無職が最強の万能職でした!?〜俺のスローライフはどこ行った!?〜

あーもんど

文字の大きさ
上 下
7 / 100
第一章

第7話『対人戦闘』

しおりを挟む
 それから、俺は太陽が月とバトンタッチするまでひたすらスライムを狩りまくり····気付いたときにはレベルが29まで上がっていた。
基礎能力値も大分上がり、一番低い体力ですら1500を超えている。
それもこれも全部この『レベルアップ経験値一定』のおかげだ。これが無ければ、こんなに早くレベルが上がることはなかった。レベルアップ初回ボーナス特典には本当感謝しかない。
あっ、そういえば····まだ『エンジェルナビ』の性能を確認してなかったな。
レベル上げを優先させたため、『エンジェルナビ』の性能確認は後回しにしていた。
レベル上げも終わったし、ちゃちゃっと性能確認し····。

「────────嫌っ!やめて!」

 ん?何だ?この声····。
俺以外にもまだ森に居る奴が居たのか?
時計がないので正確な時間は分からないが、俺の体内時計は夜中の12時を指している。
声的に子供の女の子っぽいが···そんな幼い子供が夜の森に居るのは明らかに不自然だよな?それに『嫌っ!やめて!』って····。
夜の森。子供。悲鳴。抵抗。
ここまで言えば誰だって分かるだろう。
人攫いか····或いは下衆に襲われているか····。この世界ではどうなのか分からないが、最近幼女に対する性犯罪が増えてきてるからな。性的目的で幼女を襲っている可能性もある。
まあ、なんであれ子供が襲われているのは間違いない。
 ───────はてさて、どうしたものか。
知らんふりするのは簡単だ。この夜の記憶に蓋をして、何も知らないふりして生きていけば良い話だからな。
でも─────助けるのは安易ではない。
俺はこの世界の常識を知らない。正義を知らない。ことわりを知らない。
何もかも知らない俺が威勢よく飛び出したところでなんになる?
そもそも、今の俺のステータスがこの世界では高い方に位置するのかどうかさえ、分からないのに····。俺の力がどこまで通じるか分からない上に、戦闘に関してはド素人だ。そんな俺が飛び出したところで····。

「意味はない、か····」

 綺麗事が大好きな奴はよく『結果じゃない!その過程が大事なんだ!』と喚く。結果を出せなくとも、その過程で培った仲間や知識が大事なのだと····平和ボケした日本人はよく言うんだ。
その過程が誰かに評価されるなら、まだ良い。
でも、そのほとんどは誰にも評価されずに埋もれていく。
結果が全て。結果こそ正義。
終わりよければすべてよし、とはよく言ったものだ。
 今回は結果─────つまり、勝利を収めなければ俺の振り上げた拳は無駄になる。少女を無事救出出来れば俺は最悪犬死するんだ····。
俺は───────まだ死ねない。死にたくない。
だって、まだ幸せを味わっていない。『最高だ』と思える瞬間に出会えていない。
まだまだ俺にはやり残したことが·····いや、やり残したことしかないっ!
 俺はグッと拳を握り締めると、声がした方向とは真逆の方へ歩き出す。
悪いな·····俺はお前を助けてやれない。
 ドゥンケルの森は闇が深く、気を抜いたらその闇に飲み込まれそうだった。
俺はまだ闇に準ずる気はない。
少女のことを脳内から追い出すようにボーッとしながら、木々の間を通り抜けていると──────。

「いやぁぁぁぁああ!!誰か助けてぇぇぇええ!」

 鼓膜を激しく揺らしたのはさっき聞いた女の子の悲鳴だった。

「······っ!」

 ったく····!
どうやら、不幸体質の俺は損な役回りが好きらしい。
だって、そうじゃなきゃ·····悲鳴が聞こえた方向に全力疾走なんてしないだろう?
はぁ····俺は馬鹿だな。んで、お人好しだ。
典型的な損するタイプの人間だよ!俺は!
 感情が高ぶっているせいか、何故か自分に怒りが湧いてくる。そして、その怒りを脚力に乗せて俺はひたすら森を駆け抜けた。

「チッ!おい!静かにしろよ、餓鬼!」

「そうだ、静かにしろ!森の外にまで聞こえたら、どうする!」

 先程聞いた鈴の鳴るような声とは全く違う、男らしい野太い声。それも二人。
俺は走るペースを落とし、辺りを見回した。
こんな真っ暗な森の中だ。松明たいまつか何か足元を照らすものを持っているに違いない。
俺は夜目が効くため、お月様の柔らかい光だけで十分だが、他の奴はそうもいかないだろう。まあ、俺の場合夜目を使ったら右目への負担が大きくて長時間は暗い場所に居られないんだけどな。左目を失った弊害だ。
俺はキョロキョロと辺りを見回し、明かりを探した。
少女を連れて行かれる前に助けに行かないと····。

「!····見つけた!」

 森の中でも特に木々が密集した場所にぼんやりと明かりが見える。
距離は100メートルもない。この距離なら、すぐ追いつける!帰宅部の根性見せてやるよ!
俺はサラサラの土を蹴って、駆け出した。
 レベルが上がったことで体力は増えたが、身体能力はそのままのため俺は今、自分が出せる全速力で森を駆け抜ける。
あと、1メートル!

