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第一章
第17話『決断』
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俺は少女の手を引いて路地裏を練り歩き、さっき居た場所とはまた違う突き当たりの開けた場所へと出ていた。
ここなら、誰も来なさそうだな。まあ、来たとしても撃退するだけだが····。容赦なく照りつけてくる太陽から少女を逃がすように日陰へ入れてやる。
それにしても暑いな···。季節は夏だろうか?
「悪いが、暑いのは我慢してくれ」
繋いでいる小さな手がしっとりしてきた事に気づき、申し訳なさから眉尻が下がる。
悪いな。本当は涼しい喫茶店とかに入ってやりたかったんだが····さすがにドラゴンの娘を人間の店へ入れる訳にはいかなくてな···。
俺は自分の家を持っていないため、自宅へ招待してやる事も出来ない。
『まあ、自宅へ連れ帰ったら犯罪ですけどね。ロリコン変態野郎の汚名をゲットですね』
いや、何が『ゲットですね』だよ!!んな汚名いらねぇーよ!!ビアンカはどんだけ俺をロリ好きの変態にしたいんだか····。
ビアンカのしつこさには呆れるが、まあ一旦その話は置いておこう。今は····この子から話を聞くのが最優先事項だ。
俺は逃げられないよう、少女と手を繋いだまま膝を折って向き合う。どこか影のある紫結晶の瞳を真っ直ぐに見据え、『ふぅー』と一つ深呼吸。
こんな小さい子と話すのは久し振りだ。怖がらせないように慎重に話を聞き出さなくては····。
「俺は若林音羽。音羽って呼んでくれ。お前の名前は?」
紫檀色の長髪幼女はキュッと口元に力を入れたまま動かない。思い切り顎を引き、見上げるような体勢でこちらを見つめていた。
怯えているのか····?いや、これは····警戒しているだけか。
まずは自己紹介からと思ったが····これでは喋ってくれそうにないな。まあ、俺が知っているだけでも人間に二回も攫われそうになってたし、信用出来ないのも無理ないか。むしろ、これが当然の反応と言えるだろう。
でも、困ったなぁ····これじゃあ、話が先に進まない。
少女の手を掴んだまま、どうしたものかと考え込む。
コミュニケーション能力が著しく低い俺では少女の警戒心を解くことは出来ない。子供の扱いもそこまで上手くないからな。近所の餓鬼に舐められることはあれど、懐かれることはなかったし···。
はぁ····これ、どうすれば良いんだよ···?
『では、もういっそ自分についてくるか来ないか少女自身に決めさせてはどうですか?それで『ついてくる』と少女が決めたなら、事情を聞けば良いじゃないですか』
ついて来ないって、決めたらどうするんだよ?
『そのときはこの子の事は綺麗さっぱり忘れてスローライフとやらに着手すれば良いじゃないですか』
あー···なるほどな。
まあ、確かにこの子にだって選ぶ権利くらいはある。そもそも、初対面も同然の人間に『助けてやるから、ついて来い』なんて言われて素直について行くほど馬鹿でもないだろう。
俺はゆっくりと少女の手を離すと、数歩後ろへ下がった。少しでも少女の警戒心を解くための措置だ。
少女は俺を警戒するものの、逃げるつもりがないのか近くの壁に凭れ掛かっている。
一応こちらの話を聞く気はあるらしい。
「まず、お前に聞きたいことが一つある····が、その前に····俺は昨日の夜もお前を人攫いから助けている」
「えっ···?」
耳に馴染むソプラノボイスには困惑が滲み出ていた。どうやら、昨日の奴と俺が同一人物だとは思わなかったらしい。まあ、声しか手掛かりがなかったんだ。分からないのも無理はない。
困惑する少女は右へ左へ視線をさ迷わせる。かなり動揺しているみたいだ。
「言っておくが、俺は別に『助けてやったんだから言うこと聞け』とか言う気はない。とりあえず、知っておいて欲しかっただけだ─────俺がお前を二度助けていることを」
