愛する婚約者に殺された公爵令嬢、死に戻りして光の公爵様(お父様)の溺愛に気づく 〜今度こそ、生きて幸せになります〜

あーもんど

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第三章

母方の実家《ジェラルド side》①

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◇◆◇◆

 ────時は少し遡り、僻地へ逃亡した翌日。
僕は人が足を踏み入れないような森の奥地で、ひたすら体を休めていた。
が、一晩経っても体力や魔力はあまり回復していない。

「やはり、テントも防寒具もない状態では色々と厳しいか……」

 『横腹に負った傷もまだ完治していないし』と悩み、僕はおもむろに立ち上がる。

 唯一の救いは暖かい季節であることだね。
これがもし、秋や冬だったら確実に詰んでいた。

 低体温症や食料不足になることを考え、僕は『まだ運がいい方か』と肩を竦める。
と同時に、風魔法で木の実をいくつか採った。
ソレを口元に運びつつ、僕は今後のことについて思考を巡らせる。

 出来ることなら、どこかに身を寄せたいな。
せめて、屋根のある場所で眠りたい。
でも、あまり街の方へ行くと皇室に見つかるかもしれないし……。

 などと考えていると────頭に冷たい何かが当たった。
かと思えば、ザーッと雨音が鳴り響き、僕の体を濡らす。

「このタイミングで、雨か……しかも、これは直ぐに止みそうもないな」

 やれやれとかぶりを振りつつ、僕は一先ず結界で雨風を凌いだ。
ついでに火炎魔法で結界内の温度を調整し、体が冷えないようにする。

 どうする……?いつまでも、結界や温度を維持する訳にはいかないぞ。
一晩経って多少体力や魔力は回復したけど、それでも全快には程遠いから。

「……いっそ、どこかの街や村を占拠してしばらくそこで過ごそうか。いや、それだと皇室に居場所が……」

 『間違いなく速攻でバレる』と嘆息し、僕は頭を悩ませた。
風魔法も駆使して体を乾かしながら、遠目に見える大きな屋敷へ視線を移す。
と同時に、気づいた。

「そうだ、ここは────ハメット侯爵家の領地だ」

 母方の実家が収める土地であることを思い出し、僕は自嘲にも似た笑みを零す。
『何の因果だ、これは……』と肩を竦め、自身の手首に刻んだ魔法陣を見た。

 当初の予定では、帝国の最南端に行く予定だった。
あそこが一番皇室から遠く、僕との関係性も薄いため。
でも、一度目の転移魔法が失敗に終わり、残りの魔力量を考えて行き先を変更したのだ。
その上で、重要だったのは移動距離と魔法陣に書き加える文字。

 前者はさておき、後者のせいでかなり候補を絞られた。
というのも、体に直接書き込んでいる都合上、一部の文字を消してまた書き直すのは不可能だったため。
あのとき、出来たのはあくまで文字を付け足すことだけ。
なので、『ここから南方向に〇〇キロ転移したら、△△の領地だ』なんていちいち考えている暇はなかった。

 『時間的に一から書くのは、不可能だったしな』と考えつつ、僕は服の袖で傷跡を隠す。

「あの女が生まれ育った場所というのは気に食わないけど────ハメット侯爵家、利用出来るな」
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