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本編

異変

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 それから、私は愚鈍な妹の存在なんて忘れて、平穏な毎日を送っていた。
出産間近とは思えないほど、体調は安定していて、食欲もある。
ただ、お腹の子が子宮を蹴る度、『嗚呼、私はもうすぐ母親になるんだ』と妙に実感が湧いた。

 そんな穏やかな日々を過ごす私だったが────変化は突然現れた。

「うっ……!!」

 普段通り、ニコラスと一緒にリビングで寛いでいると、不意に猛烈な痛みが私の腹部に襲いかかった。
縫い途中のハンカチを放り投げ、お腹に手を当てて少し屈む。
あまりの痛みに目を白黒させる中、何かがせり上がってくる感覚が走った。

「っ……!!」

「────ジュリア!大丈夫かい!?直ぐに医者を連れ……」

 私の異変に真っ先に気づいたニコラスはそこで言葉を切ると、大きく目を見開いた。
そして、慌てて近くの侍女を呼び寄せる。

「屋敷に待機させていた助産師を早くここへ!それから、清潔なタオルとお湯を!ジュリアが────破水した!」

「は、はい!ただいま!」

 侍女はニコラスの言葉に頷くと、焦ったように駆け出した。
ニコラスはその後ろ姿を見送りながら、私の背中を優しく撫でる。
何も出来ないのが歯痒いと感じているのか、陣痛に耐えている私より、ずっと痛そうな顔をしていた。

「はぁはぁ……私は大丈夫だから、そんな顔しないで……」

 本当は全然大丈夫じゃないが、ニコラスを少しでも安心させるため、強がってみせる。
でも、それは逆効果だったようで、ニコラスはその美しい顔をクシャッと歪めた。

「出産がこんなに辛いものなら、子供なんて作らなければ良かった……!何で僕じゃなくて、ジュリアが苦しまなきゃいけないんだ……!」

「ニコラス、そんなこと言わないで……私は貴方との子を授かれて、とっても幸せなのに……」

「ジュリア……でも、僕は君の苦しむ姿なんて見たくないんだ」

 迷子の子供のように不安そうな表情を浮かべるニコラスに、私は微笑みかけた。
腹部に走る激痛に耐えながら、ニコラスの頬にそっと手を添える。

「大丈夫よ、ニコラス。必ず無事に出産を終えるから。そしたら、この子に素敵な名前をつけてね」

 もう一方の手でお腹を撫でる私はもうすぐ会えるであろう、愛する我が子に思いを馳せた。
すると、開きっぱなしだったリビングの扉から助産師と複数人の侍女が飛び込んでくる。
 ────いよいよ、本格的な出産が始まろうとしていた。



※感想欄で出産について、幾つかご指摘いただいたので修正しました。
ジュリアの出産の場合=陣痛が来る→痛い→あまりの痛みに吐き気を催す(実際に陣痛が凄くて、吐いてしまう妊婦さんもいらっしゃいます)→破水という流れです
私の書き方だと、破水=痛いという認識になってしまうかもしれませんが、そこら辺はご了承ください。
(Web小説ですので、暖かい目で見守っていただけると幸いです)
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