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第二章
第41話『謎の女騎士』
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癖毛がちなウリエルとは違う真っ直ぐな黒髪、キツい印象を受ける色素の薄い吊り目、スタイルはモデルみたいに細くて長い。銀のプレートに身を包む黒髪の女性は『可愛い』よりも『綺麗』と言う言葉が似合う顔立ちをしていた。顔のパーツはどれも整っており、綺麗だが中でも目を引くのがシュッとシャープな鼻筋。なんて言うか····ヨーロッパ系の外国人と日本人のハーフみたいな顔だ。
一瞬で俺との間合いを詰めた綺麗な女性は手にしている剣でいきなり俺を攻撃してくる。斬りかかると言うより、俺の胸辺りを刺すために突き出された剣先を俺は慌てて短剣で弾いた。ここまでの一連の動作はほんの数秒の出来事である。
な、なっ····!?あっぶねぇ···!!マジで今のは死ぬかと思った···!転職なしでよく反応できたな、俺···。自画自賛と思われるかもしれないが、今の攻撃を防ぎ切ったのは自分でも凄いと思う。職業に頼らず、自分の素の力だけで防いだんだぞ?凄いとしか言いようがないだろ!!
俺に剣先を弾かれ、剣の軌道がズレた黒髪の女性は見るからに不機嫌だった。眉間に深い皺を作り、『チッ!』と大きく舌打ちをする。般若のごとく、憎々しげに顔を歪めた黒髪の女性は色素の薄い茶色の瞳に怒りの炎をチラつかせる。浮気男を成敗しに来た執念深い女のようだ。
「お前!何で避け·····」
「─────────あっ!師匠だ!」
·····はいっ?師匠?
後ろに庇っていた紫檀色の長髪幼女は俺の背後から、ひょこっと顔を出し深く被っていたフードを少しだけ上にあげる。フードで隠れていた宝石のように美しい藤の瞳が顔を出した。嬉しそうに細められた紫結晶の瞳は黒髪の女性を捉えて、離さない。
え?は····?ちょっと待ってくれ。こいつが師匠!?俺達に攻撃仕掛けてきたこいつが!?
「ウリエル····!迎えに来たぞ!さあ、その忌々しい人族から離れろ!」
「?····何で?オトハは良い人だよ?私のこと助けてくれた」
「そうだろう、怖かっただろう·····って、は?『助けてくれた』?この人族がウリエルを···?」
「うんっ!危ないところを二回も助けてくれたよ!しかも、私を師匠のところに帰してくれるって!ん?でも、あれ···?今、目の前に師匠が居るから···オトハとはもうバイバイ?」
幼い少女は俺と黒髪の女性を交互に見やり、少し悲しそうに眉尻を下げる。どうやら、俺との別れを惜しんでくれているらしい。
それは嬉しいな····って、そうじゃないだろ!なんだよ、師匠って···!!つーか、何でこいつは俺のこと襲って来たんだよ!?宣戦布告もなしにいきなり襲ってくるとか、どういう事だよ!?可笑しいよな!?絶対可笑しいよな!?
『どうやら、彼女は大切な弟子が音羽にどこかへ連行されていると勘違いしたみたいです』
連行って·····本気でウリエルを攫い、連行するつもりなら、鎖とかで縛り上げるっつーの···!お手々繋いでドラゴンの娘を連行するとか、馬鹿すぎるだろ!絶対逃げられるよな!?むしろ、逃げられない方が可笑しいよな!?相手はドラゴンだぜ!?人間の握力程度に屈するほど、弱くない筈だ。
突然の攻撃とお師匠様の登場に俺の脳内は混乱を極める。もはや、ツッコミが追いつかない状況だ。
「なっ、そんな····!?私はウリエルが異世界から来た人間に無理矢理連行されてると魔王様に聞い····」
「はいはい、それは違うわよ~?魔王様は『行動を共にしているらしい』と言っただけで、『無理矢理連行されている』なんて一言も言ってないわ。ベルゼが魔王様の言葉をきちんと聞いてなかっただけよ」
そう言って、極自然に····当たり前みたいにヌルッと登場したのはピンクベージュの巻き髪に二重瞼の大きなエメラルドの瞳を持つ見た目麗しい女性だった。黒に近い焼けた肌を持つ彼女は欲情を誘う巨乳と魅惑的なクビレを見せつけるように露出度の高い服を身に纏っている。全身びっしり鎧に覆われている黒髪の女性───────ベルゼとは大違いだ。透け透けヒラヒラの短いワンピースに身を包む彼女は困惑するベルゼを後ろから、ぎゅむっと抱きすくめた。Fカップはあるだろう巨乳を惜しげも無くベルゼに押し当て、その色女はゆるりと口角を上げる。溢れ出る大人の色気に俺は慌てて目を逸らした。
あの手の女とは関わっちゃ駄目だ。自分の魅せ方を熟知した女は俺達男を虜にし、離さない。いや···俺達男の方が彼女を手放せないと言った方が正しいだろうか···?
