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第一章

第4話『装備品と武器』

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 それから、俺は王様の側近と思われる水晶玉を手にした男性に連れられて武器庫を訪れていた。
 天井につくくらい背の高い棚が一定の感覚を空けて立ち並んでいる。その大きな棚の中には鎧や手甲から剣や弓矢まで数多くの装備品や武器が綺麗に整頓されていた。

「この中から、お好きなものを選んでください」

「えっ?勝手に選んで良いんですか···?」

 まさか、『この中からご自由に選んでどうぞ』と言われるとは思わなかった俺は目を大きく見開く。
だって、俺は無職だぞ?召喚者とは言え、無職の奴に好きに装備品や武器を選ばせるか?
この国は無職野郎に装備品や武器を自由に与えられるほど、経済が発展しているのだろうか?

「ええ、好きに選んでもらって構いません。無職とは言え、貴方は異世界から来た救世主の一人に違いありませんから。最低限の誠意は見せるつもりです」

 異世界召喚はある種の誘拐に近い。
スケールが大きいだけに誘拐と表して良いのか分からないが、意味合い的には間違っていないだろう。
 異世界へ誘拐したからには最低限の施しはする、とこの男は宣言した。
確かにその考えは正しいし、ご立派だと思うが本気で実行する者は少ないだろう。
 何度も言うように俺は無職だ。使い道は皆無。
そんな奴にも最低限の施しをするなんて、案外この国の王様は良い奴なのかもしれない。

「····外聞が悪くなるから、最低限の施しをしているだけですよ。以前、体が弱くて使えない聖女を身一つで追い出した際、各国から酷いバッシングを受けたので」

 俺の考えを見透かしたように無表情を貫く男は間違いを正す。
 つまり、直接的には俺のためではないと····?
各国からのバッシングを避けるための措置だと聞き、俺の心はドポンッと音を立てて海に沈む。
まあ、そうだよな。
無職者のために意味もなく、無償で装備品や武器を提供する筈がない。
 深い深い心の闇に沈んでいく気持ちを誤魔化すように俺は装備品が置かれた棚に近づく。
一流の職人が作ったであろう鎧や手甲は表面に艶があり、とても綺麗だった。

「選びながらで構いませんので、そのまま聞いてください」

「····分かりました」

 俺は目の前にある紅蓮色の鎧の表面を撫でながら、男の言葉を待った。
今までの彼の言動からして、不要な会話は絶対にしない。
つまり─────今から話すことは重要な何かである可能性が高かった。

「城を出た後は王都内にあるドゥンケルの森に行くことをおすすめします。あそこは下位に位置する魔物しか居ないので最初のレベル上げには最適でしょう。よく子供連れの親子や駆け出しの冒険者が利用する一番簡単且つ安全な森なので死ぬ心配はありません。魔物の種類は主にスライムとオーク、それからゴブリンと言ったところでしょうか」

 ほう····本当にスライムやゴブリンなどの魔物が存在するのか。
異世界だから当たり前と言えば、当たり前なんだがな。

「無害なスライムはさておき、オークとゴブリンは繁殖力が極めて強いので定期的に王国騎士が討伐を行っています。単体では雑魚に等しい魔物ですが、人数が多くなると厄介なので3、4人を超える人数の群れやグループとは敵対しない方がいいでしょう」

 無表情には似つかない親切すぎるアドバイスと助言をくれる男性に俺は一瞬だけ身動きを止めた。
意外と細かく説明してくれるんだな····。
召喚者である俺がすぐに死ぬと外聞が悪いとかの理由があるのかもしれないが、それにしたって親切過ぎる。
常に無表情だが、根は意外と良い奴なのかもしれない。もしくは無職者である俺を哀れんでお節介を焼いてくれているのかも。
····前者であることを願うな。
後者が理由だった場合、俺の心にヒビが入る。
同情はもうお腹いっぱいだ。
今まで何度も多くの人に同情されてきた。

─────名前が女みたいで可哀想。

─────失明して可哀想。

─────虐められて可哀想。

 他人から向けられた感情のほとんどが同情だった。
 そして、多分····これから先も俺に向けられる感情のほとんどが同情だと思う。

 俺が思考の海に沈んでいる間も、この男はずっと助言とアドバイスをくれていた。
それに軽く相槌を打ちながら、俺は装備品や武器を一つ一つ手に取り、品定めしていく。
素人同然の俺が一流装備品や武器を品定めなんて恐れ多いが、まあそれは置いておこう。
 正直、手に取って見てもどれが自分に合うものなのか全く分からない。
俺に分かることと言えば、その装備品や武器のデザインと重さのみである。
軽い方が動きやすそう程度の感想しか湧いてこない。
小学校一年生でも思いつきそうな簡単な感想だ。
 はぁ····こんなの素人の俺があれこれ悩んでたって仕方ないよな。
どうせ、ここにあるのは全て一流の職人が作った一流武器だ。どれを選んだって問題はないだろう。
 不良品や劣化品じゃなければ、この際どれでも良いしな。
俺は適当に目に付いた装備品や武器を手に取り、一箇所に固める。
 結果─────漆黒に輝く艶のある防具セットと、竜のマークが刻まれた短剣・拳銃が武器に決まった。

「ほう····これはなかなか···良いものを選びましたね、ワカバヤシ君」

「?····そうなんですか?適当に選んだんで自分じゃ分かんないんですけど」

「はい?装備品や武器を適当に····?」

 適当に選んだと言い切った俺に男はぱちぱちと瞬きを繰り返す。
その間抜け面と無表情とのギャップがありすぎて、ついクスクスと笑ってしまった。
失礼なのは重々承知だが、この人に間抜け面は全くもって似合わない。
 人の顔を見て笑うのは失礼だが、笑いを堪えることが出来なかった。

「おほんっ。とりあえず、装備品と武器が決まったみたいなので、これを渡しておきます」

 クスクス笑う俺を咳払い一つで黙らせた男性は懐から金色のブローチを取り出した。
星を象ったデザインの小洒落たブローチを眺めながら、王様が言い残した言葉を思い返す。
確か『王家の家紋が入ったブローチをくれてやる』だったか?
 男は学校の制服を身に纏う俺のブレザーの襟にブローチを手早く取り付けると、半歩下がった。

「それは我が国─────スターリ国王家の家紋が入ったブローチです。それは貴方の後ろ盾にスターリ国王家が居るという証。料金の支払いの際はそれを出せば問題ありませんし、出入国時の身分証明書代わりにもなります。基本的にそれを出せば大体の問題が解決します。なので絶対になくさないで下さい。誰かに貸すのも絶対NGです。悪用されたら堪りませんので」

 あらゆる問題を解決するこのブローチは利用価値が非常に高い。
持ち主である俺から奪い取り、悪用しようと目論む奴も少なくないだろう。
もし、誰かに盗まれるような事態に陥れば····俺も相当困るだろうが、最も被害を被るのはこの国の王族連中だ。
悪用方法によっては国を巻き込む大問題に発展しかねない。
だからこそ、この男は俺に警告しているのだ。
─────そのブローチを絶対に失くすな、と。
 無表情とはまた違う真剣な表情で警告を促す男に俺は神妙な顔つきで頷いた。
このブローチが紛失するような事があれば最悪俺の首が飛ぶ。
 さすがにこの若さで死ぬのは御免だ。
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