無職が最強の万能職でした!?〜俺のスローライフはどこ行った!?〜

あーもんど

文字の大きさ
上 下
37 / 100
第一章

第37話『幸せ』

しおりを挟む
 それから、帰宅したアンドレアの手料理を頂き、俺とウリエルは同じ部屋の同じベッドで横になっていた。先に言っておくが、ベッドのある部屋がここの他にもう一部屋しかなかったため、ウリエルと同じ部屋の同じベッドで寝ることになっただけだ。俺が故意的にそうした訳では無い!

「オトハ、一緒のベッドだね」

「あ、ああ···そうだな」

 どこか嬉しそうに頬を緩めるウリエルは紫結晶アメジストの瞳を細め、ご機嫌でベッドに寝転ぶ。紫檀色の長髪がベッドの上に散らばった。ローブを脱いでいるため、その愛らしい顔が良く見える。ついでに額に生えた二本の角も····。アンドレアやヘクターには見せられないな。
 狐色の茶髪と海色の瞳を持つ少年二人を脳内に浮かび上がらせ、俺は何も言わずに眉を顰めた。

『····ありがとう、音羽お兄さん。僕、自分が何をすべきか分かった気がする。兄さんと後で話し合ってみるよ』

 俺の助言を元に結論を捻り出したヘクターは夕飯の後、確かにそう言った。その顔色は少し暗かったが、何かが吹っ切れた爽やかさ····と言うか清々しさがあったのをよく覚えている。ひどく澄んだ海色の瞳にはもう迷いはなかった。
 ヘクターから迷いが消え去ったのは喜ばしいことだ。だけど····ヘクターの背中を押すものが俺の言葉で良かったのか凄く不安になる。
元いた世界で、俺の言葉は無力だった。薄っぺらい紙切れほどの価値もない。『助けて』と叫んだ言葉本音を一体何回無視されてきたか····。そんな無価値な俺の無力な言葉で····ヘクターの背中を押してしまったことが凄く怖かった。だって、下手したら兄弟の仲を壊す原因になるかもしれないんだぞ?
そんな重大な問題に何で俺は助言なんてしてしまったんだろう?
 扉の隙間から漏れ出る光に俺は眉尻を下げる。この扉の向こうにある部屋はリビングだ。その部屋の明かりがついてるってことは恐らく····今まさにヘクターとアンドレアが話し合いを行っている真っ最中ってことである。今のところ、怒鳴り声や悲鳴は聞こえて来ていないが、内心俺は気が気じゃなかった。今頃になって、自分の行動を悔やんでいる。
 もしも、話し合いが最悪の結果で終わってしまったら···俺は多分一生後悔して生きていくことになるだろう。
っ····!!こんな事になるなら、最初から何もしなきゃ良かっ····。

「─────────オトハは凄いね」

「えっ····?」

 隣でうつ伏せになって、足をパタパタと上下に動かすウリエルが上目遣いで俺を見上げた。宝石のように美しい藤の瞳は俺の情けない顔をくっきりと映し出し、目を逸らそうとしない。さらりと揺れる前髪から二本の短い角が誇らしげに顔を出した。
 俺が凄い····?どういう事だ?俺は凄くなんかないぞ?ただの平凡な男子高校生だ。そんな俺が凄いなんて····絶対に有り得ない。ウリエルは見ている世界が狭いから、俺みたいな出来損ないを過大評価しているだけだ。
 情けないくらい自分に自信の無い俺は幼い少女の純粋な褒め言葉にフルフルと首を左右に振った。

「俺なんか凄くない····大して力もないくせにあれこれお節介を焼いてしまう、身の程知らずなだけだ」

「違うよ!オトハは凄い!」

 育った環境のせいか、自尊心が著しく低い俺は自分の存在そのものを全否定するが、ウリエルは間髪入れずに反論してきた。その純粋で曇りのない瞳が俺を真っ直ぐに見据える。紫檀色の長髪幼女は褒め言葉を素直に受け取らない俺に少し怒ったようにプクッと頬を膨らませた。
睨むまではいかないが、こちらをじっと見つめてくる紫結晶アメジストの瞳に俺はそろりと目を逸らす。
 何故だかウリエルの真っ直ぐな瞳を見ることが出来なかった。
何でウリエルはちょっと不服そうなんだ····?俺、なんか不味いことでも言ったか?何故ウリエルが不機嫌なのか分からず、俺は宙に視線をさ迷わせながらガシガシと頭を掻く。そんな俺の態度が気に食わなかったのか、ウリエルはペチンッと俺の両頬を叩いた···いや、両手で包み込んだと言った方が正しいだろうか····?

