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第三章

冬の管理者③

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「ほんじゃ、行くで。あっ、膜には触らんといてな。強い衝撃を与えると、泡が弾けるみたいに割れるから」

 『結構脆いんよ』と説明し、エーセンは水の壁の向こうへ入った。
すると、宙に浮いていた私達もエーセンの後を追い掛けるように湖へ足を踏み入れる。

 本当に息が出来る……凄い。

 空気の膜の中で僅かに目を輝かせ、私は『地上に居る時と変わらないわね』と驚いた。
息苦しいとか酸素が薄いとか、そういう感覚も特になかったから。

「便利だな」

 感心したようにそう呟き、父は辺りを見回した。
と同時に、聖剣へ手を掛ける。
どこか物々しい雰囲気を放つ彼の前で、イージス卿は

「あっ、多分大丈夫ですよ。この気配は────精霊なので」

 と、言い切った。
その瞬間、水色がかった毛皮を持つウサギが現れる。
フヨフヨと水中を漂うウサギは、空気の膜越しにこちらを見つめた。
若干涙ぐみながら。

「冬の管理者はきちんと私達の気配を感じ取って、目覚めたみたいね」

 『起こす手間が省けた』と肩を竦めるバハルに、ベラーノは頷いた。
かと思えば、エーセンに冷ややかな目を向ける。

「どこかの誰かさんとは、大違いだな」

「なんやとー!?」

 目を吊り上げてベラーノに詰め寄り、エーセンは軽く足で小突いた。

「冬の管理者はウチの起床を感じ取って、起きられただけやろ!順番が逆なら、ウチかて……」

「起きられる、と本当に言い切れるのか?」

「……」

 フイッと視線を逸らし、エーセンは黙秘を選んだ。
どうやら、お寝坊さんの自覚はあるらしい。
『ぐぬぬぬぬ……』と悔しそうな素振りを見せるエーセンを他所に、ベラーノはこちらへ向き直った。

「ベアトリス様、先にご契約を。冬の管理者もそれを望んでいるので」

「分かったわ」

 僅かに表情を引き締めて父の腕から降り、私はエーセンの浮遊魔法で少しウサギに近づく。
契約という大切な儀式を、いい加減な態度でやりたくなかったから。
『ちゃんと筋は通したい』と思いつつ、私は黄金に輝くまなこを見つめる。

「お初にお目に掛かります。私はベアトリス・レーツェル・バレンシュタイン。春、夏、秋の管理者と契約を交わしている者です。今日は貴方とも契約を交わしたくて、来ました」
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