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第三章

逃亡《ジェラルド side》②

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「魔法で勝てないなら、別の要素を付け足すしかない……」

 一番見せたくなかった手札を切り、僕は第一皇子へ襲い掛かる。
魔物達を使って。
でも、相手は大して動じておらず……冷静に対処していた。
とはいえ、気絶した騎士達を庇いながら戦うのは難しいようだが。

 ────だけど、これで隙が出来た。

 僕は素早く窓に駆け寄ると、一体の魔物を引き連れて外へ出る。
その途端、裏庭に居た庭師や騎士が悲鳴を上げるものの、気にせず結界へ近づいた。
一度上空まで飛んでグルッと周囲を見回し、抜け穴らしきものはなさそうだと判断。

「やっぱり、壊すしかないか」

 結界へ向き直り、嘆息する僕は手のひらを前へ突き出した。
と同時に、裏庭を巡回していた騎士達が駆けつける。

「ジェラルド殿下、そこまでです!」

「どうか、投降してください!」

「さもなくば、力ずくで……」

「無駄なことはやめたら?君達じゃ、コレは倒せないんだから」

 『どれだけ、僕の魔力を与えたと思っている』と肩を竦め、魔物に騎士達を蹴散らすよう指示した。
その瞬間、魔物は後ろを振り返り、体から触手のようなものを生やす。
明らかに従来のものとは異なる姿に、騎士達はたじろいだ。
が、ここで退くのは帝国へ仕える者として許せないのか、勇敢にも切り掛かってくる。
でも、それより早く触手が騎士達の胸を貫通した。

「「「っ……」」」

 急所を正確に攻撃された上、魔物の腐敗能力により体が腐った騎士達は為す術なく倒れる。
実に呆気ない戦いに、僕は一つ息を吐いた。
『だから、言ったのに』と呆れつつ、結界へ向かって風の槍を放つ。
かなり空気を圧縮して威力を上げたからか、一発で破壊に成功。
僕は急いで結界の外へ出た。

 これなら、転移出来る。

 先程作成した魔法陣にいくつか文字を付け足し、僕は再度魔力を込める。
と同時に、離宮の方を振り返った。
すると、ちょうど寝室から飛び降りる第一皇子の姿を目にする。
『もうあの二体を倒したのか』と動揺する中、第一皇子はこちらを見た。
かと思えば、強力な風の刃を放つ。
意地でも、僕のことを逃がさないつもりのようだ。

「僕を守れ……!」

 半ば怒鳴るようにしてそう指示すると、魔物はドロドロの体を薄く広げる。
そして、僕の周りを覆った。
無論、体に触れないよう一定の距離を保って。

 これだと一緒に視界も遮られてしまうけど、しょうがない……とにかく、あの風の刃さえ防げればいい。
恐らく、あちらが追撃する前に転移魔法を発動出来るから。

 服の袖を捲ってじっと魔法陣を眺め、僕は『早く早く……!』と焦る。
────と、ここで魔物の肉壁が風の刃によって切り裂かれた。

「ジェラルド……!」

 必死になってこちらへ手を伸ばし、第一皇子は『こっちに来るんだ!』と叫ぶ。
でも、僕は全てを無視してさっさと僻地へ転移した。

 何とか、逃げ切った……のか?

 魔物が荒らした痕跡のある森を前に、僕はパチパチと瞬きを繰り返す。
というのも、思ったより綺麗だったから。魔物の襲撃を受けたにしては、自然がまだちゃんと残っていた。
まあ、それでも数ヶ月前に来た時と比べるとかなり汚れているが。

 なんにせよ、身を隠すには持ってこいの場所だな。
選り好みしなければ、食料にも困らないし。

 足元に生えた草花を一瞥し、僕は木の幹に背を預ける形で座り込む。
と同時に、そっと目を閉じた。
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