無職が最強の万能職でした!?〜俺のスローライフはどこ行った!?〜

あーもんど

文字の大きさ
上 下
28 / 100
第一章

第28話『演技』

しおりを挟む
 草むらから姿を現した俺達は意気揚々と太陽の下を歩く。身に纏う漆黒の鎧が太陽の光を取り込み艶を出すと共に熱を吸収した。おかげで凄く暑い····。
はぁ····だから、鎧なんて嫌だったんだ····。

『仕方ないでしょう?地味な格好で王家のブローチを出せば怪しまれてしまいますから····。全身真っ黒は目立ちますが、質のいい鎧には違いありませんから王族関係者だと認めてくれる筈ですよ』

 うぅ····まあ、そうなんだが····。
俺が今、所持している洋服は地味な上に安物ばかりで、王族や王族関係者が身に纏っている服とは到底思えない。つまり、怪しまれる可能性がある訳だ。だから、仕方なく····本当にその仕方なく俺はこの全身真っ黒コーデを受け入れている。ワントーンコーデを極限にまで極めた形態が今の俺だ。言っておくが、好き好んでワントーンコーデを極めた訳ではない。こんなファッションセンスの欠片もないコーデ、誰が好き好んで着るんだよ····。この全身真っ黒コーデは『ダサい』の一言に尽きた。

『ダサいのは認めますが、これ以上いい案が無かったんですから我慢してください。それと門はもうすぐそこですよ』

 ん?もうか····?
俯かせていた視線を前に戻すと、もう目と鼻の先に王都を囲う防壁とその門があった。身を潜めていた草むらが門の近くにあったこともあり、すぐに到着してしまったんだろう。早朝だからか、門の前にはまだ誰も居ない。列に並ぶ必要は無さそうだ。
 嗚呼····まだ心の準備が····。
列に並ぶ時間はあるだろうと踏んでいた俺にとって、門の前に誰も居ない状況は予想外の展開だった。まあ、そもそも王族や王族関係者は列に並ぶ必要が無いのだが····。この時の俺は混乱していて、その事に気づいてなかった。
 ふぅ····落ち着け、俺····。
ここで引き返せば門番に怪しまれて、更に検問突破が難しくなる。ここは覚悟を決めて、行くしかない。が、しかし····やはり緊張が····。俺みたいな根暗陰キャに演技なんて出来るのか···?しかも、自分とは真反対の人間を演じるなんて···。
 俺の中でどんどん自信が失われていく。元々演技に自信なんてなかったが、それを更に減らされた気分だ。

『はぁ····焦れったい男ですねぇ····!男は度胸!当たって砕けろ!です。ほら、頑張ってください。ウリエルを救いたいんでしょう?』

 ビアンカが俺を励ましている、だと····!?これは夢か!?

『大変喜ばしいことにこれは現実です。それより───────もう門に到着しましたよ。あとはもう気合と根性で頑張ってください』

 えっ!?もう着いたのか!?
意識を現実へ引き戻すと、目の前には門番の姿が···。安っぽいシルバーの鎧に身を包み、こちらを見下ろす男性。恐らく、この人が門番なのだろう。俺よりずっと背の高い男性は全身真っ黒の俺とフードを深く被った少女を交互に見やり、訝しむような視線を向けてくる。
まあ、怪しく見えるのは当たり前か····。全身真っ黒の男が幼い少女を連れ歩くなんて、明らかに可笑しい。元いた世界なら、すぐに警察へ通報されていただろう。
 不躾な視線に『ふぅ····』と息を吐き出すと、俺はずっと手に握り締めていた王家のブローチを高々と掲げた。
今の俺は傲慢な王族関係者·····今の俺は威張り散らすしか能がない王族関係者·····今の俺は暴君が過ぎる王族関係者····よしっ!いける!

「────────俺は王族関係者だ。今すぐここを通せ。今、俺は急いでいる」

 俺は目の前に立ち塞がる門番を下から舐め上げるように睨みつける。顎をあげ、オラオラ系のヤンキーのように胸を反らした。
門番は俺の掲げる王家のブローチと漆黒の鎧を交互に見つめ、困惑したように眉尻を下げる。さっきまでの威勢はどこへやら····俺が王族関係者と知るなり腰を低くし、怯えたように視線を右往左往させた。この国では王族の地位と権力が圧倒的に強いらしい。

