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第三章
タビアの憶測①
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「第一、精霊の姿は一般人に見えない筈だろう!」
『自主的に見せない限りは!』と噛み付くベラーノに、タビアはチラリと視線を向けた。
「ああ。だから、精霊の姿は見えていない。一般人の目に映っているのは、あくまで精霊の死骸に群がる不浄物のみ」
『だから、あんな見た目なんだ』と語り、タビアはそっと目を伏せる。
爪が食い込むほど強く、手を握り締めながら。
どうにか平静を装っているものの、この事実は彼にとっても辛いのだろう。
必死に感情を呑み込もうとするタビアを前に、バハルとベラーノは何も言えなくなってしまった。
ただただ下を向いて、歯を食いしばっているだけ。
精霊のトップとも言える二人からすれば、これは由々しき事態よね。
怒りや悲しみを感じて、当然だわ。
『私も正直、凄くショックだから……』と考えつつ、ドレスのスカート部分を強く握り締めた。
すると、父に優しく手の甲を撫でられる。
「ベアトリス、そんなに強く握ったら痛いだろう」
やんわりと私の手を解き、父は赤くなったところを見つめた。
心配そうに眉尻を下げる彼の前で、私はモジモジと指先を動かす。
「ぁ……えっと、こうでもしていないと泣いてしまいそうで……」
「なら、泣けばいい」
「!」
全く迷いのない物言いに驚いて顔を上げると、父は僅かに表情を和らげた。
「いつも、言っているだろう。私の前では何も我慢しなくていい、と。あぁ、もしかして周りの目が気になるのか?なら、今すぐこいつらを窓から投げ捨てて……」
「だ、大丈夫です!そこまでは本当に……!」
慌てて首を横に振り、私は反射的に父の腕を掴んだ。
『お気持ちだけで……!』と示す私に、父は
「そうか」
と、相槌を打つ。
と同時に、優しく私の頭を撫でた。
まるで、こちらを労わるように。
「ベアトリスは良い子だな」
「そん、なことは……」
「ある。断言する」
一瞬の躊躇いもなくそう言い切り、父はトントンと一定のリズムで背中を叩く。
「そうやって、見たことも話したこともないやつのために泣けるんだから」
「!?」
ハッとして自身の頬に触れると、私は確かに泣いていた。
自分でも気づかないうちに。
『あ、あれ……?』と困惑する中、バハルとベラーノは膝の上へ飛び乗ってきた。
そして、釣られたように涙を流す。
────と、ここでグランツ殿下が片手を挙げた。
「ところで、ジェラルドは一体どうやって精霊の亡骸を魔物にしているんだい?というか、精霊の亡骸ってそうそうお目に掛かれるものじゃないよね?」
『自主的に見せない限りは!』と噛み付くベラーノに、タビアはチラリと視線を向けた。
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ただただ下を向いて、歯を食いしばっているだけ。
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怒りや悲しみを感じて、当然だわ。
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すると、父に優しく手の甲を撫でられる。
「ベアトリス、そんなに強く握ったら痛いだろう」
やんわりと私の手を解き、父は赤くなったところを見つめた。
心配そうに眉尻を下げる彼の前で、私はモジモジと指先を動かす。
「ぁ……えっと、こうでもしていないと泣いてしまいそうで……」
「なら、泣けばいい」
「!」
全く迷いのない物言いに驚いて顔を上げると、父は僅かに表情を和らげた。
「いつも、言っているだろう。私の前では何も我慢しなくていい、と。あぁ、もしかして周りの目が気になるのか?なら、今すぐこいつらを窓から投げ捨てて……」
「だ、大丈夫です!そこまでは本当に……!」
慌てて首を横に振り、私は反射的に父の腕を掴んだ。
『お気持ちだけで……!』と示す私に、父は
「そうか」
と、相槌を打つ。
と同時に、優しく私の頭を撫でた。
まるで、こちらを労わるように。
「ベアトリスは良い子だな」
「そん、なことは……」
「ある。断言する」
一瞬の躊躇いもなくそう言い切り、父はトントンと一定のリズムで背中を叩く。
「そうやって、見たことも話したこともないやつのために泣けるんだから」
「!?」
ハッとして自身の頬に触れると、私は確かに泣いていた。
自分でも気づかないうちに。
『あ、あれ……?』と困惑する中、バハルとベラーノは膝の上へ飛び乗ってきた。
そして、釣られたように涙を流す。
────と、ここでグランツ殿下が片手を挙げた。
「ところで、ジェラルドは一体どうやって精霊の亡骸を魔物にしているんだい?というか、精霊の亡骸ってそうそうお目に掛かれるものじゃないよね?」
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