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第三章

ハメット侯爵の末路《ジェラルド side》②

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 戸惑いを露わにする前侯爵の前で、僕はこう言葉を続ける。

「あとは戦争に勝利して、ルーチェ帝国を僕のものに……」

「そ、そうまでして母親の復讐を果たしたいのか?」

「……はい?」

 ここで何故あの女の話が出てくるのか分からず、僕は一瞬だけ頬を引き攣らせた。
が、直ぐに表情を取り繕う。

「仰っている意味がよく分かりませんね」

「とぼけるな……!私が無理やりルーナを皇帝の元に嫁がせたから、恨んでいるんだろ!そのせいで、ルーナは恋人と引き裂かれる羽目になり、失意のどん底に落ちたのだから!一時期、自害を考えるくらいに!」

「!!」

 初めて聞くあの女の過去に、僕はほんの少しだけ動揺を示す。
だって、これまではあの女が……母が色恋にうつつを抜かし、駆け落ちしたものだと思っていたため。
結婚する前から、恋人が居たなんて知らなかった。

 皇帝との結婚は本意じゃなかったのか?それに自害を考えるほど、追い詰められていたなんて……。

 『一体、何がどうなっている?』と自問し、僕は大きく瞳を揺らす。
でも、直ぐさま気を取り直した。
『あの女にどんな事情があろうと、僕には関係ない』と、言い聞かせて。

「申し訳ありませんが、僕は母の復讐など興味がありません」

 『心底どうでもいい』という意向を示すと、前侯爵はすかさず噛み付く。

「では、何故……!?」

「単純な話です。僕は────皇帝になりたいんですよ」

 不敵に笑ってそう答え、僕は真っ赤な瞳に渇望を宿した。
すると、前侯爵は僅かに目を見開く。

「それだけ、か?」

「はい」

 間髪容れずに頷くと、前侯爵は困惑気味に瞬きを繰り返した。
かと思えば、おずおずと口を開く。

「皇帝となって悪政を敷き、この国そのものに復讐するつもりでは……」

「ないですね。公務はちゃんとこなすつもりですよ」

「で、では大陸統一などを夢見て……?」

「いいえ。そのような野心もありません。もちろん、国を大きくするチャンスがあれば積極的に動きますけど。でも、無理に国土を広げたり他国を侵略したりするつもりはありませんよ」

 『リスクが高すぎます』と語り、僕は小さく肩を竦めた。
この老いぼれは僕のことをなんだと思っているんだ、と呆れながら。
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