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第一章

第29話『特殊ルート』

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 その後、震え上がる強面門番とそのお仲間さんの手によって鉄のは開き、俺とウリエルはなんとか王都から脱することが出来た。防壁で隔離された王都から出た解放感と充実感が心を満たす。学校が終わった後の解放感に近いものを感じた。『やっと、家に帰れる~』って感じのあれだ。まあ、今の俺には帰る場所なんてないんだがな。とりあえず、その話は置いておこう。
 防壁の向こうはきちんと設備された街道がしばらく続くみたいで、俺とウリエルは道なりに沿って、その街道を歩いている。昨日ウリエルがもたらしてくれた情報とビアンカの知識を混ぜ合わせた結果、俺達の目的地は魔族領にあるドラゴン谷に決定した。その名の通り、ドラゴンが多く生息する特殊な谷である。なんでも火山が多く立ち並ぶ山の間にある谷みたいで、ドラゴンが住みやすい気候なんだとか····。ウリエルがもたらした『火を噴く山の近く』と言う情報にも当てはまるし、ドラゴンの特性を考えてもドラゴン谷がウリエルの住んでいた場所でほぼ間違いない。間違っていたとしても、同族であるドラゴンから助言を貰える可能性があるため、行ってみる価値は大いにある。
 なあ、ビアンカ。昨日は目的地を決めるのに必死で聞けなかったが····ドラゴン谷までどれくらい、かかるんだ?やっぱり一ヶ月とか、かかったりするのか?
長旅の覚悟は出来ているため、時間がかかるのは一向に構わないが、目安くらいは聞いておきたい。

『そうですねぇ····正規ルートで行けば半年はかかります』

 は、半年!?そんなにかかるのか!?
せいぜい二・三ヶ月くらいだろう、と踏んでいた俺は驚きのあまり右目を大きく見開く。閉じていた左目がうっかり開きそうになった。
地図がないため、人族領と魔族領の境界線がどこにあるのかすら分からない俺だが····まさか、ドラゴン谷まで半年もかかるとは····。いや、でもそれが普通か。飛行機や船、車なんかが流通していた世界で生まれ育った俺の感覚が可笑しかったんだと思う。俺の元いた世界は地図の裏側に位置する国や大陸であっても、二日もせずに辿り着けたからなぁ····。日本で言うと、地図の裏側に位置する国はブラジルだったか?飛行機を使えば約一日で日本からブラジルに渡ることが出来る。
 だが、この世界ではそうもいかない。飛行機はもちろん、車もない世界だ。その代わり、魔法や職業能力なんかが存在するが、それにだって限界はある。転移魔法でひとっ飛び···なんて、本当に極一部の人間にしか出来ないだろう。少なくとも俺やウリエルには無理だ。
よって、俺達は徒歩または馬車で移動することになるのだが····半年かぁ···結構かかるなぁ。それに場合によってはドラゴン谷に辿り着くまで半年以上かかる可能性もある。天候、事故、身バレなどなど···旅にハプニングはつきものだ。そのハプニングにより、旅が長引く可能性は少なくない。むしろ、予定通り行くことの方が少ないだろう。
 最低でも半年はかかる、って認識しておいた方が良さそうだな。まあ、旅は嫌いじゃない。この世界のことをよく知る良い機会だし、旅の途中で良い定住場所を見つけるかもしれないしな。そう考えると、ウリエルとの旅は俺にとっても良い経験と思い出になることだろう。あんまり難しく考えない方が良いかもしれない。ただウリエルとの旅を楽しむことだけ考えれば·····。

『盛り上がっているところ、水を差すようで申し訳ありませんが、私が考案した特殊ルートで行けば半年もかからずにドラゴン谷へ辿り着くことが出来ますよ』

 ····お前なぁ····それをもっと早く言えよ!!改めて長旅を決意したところに『特殊時短ルートがあります』とか····俺の決意返せよ!!せっかく格好よく決めようとしたのに····!!俺が馬鹿みたいじゃねぇーか!