恩着せがましい言い方かもしれないが、少女の警戒心を少しでも緩めるにはこれしか方法が思い付かなかった。自分のコミュニケーション能力の低さには溜め息しか出てこない。もっと色々方法はあった筈なのにな···。こんなずる賢い方法しか思い付かないなんて、我ながら笑える。
己のコミュニケーション能力の低さを嘲笑いながら、俺は困惑の色を示す紫結晶の瞳と今一度向き直った。
「それを踏まえた上で選んで欲しい····。子供にこんな選択を迫るのはどうかと思うんだが····子供であるお前の代わりに判断を下してくれる大人が居ないからな。お前が決めてくれ。良いな?」
紫檀色の長髪幼女は困惑の色を残しつつも、神妙な面持ちでゆっくりと頷く。プルッとした桃色の唇をキュッと引き締めた。
俺は一拍置いてから、焦らすようにゆっくりと口を開いた。
「···信じて貰えないと思うが、俺はお前を助けたいと思っている。帰る場所があるならそこに送ってやりたいし、帰る場所がないのなら、そういう場所を作ってやりたい。二度もこうして会ったのも、何かの縁だ。
だから───────俺に救われてみないか?」
っ~····!!我ながら、痛い!!痛いよ!!なんだよ、『俺に救われてみないか?』って!!どんだけ厨二病拗らせてんだよ!!
むず痒い何かを感じながら、俺は固く口を閉ざした。はぁ····ここが異世界だからって、ちょっと調子乗りすぎたな。これじゃあ、ただの痛い奴だ。厨二病全開の台詞を吐くのは控えよう···。俺が言っても痛いだけだ。
『それが良いと思います。正直聞いているこっちが恥ずかしかったので』
っ····!!そういうのは黙っといてくれよ!!何でお前はそうやって俺にトドメを刺そうとするわけ!?慰めろよ!!お前、天使だろ!?
『嫌ですよ、面倒くさい····。そもそも、厨二病拗らせた人間を慰めるのは天使の仕事じゃありませんし···。そんなに慰めてほしいなら、他を当たって下さい』
はいはい、そうですかー。天使は思ったより、冷たいんだな。何気に毒舌だし····。
ビアンカって、本当に天使なのか?実は悪魔だったり····。
『しません!それより、少女のことは良いんですか?ずっと悩んでいますよ』
あー····こういうのは好きなだけ悩ませれば良いんだよ。外野があれこれ言うもんじゃねぇーだろ。
それに悩んでくれてるってことは多少なりとも俺の提案に心が傾いている証拠だ。結論が出るまでじっと待っててやるのが大人としての義務だろ。まあ、俺もまだ16歳の餓鬼だがな。
ドラゴンの娘は小さな手を顎に当てて、考え込む素振りを見せた。紫結晶の瞳はじーっと地面を睨んでいる。
そんな怖い顔して考え込まなくても良いんじゃないか···?
少女は無意識なのか分からないが、顔がかなり怖い。眉間に深い皺を刻み、桃色の唇を八の字に曲げる少女にはよく分からない凄みがあった。
元の顔が凄く可愛いのもあって、かなりギャップが···。
『元の顔が凄く可愛い、ですか····。やはり、音羽にはロリコン趣味が····』
ねぇーよ!!何で『可愛い』って言った····じゃなくて、思っただけでロリコン認定されなきゃいけないんだよ!!子供を可愛いって思うのは普通のことだろうが!!むしろ、子供相手に『可愛くない』とか『不細工』って思う方が問題あるだろ!!
事ある毎にビアンカは俺にロリコン変態野郎と言う汚名を付けようとしてくる。結構本気で勘弁して欲しい···。
ビアンカって、天使よりも悪魔の方が似合いそうだよな····。
『失礼ですねぇ····!私は歴とした天使です!それより、少女が結論を出したみたいですよ。聞いてあげてはどうですか?』
えっ?もうか···!?意外と早かったな····。
俺は意識を現実へと引き戻し、真っ直ぐにこちらを見つめる紫結晶の瞳と視線を交える。その少女の愛らしい顔にはもう深い皺は刻まれていなかった。
──────さて、返事を聞こうか。
紫檀色の長髪幼女は一歩前へ踏み出すと─────突然地面に両膝をついた。それもかなり勢いよく···。
痛そうだな····大丈夫なのか?
