無職が最強の万能職でした!?〜俺のスローライフはどこ行った!?〜

あーもんど

文字の大きさ
上 下
40 / 100
第二章

第40話『お肉は大事』

しおりを挟む
 朝市をあとにした俺とウリエルはどこまでも野原が広がっている荒野を歩いていた。ここまで来ると、もう道という道はなく、ただ野原が広がっているだけなので土地勘のない人は迷子になってしまう。この荒野を抜けたいなら、ガイドもしくはナビゲーターを雇うしかない。まあ、俺の場合はエンジェルナビという、とても便利な天使がついているが。

『便利って····もう少し良い言葉はなかったんですか?』

 深々と溜め息を零すビアンカは俺の言葉のチョイスに不満を持っているようだった。
それはお互い様だろ。お前だって、俺のことロリコンだの馬鹿だの言ってるくせに。
自分のことは棚に上げて物を言うビアンカにこちらも負けじと言い返す。第三者がこの場に居れば、俺の言い分もビアンカの文句も『どっちもどっち』と一蹴するだろうが、残念ながら俺とビアンカの念話を聞いている第三者は居ない。
 屁理屈にも似た反論を試みるビアンカから意識を逸らし、俺は隣を歩くウリエルを見下ろした。先ほど既に焼いてある肉ステーキを全て平らげたウリエルは大きい生肉片手にもちゃもちゃと咀嚼音を響かせている。オーク肉と違い、この牛肉は柔らかいのか肉の繊維を引きちぎるのに苦戦した様子はなかった。
 凄い食べっぷりだな····。
よほどお腹が空いていたのか、ウリエルはほぼノンストップで生肉を平らげていく。その小さい体のどこにそんな大量のお肉が入るのか不思議でならない···。ウリエルの胃袋はブラックホールか、何かか···?

「オトハ!おかわり!」

「ん」

「ありがとう!」

 俺はリュックを背負った状態で、器用にバッグの中に手を突っ込み、丁寧に包装された生肉をウリエルに手渡す。少女は紫結晶アメジストの瞳をキラキラと輝かせて肉を受け取ると、嬉々としてそれにかぶりついた。再びもちゃもちゃと言う聞き慣れない咀嚼音が鼓膜を揺らす。
 さっきから、ずっとこの繰り返しだ。おかげでリュックを背負ったまま、バッグの中身を探る技術まで身についちまったし····。いるようでいらない技術を習得した俺はひたすら荒野を歩く。億劫になるほど見続けた荒野の終わりは見えず····まだ歩き始めてから一時間も経っていないが、既に憂鬱な気分になりかけていた。
ずっと同じ景色が続くのは旅の面白味に欠けるなぁ。

『同じ景色を見続けるのもまた風流ですよ。それにこの先に第二のワープゲートが·····えっ?はっ!?音羽!伏せてください!!』

 いつもの長ったらしい説明が来るのかと思えば···突然声色を変え、焦ったように『伏せろ』と指示を出してくるビアンカ。俺は訳も分からず、ウリエルの手を引いて地にふせた────────と同時に頭上に赤い何かが通過していく。
 え、えっ····!?なんだこれ!?炎····!?
いや、それよりもウリエルは!?ウリエルは無事なのか!?
本当にギリギリ····頭スレスレで攻撃をかわした俺はすぐ様ウリエルの無事を確認を行った。自分の身の安全よりや炎の原因よりも、まずはウリエルの無事を確認する方が先である。