とりあえず、あの女は駄目だ!色んな意味でアウトだ!
『はぁ····音羽も健全な男子高校生なので何か言うつもりはありませんが、とりあえず····彼女達はこの世界の魔王と関わりがあるみたいですよ。それについて何か聞かなくていいんですか?それに話を聞く限り、あちらに私達の動きはバレているみたいですし』
あっ、確かに····。
あの色女の色気に気を取られて、情報整理を疎かにしてしまった。まず、彼女達に色々問い詰める前に状況整理をしよう。
まず、ビアンカの言う通り、彼女達は魔王と関わりがあるように思える。俺は勇者ではないし、魔王を討伐する気など一ミリもないが、それはこっちの都合だ。俺が異世界から来た人間だって事もバレてるし、ただ単にウリエルを取り返しに来た訳ではないだろう。目的は俺の処分もしくは回収と言ったところか?宣戦布告もなしに攻撃してきたってことは処分の可能性が高いが····彼女らの会話を聞く限り、ベルゼが感情に押されるまま先走った可能性もある。それにもしも俺を殺すつもりなら、ゆっくり会話などせず、すぐに殺しに掛かっているだろう。現時点では回収の可能性が高いが、断定は出来ない。俺の隙を突くために一芝居打ってる可能性もあるからな。
「なっ!?そうだったのか!?すまない···私はてっきり、この男にウリエルが攫われてるのかと····」
「本当ベルゼは思い込みと聞き間違いが激しいわよねぇ···。危うく、彼を殺しちゃうところだったじゃない。この世界の希望を私達幹部が潰すなんて、魔王様に殺されても文句は言えないわよ?」
「うぐっ····。本当にすまない····」
「師匠、また早とちりしちゃったの?」
「ほら、お弟子ちゃんにも言われてるわよー?」
「うぐぐ····」
“この世界の希望”?なんだ、それ?
幼女と美女に詰め寄られるベルゼのことよりも、そっちの方が気になった。
この世界の希望····?根暗陰キャの俺が?
俺は魔王討伐のために“おまけ”で召喚された異世界人だぞ?俺自身は別に魔王討伐なんて考えちゃいないが、立場的に俺と魔族は敵対関係にある筈だ。そんな俺が“この世界の希望”?人族がそう言うなら、まだ分かる。が、何故魔族が俺をそう言うんだ?明らかに何かが可笑しい····。何かが食い違っている。俺と彼女達の間に大きな勘違いと誤解がある。
じゃあ───────その勘違いと誤解を引き起こしているのは誰だ?
「──────さてさて、立ち話もなんだし魔王城へ行きましょうか?もちろん、貴方も一緒に····。私たちに聞きたいこと、たくさんあるのよね?」
色気を感じる緩い笑みを浮かべた美女がそう言って、俺を手招く。言外に彼女は『私達について来れば全ての謎に対する答えをあげる』と俺に言ってのけた。
彼女は知っているのだ、俺が抱くこの世界の謎を····不可思議な勘違いと誤解を·····。だから、全て答えると宣言した。
俺はその魅惑的な笑みに誘われるまま、手を伸ばす。言葉遊びにも似た俺と彼女の交渉は今、成立した。
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俺に剣先を弾かれ、剣の軌道がズレた黒髪の女性は見るからに不機嫌だった。眉間に深い皺を作り、『チッ!』と大きく舌打ちをする。般若のごとく、憎々しげに顔を歪めた黒髪の女性は色素の薄い茶色の瞳に怒りの炎をチラつかせる。浮気男を成敗しに来た執念深い女のようだ。
「お前!何で避け·····」
「─────────あっ!師匠だ!」
·····はいっ?師匠?
後ろに庇っていた紫檀色の長髪幼女は俺の背後から、ひょこっと顔を出し深く被っていたフードを少しだけ上にあげる。フードで隠れていた宝石のように美しい藤の瞳が顔を出した。嬉しそうに細められた紫結晶の瞳は黒髪の女性を捉えて、離さない。
え?は····?ちょっと待ってくれ。こいつが師匠!?俺達に攻撃仕掛けてきたこいつが!?
「ウリエル····!迎えに来たぞ!さあ、その忌々しい人族から離れろ!」
「?····何で?オトハは良い人だよ?私のこと助けてくれた」
「そうだろう、怖かっただろう·····って、は?『助けてくれた』?この人族がウリエルを···?」
「うんっ!危ないところを二回も助けてくれたよ!しかも、私を師匠のところに帰してくれるって!ん?でも、あれ···?今、目の前に師匠が居るから···オトハとはもうバイバイ?」
幼い少女は俺と黒髪の女性を交互に見やり、少し悲しそうに眉尻を下げる。どうやら、俺との別れを惜しんでくれているらしい。
それは嬉しいな····って、そうじゃないだろ!なんだよ、師匠って···!!つーか、何でこいつは俺のこと襲って来たんだよ!?宣戦布告もなしにいきなり襲ってくるとか、どういう事だよ!?可笑しいよな!?絶対可笑しいよな!?