「あ、あの····ですが、その···規則ですので検問は受けて頂かないと····」

 腰を落とし、目線を低くした門番は俺の機嫌を窺うように下から顔を覗き込んできた。頬に大きな刀傷がある門番の顔は強面に分類されるが、ここまで申し訳なさそうに眉尻を下げられると、その怖い顔もだんだん可愛く見えてくる。こわ可愛いってやつだ。JKが好きそうな顔と表情である。
 まあ、俺にそんなものは通用しないが···。だって、相手は男だぜ?俺にそっちの趣味はない。なので、遠慮なく言わせてもらおう───────その表情ちょっとキモい、と···。

「俺に余計な時間を使わせる気か?王族関係者である、この俺を···?」

「い、いや、そんなつもりは····!!」

「ふんっ···。なら、今すぐここを通せ。検問なんて時間の無駄だ」

「で、ですが·····」

 まだ言うか!この門番!!どんだけ食い下がれば気が済むんだよ!
王族関係者が相手だろうと、職務を全うしようとする姿勢は立派だが、その立派な姿勢が今は邪魔で仕方ない!
ウリエルが魔族だとバレたらどうしよう、と言う不安もあり、俺は煮え切らない門番の態度に苛立ちが募る。
何なんだよ!こいつ!!さっさと通せよ!ちったぁ、融通が効かないのか!?
 元いた世界によく居たクレーマーの気持ちが少しだけ分かった気がする。『ちょっとくらい良いだろ』『自分くらい良いだろ』と言う気持ちが膨張していく感触が確かにあった。
 クレーマーの気持ちを理解する日が来ようとは····。まあ、でも····これは非常に都合がいい。
 ────────演技が下手なら、自分が実際に傲慢な王族関係者になっちまえば良い話だからな。
この苛立ちを利用すれば、出来ないことも無い。
 俺は感情を抑える理性を緩め、苛立ちに身を委ねた。刹那、俺の体は極自然に····鉄で出来た門の扉を蹴りつける。ガンッと言う硬いもの同士がぶつかる音がこの場に響いた。

「何度も言わせるな。今すぐここを通せ。じゃないと────────お前もこれと同じ風になるぞ」

「ひっ····!!」

 俺が蹴りつけた鉄の扉はぐにゃりと凹み、異様な存在感を放っている。鉄の扉を簡単に凹ませた俺に、門番は腰を抜かした。わなわなと震え上がり、その顔面凶器としか思えない怖い顔に怯えを滲ませる。
 王族関係者と言う地位と権力だけじゃ足りないのなら───────実力と恐怖を上乗せすれば良い。凄く簡単で分かりやすい理屈だろう。
自分の実力を鉄の扉を凹ませることで見せつけ、遠回しに『殺すぞ』と門番を脅すことで恐怖を煽る。ただの王族関係者から、実力を兼ね備えた王族関係者···つまり、恐怖対象にすり替える事が出来るのだ。十年ほど虐められ続けた俺は人間の恐怖・不安と言ったマイナスの感情に敏感だ。と同時に普通の人より、その感情を理解している。どうすれば人は恐怖するのか。不安になるのか。怯えるのか····俺は自分の身をもってよく理解していた。
 だから────────門番一人脅すくらい屁でもない。
 俺はゆっくりと瞬きをし、地に座り込む強面の門番を何の感情も窺えない無機質な瞳で見下ろした。俗物を見るような冷えきった目で怯える門番を捉える。

「───────今すぐ門を開けろ。これ以上、俺を待たせるな。反論は一切受け付けない」

 怒声を轟かせるでもなく、ただ淡々と指示を飛ばした。ここで『殺すぞ!!』とチンピラみたいに脅すのは品がない。何より───────人を最も恐怖させるのは殺意ではなく、“無”だ。相手を完全に屈服させたいなら、殺意よりも“無”を使うといい。人は“無”を目の前にした時、分からない何かに恐怖する生き物だ。自分でも何に怯えているか分からないから、更に恐怖心が煽られる····俺は過去にそういう経験があった。
 腰を抜かした門番は『は、はいぃぃぃ!!』と間抜けな返事を返し、地を這って仲間の門番の元へ向かう。どうやら、お仲間さんは門の中に設置された個室に居るらしい。地を這って移動した門番の男は個室のドアをガンガンと必死に叩いていた。
俺のことが相当怖いみたいだな。んな怯えなくても、取って食いやしないのに····。
 まあ───────何はともあれ、これで検問突破は確実だろう。ミッションコンプリート、だな。
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜

KeyBow
ファンタジー
 この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。  人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。  運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。  ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

処理中です...