俺の心配を他所に少女は大きく息を吸い込むと····。
「─────お願いします!!オトハ様!!私を助けてください!!」
そう言って、10歳にも満たない幼い少女は────────地面に額を擦り付けた。
ここなら、誰も来なさそうだな。まあ、来たとしても撃退するだけだが····。容赦なく照りつけてくる太陽から少女を逃がすように日陰へ入れてやる。
それにしても暑いな···。季節は夏だろうか?
「悪いが、暑いのは我慢してくれ」
繋いでいる小さな手がしっとりしてきた事に気づき、申し訳なさから眉尻が下がる。
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俺は逃げられないよう、少女と手を繋いだまま膝を折って向き合う。どこか影のある紫結晶の瞳を真っ直ぐに見据え、『ふぅー』と一つ深呼吸。
こんな小さい子と話すのは久し振りだ。怖がらせないように慎重に話を聞き出さなくては····。
「俺は若林音羽。音羽って呼んでくれ。お前の名前は?」
紫檀色の長髪幼女はキュッと口元に力を入れたまま動かない。思い切り顎を引き、見上げるような体勢でこちらを見つめていた。
怯えているのか····?いや、これは····警戒しているだけか。
まずは自己紹介からと思ったが····これでは喋ってくれそうにないな。まあ、俺が知っているだけでも人間に二回も攫われそうになってたし、信用出来ないのも無理ないか。むしろ、これが当然の反応と言えるだろう。
でも、困ったなぁ····これじゃあ、話が先に進まない。
少女の手を掴んだまま、どうしたものかと考え込む。
コミュニケーション能力が著しく低い俺では少女の警戒心を解くことは出来ない。子供の扱いもそこまで上手くないからな。近所の餓鬼に舐められることはあれど、懐かれることはなかったし···。
はぁ····これ、どうすれば良いんだよ···?
『では、もういっそ自分についてくるか来ないか少女自身に決めさせてはどうですか?それで『ついてくる』と少女が決めたなら、事情を聞けば良いじゃないですか』
ついて来ないって、決めたらどうするんだよ?
『そのときはこの子の事は綺麗さっぱり忘れてスローライフとやらに着手すれば良いじゃないですか』
あー···なるほどな。
まあ、確かにこの子にだって選ぶ権利くらいはある。そもそも、初対面も同然の人間に『助けてやるから、ついて来い』なんて言われて素直について行くほど馬鹿でもないだろう。
俺はゆっくりと少女の手を離すと、数歩後ろへ下がった。少しでも少女の警戒心を解くための措置だ。
少女は俺を警戒するものの、逃げるつもりがないのか近くの壁に凭れ掛かっている。
一応こちらの話を聞く気はあるらしい。
「まず、お前に聞きたいことが一つある····が、その前に····俺は昨日の夜もお前を人攫いから助けている」
「えっ···?」
耳に馴染むソプラノボイスには困惑が滲み出ていた。どうやら、昨日の奴と俺が同一人物だとは思わなかったらしい。まあ、声しか手掛かりがなかったんだ。分からないのも無理はない。
困惑する少女は右へ左へ視線をさ迷わせる。かなり動揺しているみたいだ。
「言っておくが、俺は別に『助けてやったんだから言うこと聞け』とか言う気はない。とりあえず、知っておいて欲しかっただけだ─────俺がお前を二度助けていることを」
恩着せがましい言い方かもしれないが、少女の警戒心を少しでも緩めるにはこれしか方法が思い付かなかった。自分のコミュニケーション能力の低さには溜め息しか出てこない。もっと色々方法はあった筈なのにな···。こんなずる賢い方法しか思い付かないなんて、我ながら笑える。
己のコミュニケーション能力の低さを嘲笑いながら、俺は困惑の色を示す紫結晶の瞳と今一度向き直った。
「それを踏まえた上で選んで欲しい····。子供にこんな選択を迫るのはどうかと思うんだが····子供であるお前の代わりに判断を下してくれる大人が居ないからな。お前が決めてくれ。良いな?」
紫檀色の長髪幼女は困惑の色を残しつつも、神妙な面持ちでゆっくりと頷く。プルッとした桃色の唇をキュッと引き締めた。
俺は一拍置いてから、焦らすようにゆっくりと口を開いた。
「···信じて貰えないと思うが、俺はお前を助けたいと思っている。帰る場所があるならそこに送ってやりたいし、帰る場所がないのなら、そういう場所を作ってやりたい。二度もこうして会ったのも、何かの縁だ。
だから───────俺に救われてみないか?」
っ~····!!我ながら、痛い!!痛いよ!!なんだよ、『俺に救われてみないか?』って!!どんだけ厨二病拗らせてんだよ!!