『どうやら、彼女は大切な弟子が音羽にどこかへ連行されていると勘違いしたみたいです』
連行って·····本気でウリエルを攫い、連行するつもりなら、鎖とかで縛り上げるっつーの···!お手々繋いでドラゴンの娘を連行するとか、馬鹿すぎるだろ!絶対逃げられるよな!?むしろ、逃げられない方が可笑しいよな!?相手はドラゴンだぜ!?人間の握力程度に屈するほど、弱くない筈だ。
突然の攻撃とお師匠様の登場に俺の脳内は混乱を極める。もはや、ツッコミが追いつかない状況だ。
「なっ、そんな····!?私はウリエルが異世界から来た人間に無理矢理連行されてると魔王様に聞い····」
「はいはい、それは違うわよ~?魔王様は『行動を共にしているらしい』と言っただけで、『無理矢理連行されている』なんて一言も言ってないわ。ベルゼが魔王様の言葉をきちんと聞いてなかっただけよ」
そう言って、極自然に····当たり前みたいにヌルッと登場したのはピンクベージュの巻き髪に二重瞼の大きなエメラルドの瞳を持つ見た目麗しい女性だった。黒に近い焼けた肌を持つ彼女は欲情を誘う巨乳と魅惑的なクビレを見せつけるように露出度の高い服を身に纏っている。全身びっしり鎧に覆われている黒髪の女性───────ベルゼとは大違いだ。透け透けヒラヒラの短いワンピースに身を包む彼女は困惑するベルゼを後ろから、ぎゅむっと抱きすくめた。Fカップはあるだろう巨乳を惜しげも無くベルゼに押し当て、その色女はゆるりと口角を上げる。溢れ出る大人の色気に俺は慌てて目を逸らした。
あの手の女とは関わっちゃ駄目だ。自分の魅せ方を熟知した女は俺達男を虜にし、離さない。いや···俺達男の方が彼女を手放せないと言った方が正しいだろうか···?
とりあえず、あの女は駄目だ!色んな意味でアウトだ!
『はぁ····音羽も健全な男子高校生なので何か言うつもりはありませんが、とりあえず····彼女達はこの世界の魔王と関わりがあるみたいですよ。それについて何か聞かなくていいんですか?それに話を聞く限り、あちらに私達の動きはバレているみたいですし』
あっ、確かに····。
あの色女の色気に気を取られて、情報整理を疎かにしてしまった。まず、彼女達に色々問い詰める前に状況整理をしよう。
まず、ビアンカの言う通り、彼女達は魔王と関わりがあるように思える。俺は勇者ではないし、魔王を討伐する気など一ミリもないが、それはこっちの都合だ。俺が異世界から来た人間だって事もバレてるし、ただ単にウリエルを取り返しに来た訳ではないだろう。目的は俺の処分もしくは回収と言ったところか?宣戦布告もなしに攻撃してきたってことは処分の可能性が高いが····彼女らの会話を聞く限り、ベルゼが感情に押されるまま先走った可能性もある。それにもしも俺を殺すつもりなら、ゆっくり会話などせず、すぐに殺しに掛かっているだろう。現時点では回収の可能性が高いが、断定は出来ない。俺の隙を突くために一芝居打ってる可能性もあるからな。
「なっ!?そうだったのか!?すまない···私はてっきり、この男にウリエルが攫われてるのかと····」
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「うぐっ····。本当にすまない····」
「師匠、また早とちりしちゃったの?」
「ほら、お弟子ちゃんにも言われてるわよー?」
「うぐぐ····」
“この世界の希望”?なんだ、それ?
幼女と美女に詰め寄られるベルゼのことよりも、そっちの方が気になった。
この世界の希望····?根暗陰キャの俺が?
俺は魔王討伐のために“おまけ”で召喚された異世界人だぞ?俺自身は別に魔王討伐なんて考えちゃいないが、立場的に俺と魔族は敵対関係にある筈だ。そんな俺が“この世界の希望”?人族がそう言うなら、まだ分かる。が、何故魔族が俺をそう言うんだ?明らかに何かが可笑しい····。何かが食い違っている。俺と彼女達の間に大きな勘違いと誤解がある。
じゃあ───────その勘違いと誤解を引き起こしているのは誰だ?
「──────さてさて、立ち話もなんだし魔王城へ行きましょうか?もちろん、貴方も一緒に····。私たちに聞きたいこと、たくさんあるのよね?」
色気を感じる緩い笑みを浮かべた美女がそう言って、俺を手招く。言外に彼女は『私達について来れば全ての謎に対する答えをあげる』と俺に言ってのけた。
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