「オトハは凄い。魔族である私を助けてくれた。師匠との約束の意味を教えてくれた。私にローブを作ってくれた。いつも私のお世話をしてくれて、優しく接してくれる····あの兄弟の問題だって、そう!オトハは迷子のヘクターに正しい道を示してくれた!オトハは───────凄い人だよ!」

「っ·····!!」

 嘘をつけない子供の純粋な言葉だからこそ、胸に深く突き刺さる。子供の素直な言葉は時として大人を傷つけるが、その逆だってあるんだ。今の俺がまさにそう。ウリエルの真っ直ぐな言葉が俺を救ってくれた。
 ────────初めて、誰かに認められた。
存在を否定されたことは数え切れないほどあったけど、認められたことは一度もなかった俺は柄にもなく涙腺が緩んだ。どんなに虐められても、殴られても、罵倒されても決して泣かなかったのに····ウリエルの優しい言葉が涙腺を刺激してやまない。
 自分の存在を認められる事がこんなにも嬉しいことだと思わなかった····!!
────────俺の頬に一筋の涙が零れ落ちる。
子供の前で泣くなんて情けないが、本当に····どうしようもなく嬉しかったんだ。自分の存在を認められることが····。
零れ落ちた涙は横へと流れて行き、枕に染みを作った。奥歯を噛み締めて涙を止めようとするのに、そんな努力を嘲笑うかのように次から次へと涙が溢れ出る。

「お、オトハ大丈夫!?どこか痛いの?」

「····いや、大丈夫だ。どこも痛くない···」

 突然泣き出した俺にウリエルは困惑しながらも体を起こして、俺の頭を小さな手で撫でてくれている。俺の手にすっぽり埋まってしまうほど小さい手は驚くほど優しく···丁寧に俺の黒髪を撫でた。心地いい手の感触にまた涙腺がやられる。
 嗚呼、ダメだ····涙が止まらない。俺って、こんなに涙脆かったか?
待ったナシで次から次へと溢れ出る大粒の涙に苦笑しつつ、ベッドの上にペタンと座り込むウリエルに手を伸ばした。ウリエルは俺の手を怖がることなく、受け入れる。俺はもっちりした柔らかい頬に手を添えた。

「──────ありがとな、ウリエル」

 幼い少女に救われるなんて情けない話だが、ウリエルに救われたのは確かだ。ここはお礼を言うべきだろう。
俺にお礼を言われたウリエルは一瞬キョトンとした表情を浮かべるが、すぐに満面の笑みを浮かべて····。

「うんっ!どういたしまして!」

 嬉しそうに····いや、幸せそうに笑った。子供特有の無邪気な笑みに俺も釣られて笑ってしまう。泣き笑いする俺は今、変な顔になっていることだろう。

 嗚呼、俺─────────今、最高に幸せだ。

 この異世界に来てから驚きと不安の連続だったが、この瞬間に出逢うためだと言われたら、きっと納得してしまう。そのくらい今、この瞬間が幸せだと思えるから。俺は今、世界中の誰よりも幸せな自信がある。
 この世界に来て、良かった。そして、ウリエル····お前に出逢えて本当に良かったよ。俺に幸せをくれて、ありがとう。
 そのお礼と言っちゃなんだが····必ずお師匠様の元へ無事に届けてやるからな!
改めて、そう決心し、俺はキャキャッとはしゃぐ少女の頬を優しく撫でた。
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜

KeyBow
ファンタジー
 この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。  人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。  運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。  ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

処理中です...