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第二章
ヒント《グランツ side》②
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結局、空振りか……もう少し粘っても良かったけど、あまりしつこくすると騒ぎになってジェラルドの耳へ入るかもしれないし、ここら辺で引くべきだろう。
『時間を置いてもう一度尋ねるか』と考えつつ、私は自分の部屋へ帰ろうとする。
でも、もう一人当時の状況を知る人物が居ることに気づき、行き先を変えた。
そして、向かったのは────私の母であり、皇后であるアンジェラ・ベル・ルーチェの居る部屋。
「────あら、珍しいわね。貴方から、訪ねてくるなんて」
『どういう風の吹き回しかしら』とサンストーンの瞳を細め、母は快く部屋に招き入れてくれた。
艶やかな紺髪を揺らしてソファに腰掛ける彼女の前で、私も着席する。
と同時に、ジェラルドの不審な行動や父の対応を全て話した。
その上で、何か知っていることはないかと尋ねる。
「う~ん……そうね、私は確かに色々知っているけれど……陛下に口止めされているから」
唇に人差し指を当て困ったように笑う母は、侍女の淹れた紅茶へ手を伸ばす。
「とはいえ、あの子を警戒するグランツの気持ちもよく分かるわ。正直、私も放置は出来ないと思っている」
紅茶を一口飲んで『ふぅ……』と息を吐き出し、母はサンストーンの瞳に憂いを滲ませた。
かと思えば、真っ直ぐにこちらを見据える。
「だから、ヒントはあげましょう」
しゃんと背筋を伸ばして微笑み、母はティーカップをソーサーの上に戻した。
「まず、貴方の気にしている五年間についてだけど────私もよく知らないの。恐らく、陛下もね」
「えっ……?父上も……?」
まさか一切情報を持っていないとは思わず、私は目を見開いた。
『そんなこと有り得るのか……?』と困惑する私の前で、母はふと天井を見上げる。
「私達がちゃんとあの子を……ジェラルドを見たのは、ルーナ皇妃の葬式より少し前よ」
「……それまではずっと離れて暮らしていた、ということですか?」
「ええ、そうなるわね」
「一体、何故……?」
堪らず疑問を投げ掛けると、母は小さく首を横に振る。
「それは私の口から、言えない」
「そ、そこを何とか……」
どうしても気になって食い下がり、私はじっとサンストーンの瞳を見つめた。
『時間を置いてもう一度尋ねるか』と考えつつ、私は自分の部屋へ帰ろうとする。
でも、もう一人当時の状況を知る人物が居ることに気づき、行き先を変えた。
そして、向かったのは────私の母であり、皇后であるアンジェラ・ベル・ルーチェの居る部屋。
「────あら、珍しいわね。貴方から、訪ねてくるなんて」
『どういう風の吹き回しかしら』とサンストーンの瞳を細め、母は快く部屋に招き入れてくれた。
艶やかな紺髪を揺らしてソファに腰掛ける彼女の前で、私も着席する。
と同時に、ジェラルドの不審な行動や父の対応を全て話した。
その上で、何か知っていることはないかと尋ねる。
「う~ん……そうね、私は確かに色々知っているけれど……陛下に口止めされているから」
唇に人差し指を当て困ったように笑う母は、侍女の淹れた紅茶へ手を伸ばす。
「とはいえ、あの子を警戒するグランツの気持ちもよく分かるわ。正直、私も放置は出来ないと思っている」
紅茶を一口飲んで『ふぅ……』と息を吐き出し、母はサンストーンの瞳に憂いを滲ませた。
かと思えば、真っ直ぐにこちらを見据える。
「だから、ヒントはあげましょう」
しゃんと背筋を伸ばして微笑み、母はティーカップをソーサーの上に戻した。
「まず、貴方の気にしている五年間についてだけど────私もよく知らないの。恐らく、陛下もね」
「えっ……?父上も……?」
まさか一切情報を持っていないとは思わず、私は目を見開いた。
『そんなこと有り得るのか……?』と困惑する私の前で、母はふと天井を見上げる。
「私達がちゃんとあの子を……ジェラルドを見たのは、ルーナ皇妃の葬式より少し前よ」
「……それまではずっと離れて暮らしていた、ということですか?」
「ええ、そうなるわね」
「一体、何故……?」
堪らず疑問を投げ掛けると、母は小さく首を横に振る。
「それは私の口から、言えない」
「そ、そこを何とか……」
どうしても気になって食い下がり、私はじっとサンストーンの瞳を見つめた。
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