「ウリエル、平気か!?」

「うん。私は平気。でもお肉が····」

「·····肉はまだ幾らでもあるから、気にするな」

 己の身の安全よりも肉が台無しになったことを嘆くウリエルは実にマイペースだ。
自分の命より、肉って····食い意地が強いとか、そんな問題じゃねぇーぞ···。

『はぁ····無事なら、何でもいいじゃないですか。それより、敵がこっちに接近して来ます。すぐに起き上がって、戦闘態勢に入ってください』

 敵、か····。やっぱり、そうなるよな。
攻撃してきた者を『敵』と断定したビアンカに頷きながら、俺はウリエルと共に体を起こす。紫檀色の長髪幼女は残念そうに地面に落ちた肉の塊を見下ろしているが、今それに構ってやれる余裕はない。
この開けた土地で敵を目視出来ないってことは恐らく、かなり遠くから俺達を狙って攻撃してきたって事だ。おまけに相手はかなり腕が立つ。遠方攻撃で正確に俺達を狙ってきたんだ····一寸の狂いもなく···。奴にとって予想外だったのは地上世界の全てを見通す天使─────ビアンカが俺のサポーター要員として加わっていたこと。正直ビアンカがあのとき『伏せろ』と言ってくれなかったら、俺とウリエルは死んでいたかもしれない····。
攻撃の威力は分からないが、攻撃の正確性とスピードはよく分かった。だって、遠くから何かが接近してきたら、向いている方向にもよるが大抵のものは見えるだろ?それで危機感を覚えて避けるなり防ぐなりする筈だ。なのにあの攻撃は一瞬にして俺達の目の前に現れた。それこそ、一秒も経たぬ間に····。それだけでスピードが相当早いことがよく分かる。
 これはちょっと·····覚悟してかかった方がいいかもしれない。
ビアンカ、いつでも転職ジョブチェンジが使えるよう、待機しておいてくれ。

『分かりました。職業は何を選択なさいますか?』

 忍者でいい。いきなり使い慣れない職業になるより、一度使ったことがある職業の方が安定する筈だからな。

『畏まりました』

 とりあえず、これでいつ敵が接近して来ても対応出来る。出来れば今すぐ無職の特殊能力──────転職ジョブチェンジを使って、身構えておきたいところだが、能力を使える時間は限られてるからな。直前まで使わずに取っておいた方がいい。焦りは禁物だ。
俺は炎が飛んできた方角を中心に周囲を警戒して見回す。こういう時、片目なのが辛いな。視野が狭い分、一度に警戒出来る範囲が限られるのだ。しんと静まり返る荒野は嵐の前の静けさのようで、少し気味が悪かった。
 マジックバッグから取り出した短剣を鞘から引き抜き、それを構える。呑気に手をハンカチで拭くウリエルを庇うように前に立った。

『!····来ます!』

 ビアンカがそう叫んだのと同時に俺の目の前に黒髪ロングの女騎士が現れた。
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

「宮廷魔術師の娘の癖に無能すぎる」と婚約破棄され親には出来損ないと言われたが、厄介払いと嫁に出された家はいいところだった

今川幸乃
ファンタジー
魔術の名門オールストン公爵家に生まれたレイラは、武門の名門と呼ばれたオーガスト公爵家の跡取りブランドと婚約させられた。 しかしレイラは魔法をうまく使うことも出来ず、ブランドに一方的に婚約破棄されてしまう。 それを聞いた宮廷魔術師の父はブランドではなくレイラに「出来損ないめ」と激怒し、まるで厄介払いのようにレイノルズ侯爵家という微妙な家に嫁に出されてしまう。夫のロルスは魔術には何の興味もなく、最初は仲も微妙だった。 一方ブランドはベラという魔法がうまい令嬢と婚約し、やはり婚約破棄して良かったと思うのだった。 しかしレイラが魔法を全然使えないのはオールストン家で毎日飲まされていた魔力増加薬が体質に合わず、魔力が暴走してしまうせいだった。 加えて毎日毎晩ずっと勉強や訓練をさせられて常に体調が悪かったことも原因だった。 レイノルズ家でのんびり過ごしていたレイラはやがて自分の真の力に気づいていく。

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

【第1章完結】王位を捨てた元王子、冒険者として新たな人生を歩む

凪木桜
ファンタジー
かつて王国の次期国王候補と期待されながらも、自ら王位を捨てた元王子レオン。彼は自由を求め、名もなき冒険者として歩み始める。しかし、貴族社会で培った知識と騎士団で鍛えた剣技は、新たな世界で否応なく彼を際立たせる。ギルドでの成長、仲間との出会い、そして迫り来る王国の影——。過去と向き合いながらも、自らの道を切り開くレオンの冒険譚が今、幕を開ける!

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

処理中です...