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本編

決定的な瞬間《ジェフリー side》

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 ニコラス公爵に連れられるまま、平民街へやってきた俺は物珍しげに周囲を見回した。
貴族街と比べて、随分と地味だが、活気があって賑やかだ。
でも、派手好きなフィアには到底似合わない……。

 本当にこんなところにフィアが居るのか?やっぱり、公爵の思い違いなんじゃ……。

 不安の渦に呑み込まれそうになりながらも、何とか希望の光を見出していると────不意に、ある一組のカップルが目に入った。
仲良く腕を組み、寄り添い合うように道を歩く男女。
一見、なんてことない普通の光景に見えるが……俺の目には最悪の光景に見えた。
 何故なら、その女性が────俺の婚約者である、フィアだったから……。

「嘘、だろ……?」

 口端から漏れ出た声は情けないほど震えていて……俺の心情を色濃く物語っていた。
目の前が真っ暗になるような感覚に襲われながら、目尻に涙を浮かべる。
一国の王子が婚約者の浮気現場を見たくらいで泣くなんて情けないが、俺にとってフィアはそれくらい大事な存在だった。

 フィアは俺が王子だからといって、決して特別扱いしなかった……たった一人の男として見てくれたんだ……。

 確かにフィアはワガママだし、世間知らずなところがあるけど、それすらも愛おしかった。
俺にはフィアを愛し抜ける自信があった……筈だった。
でも……彼女が自分以外の男と仲良く歩く姿を見て、その自信は粉々に砕け散ってしまった。
 あんなに愛おしいと思っていたのに……今はとても憎たらしい。

 怒りとはまた違う憎しみの感情が湧き上がり、今にも崩れ落ちそうな自分を何とか奮い立たせた。
目尻に浮かんだ涙を無造作に拭い、愛おしくて堪らなかった筈の女を睨みつける。

「────フィア!これは一体どういう事だ!?何故、俺以外の男と腕を組んで歩いている!?」

「なっ!?どうして、ジェフがここに……!?」

 浮気相手の男性に夢中だった桃髪の美女は俺の存在に気づくなり、慌て出した。
自分のやっていることが悪いことだという認識は一応あるらしい。
狼狽える彼女に、俺は罵声を浴びせた。

「このアバズレがっ……!俺は侯爵家を立て直すために尽力していたというのに、これがその仕打ちか!なんて、恩知らずな女だ!」

 感情の赴くままに叫ぶ俺の声で、賑やかな街は静まり返り、周囲の人々がチラチラとこちらの様子を伺う。
『侯爵家』という単語を出したからか、口を挟んでくる奴は居なかったが、ゾロゾロと人が集まってきた。
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