「おい、お前ら!その女の子を離せ!」

 俺が辿り着いた先にはローブを羽織った細身の男と鎧を身に纏ったデカい男が居た。鎧男の肩にはジタバタ暴れる小さい物体が····。恐らく、あれが悲鳴をあげた女の子だろう。上から袋か何かを被せられているのか、少女の姿は見えないが俺の見立てに間違いはない筈····。
なるほど、こいつらは人攫いか。

「なんだ?お前···。人族ヒューマンに興味はねぇーよ。痛い目見たくなきゃ、さっさと失せな」

 しっしっ!と追い払う仕草をする細身の男は俺に興味がないのか、すぐにここを立ち去ろうとする。
どうやら、ここで身を引けば見逃してくれるらしい。
ははっ····!見逃す、か···。
確かにそれも悪くない。一時の感情に振り回されて後悔するなんて格好悪いこと、したくないからな。それに····正義のヒーロー気取りで殺られるのが一番ダサい。
よし─────引き上げよう。人助けなんて、まだ俺には早かったんだ。

「───────って、なるわけあるか!」

 懐から短剣を取り出した俺は感情が叫ぶままに剣を構える。
これが正しい構え方なのかは分からない。
そう、分からない─────なら、自分のやりやすいように剣を構えるのが一番だ。
忍者漫画で見た逆手持ちとやらを見様見真似でやってみる。
構えは見様見真似でも──────心だけは忍者になり切れ!
ここで心が折れたら、終わりだ!
そう、心が叫んだ瞬間───────俺の体が淡い光に包まれた。
な、んだ!?これ!?相手の魔法攻撃か!?
そう焦る俺の脳内にそれはそれは美しい声が響く。

『職業“無職”の特殊能力発動──────職業を“忍者”に変更しました。身体能力及び攻撃力が1000アップ。影魔法・気配探知を獲得。バトルモードON!戦闘態勢に入ってください』

 職業“無職”の特殊能力!?職業を“忍者”に変更!?なんじゃ、そりゃあ!?
って、今はそんなこと気にしている場合じゃない!
今はとにかく、目の前の敵に集中しろ!
集中を切らしたら、一貫の終わりだ!
訳が分からないまま、俺は鎧男に斬りかかった。
体が軽い····?それにスピードも力も何もかも底上げされているような····?
そういえば、『身体能力及び攻撃力が1000アップ』とか言ってたな。1000アップするだけでこんなにも違うのか。

「ぐっ····!?なんだこいつ!?全く太刀筋が見えなかったぞ!?」

 抵抗する暇がなかったのか、鎧男は俺の一振りをもろに食らっていた。
この剣、切れ味が良いな。さすがは王宮内の武器庫にあった剣だ。
黒い剣身に竜のマークが刻まれた短剣は男の鎧を紙のように切り捨て、皮膚の表面にも切り傷を与えていた。
まあ、さすがに鎧の上からだったし深い傷にはならなかったが····。
だが──────これならいける!
俺は間髪入れずに斬撃を繰り返し、ほとんど無抵抗の男を切り傷だらけにする。怪我したところを集中的に狙わなかったことに関しては感謝して欲しい。俺のせめてもの情けだ。

「ひぃっ!なんだよ、こいつ!!」

「高レベル冒険者か!?」

「でも、何でそんな奴がこの森に····いっ!!」

 鎧男はちょこまか動き回る俺に大剣を振るうが、一発も当たっていない。
太刀筋が甘い上に、俺の目にはこいつの斬撃がスローモーションのように見える。
ヌルゲーどころじゃないぞ、これ····。
さすがにここまで力の差があると、相手が可哀想に思えてくる。
一気に片をつけるか。こいつの振り回す大剣が女の子に当たっても困るし···。
何より───────影魔法とやらを試してみたかったからな。
やっぱ、忍者と言えば影だよな。
でも、これってどうやって発動させれば良いんだ···?
鎧男の大剣を避け、ローブ男が放った火球を剣で切り裂いた俺はコテンと首を傾げる。
詠唱かステータス画面から発動する仕組みなのか···それとも、他に何かあるのか····。

『あの』

 ん?なんだ?
今、取り込み中だから黙っててほし·····って、ん!?
さっき脳内に響いた美声が再び頭の中に響く。
一体どういうことだ·····?

『説明は後でします。とりあえず、その····影魔法を発動なさいますか?』

え···?あぁ、うん。発動出来るなら、是非。
影魔法見てみたいしな。
俺はちゃっかり念話が出来ている事実に大して驚くことなく、美声の人に返事を返す。

『分かりました。これより、影魔法の設定に移ります。消費魔力は780。範囲は小規模。対象は二人。攻撃手段は物理。それでよろしいですか?』

 あっ、ああ····正直よく分からないから、適当にやってくれ。

『畏まりました。では──────影魔法発動』

 刹那、この場に存在する闇という闇が実体を持って現れた。
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜

KeyBow
ファンタジー
 この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。  人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。  運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。  ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

処理中です...