むず痒い何かを感じながら、俺は固く口を閉ざした。はぁ····ここが異世界だからって、ちょっと調子乗りすぎたな。これじゃあ、ただの痛い奴だ。厨二病全開の台詞を吐くのは控えよう···。俺が言っても痛いだけだ。
『それが良いと思います。正直聞いているこっちが恥ずかしかったので』
っ····!!そういうのは黙っといてくれよ!!何でお前はそうやって俺にトドメを刺そうとするわけ!?慰めろよ!!お前、天使だろ!?
『嫌ですよ、面倒くさい····。そもそも、厨二病拗らせた人間を慰めるのは天使の仕事じゃありませんし···。そんなに慰めてほしいなら、他を当たって下さい』
はいはい、そうですかー。天使は思ったより、冷たいんだな。何気に毒舌だし····。
ビアンカって、本当に天使なのか?実は悪魔だったり····。
『しません!それより、少女のことは良いんですか?ずっと悩んでいますよ』
あー····こういうのは好きなだけ悩ませれば良いんだよ。外野があれこれ言うもんじゃねぇーだろ。
それに悩んでくれてるってことは多少なりとも俺の提案に心が傾いている証拠だ。結論が出るまでじっと待っててやるのが大人としての義務だろ。まあ、俺もまだ16歳の餓鬼だがな。
ドラゴンの娘は小さな手を顎に当てて、考え込む素振りを見せた。紫結晶の瞳はじーっと地面を睨んでいる。
そんな怖い顔して考え込まなくても良いんじゃないか···?
少女は無意識なのか分からないが、顔がかなり怖い。眉間に深い皺を刻み、桃色の唇を八の字に曲げる少女にはよく分からない凄みがあった。
元の顔が凄く可愛いのもあって、かなりギャップが···。
『元の顔が凄く可愛い、ですか····。やはり、音羽にはロリコン趣味が····』
ねぇーよ!!何で『可愛い』って言った····じゃなくて、思っただけでロリコン認定されなきゃいけないんだよ!!子供を可愛いって思うのは普通のことだろうが!!むしろ、子供相手に『可愛くない』とか『不細工』って思う方が問題あるだろ!!
事ある毎にビアンカは俺にロリコン変態野郎と言う汚名を付けようとしてくる。結構本気で勘弁して欲しい···。
ビアンカって、天使よりも悪魔の方が似合いそうだよな····。
『失礼ですねぇ····!私は歴とした天使です!それより、少女が結論を出したみたいですよ。聞いてあげてはどうですか?』
えっ?もうか···!?意外と早かったな····。
俺は意識を現実へと引き戻し、真っ直ぐにこちらを見つめる紫結晶の瞳と視線を交える。その少女の愛らしい顔にはもう深い皺は刻まれていなかった。
──────さて、返事を聞こうか。
紫檀色の長髪幼女は一歩前へ踏み出すと─────突然地面に両膝をついた。それもかなり勢いよく···。
痛そうだな····大丈夫なのか?
俺の心配を他所に少女は大きく息を吸い込むと····。
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