良いんだが────────俺に剣術を教えて欲しい」
俺の至極真っ当な要望にルシファーはゆるりと口角を上げた。
ルシファーは深い赤を宿したレッドアンバーの瞳をゆっくりと細めると─────────俺に一つの決断を迫った。
「さて────────オトハくん。君に一つ問おう。私達に協力し、真の英雄になる気はないか?」
銀髪赤眼の美丈夫が雪のように真っ白な手を俺に伸べる。俺を真の英雄へと導く心構えは出来ているらしく、ルシファーの目に迷いはなかった。
魔族に協力して根暗陰キャの俺が真の英雄、ねぇ····。それはなかなか面白い提案だ。
ルシファーの話は一応筋が通っているし、細かいところまできちんと説明が出来ている。嘘にしては出来すぎだ。だから、ルシファーの話が嘘である可能性は非常に低い。もしも、今話したことが全て嘘ならルシファーはかなりの切れ者だ。おまけに演技も役者並み。
「·····断ると言ったら、俺はどうなる?」
「ふふっ。そうだねぇ····洗脳でもして、無理矢理にでも私達の計画に協力してもらうかな。さっきも言った通り、もう時間が無いんだ。新しい召喚者を待っている余裕は残念ながらない」
申し訳なさそうな表情で眉尻を下げるルシファーは耳から下げたイヤリングをふわりと揺らした。月のように丸い形をしたイヤリングはルシファーの耳で、誇らしげに光を放っている。
洗脳、か····。はぁ····それってさ、俺に選択肢があるようでないよな?だって、結局はこの世界を救うために色々協力しなくちゃいけないんだろ?
自分の意思で彼らに協力するか、洗脳されて無理矢理協力させられるか····。
この二つしか俺には選択肢が残っていなかった。『逃げる』と言う選択肢もあるにはあるが、この顔ぶれに勝てるとは思えない。魔王ルシファーと魔王幹部二人、それから短期間であれ時間を共にしたウリエル···逃げ切れる訳が無い。しかも、ここは魔王城···奴らの腹の中だ。最初から俺に選択肢なんて一つしかないんだよ····。
「はぁ····本当、自分の不幸体質が嫌になる···」
自分で言うのもなんだが、俺はつくづく不幸な奴だよ···。まあ、でも──────────この世界に来て良かったとは思っている。
最初の頃は朝日のことを恨んだし、自分の持った職業を絶望したりもした····でも、ウリエルと出会って変わったんだ。その小さな手で俺に触れ、その耳に馴染むソプラノボイスで俺の名を呼び、そしてその愛らしい笑みを俺に向けてくれたウリエル。ずっと虐げられ続けてきた俺にとって、それは全部初めてのことで····。
偽善でも何でもない純粋な子供のウリエルだからこそ····彼女の言葉だからこそ、俺の胸を激しく揺さぶったんだ。恐らくウリエルの言葉じゃなきゃ、俺の心に響かなかった。『また偽善か』と自嘲にも似た笑みを浮かべていたと思う。
だから──────────俺の心は最初から決まっていた。
ルシファーが俺に長い長い昔話を始めた時から、俺の心は既に····決まっていたんだ。
「────────真の英雄なんか望んじゃいないが、まあ····たった一人の女の子を守るために世界を救うのも悪くないな」
唇の片端を吊り上げ、ニヤリと笑う俺に銀髪赤眼の美丈夫は愉快げに目を細めた。人形のように整った顔に淡い笑みが浮かぶ。
「─────────交渉成立だ。君の身の安全は保証する。我ら魔族が責任を持って守り抜こう。しばらく窮屈な思いをさせるが、何か要望はあるかい?出来るだけ叶えるよ」
こちらの要望を受け入れる姿勢を見せるルシファーはニコニコと終始笑顔だ。
要望、か···。最低限の生活をさせて貰えるなら、俺はそれで····あっ!
「出来ればで良いんだが────────俺に剣術を教えて欲しい」
俺の至極真っ当な要望にルシファーはゆるりと口角を上げた。
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