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本編

馬鹿

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「それで、ソフィア嬢はここへ何をしに来たんだい?事前の連絡もなしに来たんだ、何か大切な用があったんだろう?」

 遠回しに『非常識な女だ』と嫌味を言うニコラスだったが、ソフィアはその意味を理解していない。
外見の可愛さだけで成り上がってきた彼女は周囲に甘やかされて育ったため、ほとんど勉強が出来なかった。
淑女として習うべき、礼儀作法やマナーは最低限……本当に最低限覚えたが、それ以上のことは何も覚えていない。
 事前の連絡もなしに公爵家を訪ねてきたのに、謝罪一つないのがいい例だ。

 第二王子の婚約者になってから、花嫁修業に励んでいると聞き、少しは学を身につけたかと思ったけど……それは無駄な期待だったみたいね。

 私は泣き真似をやめたソフィアに冷ややかな眼差しを送りつつ、『ふぅ……』と息を吐き出す。
すると、桃髪の美女と不意に目が合った。

「今日はニックにどうしても伝えたい事があって、来たの。実はね────私、ジュリアお姉様がところを見ちゃったの」

「「はぁ……?」」

 唐突すぎる妹の暴露に、私とニコラスは顔を見合わせて首を傾げる。
そんな私達の反応を見て、どう思ったのかは分からないが、ソフィアは捲し立てるように言葉を続けた。

「二人の幸せな姿を見てたから、ずっと言おうかどうか迷ってたんだけど……お姉様に騙されているニックがあまりにも可哀想で……!ニックはあんなにお姉様を愛しているのに、お姉様と来たら……!もう私、見ていられなくて……!」

 ソフィアはそこまで言い切ると、ポケットの中から白いハンカチを取り出して、勝手に泣き始める……。
私達が黙っているのをいいことに、『お姉様の人間性を疑う』だの『ニックを裏切るなんて酷い』だの、言いたい放題だった。
おまけに当事者でもないくせに、何故か悲劇のヒロインぶる始末……。
もはや、茶番を通り越してカオスだった。

 前々から残念な頭をしているとは思っていたけど、まさかここまでとは……。
実の妹にこんなことは言いたくないけど……やっぱり、この子は馬鹿ね。
私が浮気なんて出来るわけないのに……まあ、出来る状況下にあってもしないけど。だって、私もニコラスのことを愛しているのだから。愛する人が居るのに、わざわざ他の男を漁る必要なんてないわ。

 愚鈍な妹に呆れるあまり、何も言えずにいると、正気を取り戻したニコラスが不意に口を開く。

「へぇ……?僕の愛するジュリアが浮気を……ちなみにそれはいつ・どこで・誰と・何をしていたんだい?」
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