『はぁ····そんなに文句を言うなら特殊ルート・正規ルート関係なく、もうナビゲートしませんよ?』

 ·····すみませんでした。
これはもう謝るしかない。ビアンカに道案内して貰えなければ、ドラゴン谷へ辿り着くことは出来ないのだから。地図と現在位置が把握出来れば、まだ良いが残念ながら俺は地図を持っていないし、現在位置もいまいち分かっていない。スターリ国の王都の近くと言うことは辛うじて分かるが、それが地図のどこに位置するのか全く分からなかった。要するに俺はビアンカのナビゲートがなければ、ウリエルをドラゴン谷へ導くことが出来ないのだ。
なので、ここは素直に謝るしかない。ビアンカに謝罪する選択肢しか、俺には残されていなかった。

『分かれば良いんですよ、分かれば····。で、特殊ルートに説明に移りますが····これは簡単に言うと、魔素溜まりによって発生する空間の歪みを利用するルートになります』

 魔素溜まりによって発生する空間の歪み····?どういう事だ?
ラノベ知識で魔素が魔力の源となる物質であるのは分かるが····空間の歪みって、なんだ?それを利用するって、どういうことだ?

『はぁ····相変わらず、質問が多いですね···。まず、空間の歪みとはワープゲートのことです。魔素溜まりが起きると、空気中の魔素は魔素─────つまり、自分達を消費したがります。通常、魔素は生物に取り込まれ魔力となり、魔力を“魔法”として放出されることで自然に還る─────つまり、死にます。魔素は死にたがりな物質で、強く死を望んでいる。だから、嬉々として生物に取り込まれ魔力となるのです。ですが、地域によっては生物が極端に少なく魔素が消費されず溜まる一方のところがあります。そういう場所はやがて魔素溜まりとなり····魔法とは呼べない不可思議な自然現象を引き起こすことがあるんです···その自然現象の一つがワープゲートなんです。通常魔素単体では何も出来ないんですが、ある一定の数値を超える魔素が溜まると魔素が自分自身を殺すためになんとか魔素を消費しようと魔法まがいの現象を引き起こすんですよ』

 いまいち、よく分からないが魔素が死にたがりな物質であることはよく分かった。自分の命を散らすために魔法まがいの現象を引き起こすなんて、自殺願望強すぎだな。

『はぁ····そういう話では無いのですが、まあ···何となくでも分かって頂ければ、それで構いません。次にワープゲートについてですが、これはその名の通り、場所と場所を繋ぐものです。繋ぐ場所はランダムで規則性がありませんが、魔素が一定値に減るまでワープゲートは繋がったままです』

 なるほど····。つまり、そのワープゲートを上手く使えば短期間でドラゴン谷に辿り着くことが出来るって訳か!

『まあ、そういう事ですね。理由は言えませんが、天使はワープゲートの位置や繋がっている場所、期間などを把握することが出来るので最短距離でドラゴン谷まで音羽達を導くことが出来ます』

 おお!それはすげぇ!!天使様々だな!
ワープゲートの詳細を把握出来る天使のみに可能なスペシャルナビゲーションだ。今、改めてエンジェルナビを選んで良かったと思う。ビアンカが居てくれて、本当に良かった。

『はぁ····全く···こういう時だけ褒めるんですから。まあ、良いですけど····。それより、次の十字路を右へ曲がってください。記念すべき一つ目のワープゲートへ向かいますよ』

 おっ?もうワープゲートに巡り会えるのか!?それは楽しみだなぁ···!ワープを通る感覚って、どんな感じなのか気になってたんだよ。
 ラノベを読み漁った俺としてはワープゲートは胸が高鳴るものの一つだ。
 ワープゲートへ思いを馳せ、俺は意気揚々と次の十字路を右へ曲がる。
急に機嫌が良くなった俺を、隣を歩くウリエルは不思議そうな表情で見つめていた。
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