上 下
129 / 228
第二章

誇ってほしい②

しおりを挟む
 『クソッ……調子が狂う』とボヤく彼を前に、私は小さく笑う。

「ルカからすれば自己満足かもしれないけど、私からすれば優しさよ。だから────もっと、自分のことを誇ってあげて」

「あ”?俺はいつでもどこでも自分が一番だけど」

 『何を言っているんだ?』と眉を顰めるルカに、私はこう答える。

「ええ、確かにルカは自分の能力や特技を誇っているわね。でも────自分自身を褒めてあげることは、あまりないように見えるわ」

「!!」

 図星だったのか、ハッと息を呑むルカはゆらゆらと瞳を揺らした。
こちらを凝視して固まる彼の前で、私は自身の手のひらを見つめる。

「ルカはどこか、自分のことを軽く見ていて……卑下しているように感じる。まるで、自分は生まれちゃいけない存在だったみたいな……そんな感じ。私も前まで同じことを思っていたから、何となく分かるの」

 グッと手を握り締め、私は視線を前に……ルカに戻した。
そして、どこか泣きそうな……でも怒ったような表情を浮かべる彼に、私はふわりと柔らかく微笑む。

「ねぇ、ルカ。私は貴方にこうして出会えて、とても嬉しい。たくさんの優しさと勇気をもらえて、凄く凄く感謝している。貴方のおかげで、今とっても幸せ。だから、ね……私なんかが、こんなことを言ってもいいのか分からないけど────」

 そこで一度言葉を切ると、私はお祈りのときみたいに両手を組んだ。

「────生まれてきてくれて、ありがとう。私は貴方の誕生を心の底から祝福します」

 神官様が洗礼の際に使う言葉を真似て、私は精一杯の想いを伝えた。
貴方は誰かに必要とされて生まれてきたのだと……望まれない子供なんかじゃないんだと、分かってほしくて。
他の誰がルカの誕生を呪っても、私だけは貴方の誕生を心から喜ぶ。
その決意の表れでもあった。

「……あー、クソ。こんなんで……チッ」

 目元を手で覆い隠してそっぽを向くルカは、何故か少し涙声だった。
また、いつものような覇気もない。

「ベアトリス、てめぇ……後で覚えてろよ。肉体を取り戻したら、速攻で頭をグシャグシャにしてやるからな」

 ビシッとこちらを指さして宣言し、ルカは身を翻した。

「んじゃ、さっさと寝ろよ。俺は建物の周りをグルッと回ってくる」

 そう言うが早いか、ルカは床へ沈むようにしてこの場を去る。

 珍しいわね、パトロールなんて。
もしかして、魔物の襲撃を警戒しているのかしら?

 などと思いつつ、私はコテリと首を傾げた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

それでも、私は幸せです~二番目にすらなれない妖精姫の結婚~

柵空いとま
恋愛
家族のために、婚約者である第二王子のために。政治的な理由で選ばれただけだと、ちゃんとわかっている。 大好きな人達に恥をかかせないために、侯爵令嬢シエラは幼い頃からひたすら努力した。六年間も苦手な妃教育、周りからの心無い言葉に耐えた結果、いよいよ来月、婚約者と結婚する……はずだった。そんな彼女を待ち受けたのは他の女性と仲睦まじく歩いている婚約者の姿と一方的な婚約解消。それだけではなく、シエラの新しい嫁ぎ先が既に決まったという事実も告げられた。その相手は、悪名高い隣国の英雄であるが――。 これは、どんなに頑張っても大好きな人の一番目どころか二番目にすらなれなかった少女が自分の「幸せ」の形を見つめ直す物語。 ※他のサイトにも投稿しています

貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした

ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。 彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。 しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。 悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。 その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

【完結】これからはあなたに何も望みません

春風由実
恋愛
理由も分からず母親から厭われてきたリーチェ。 でももうそれはリーチェにとって過去のことだった。 結婚して三年が過ぎ。 このまま母親のことを忘れ生きていくのだと思っていた矢先に、生家から手紙が届く。 リーチェは過去と向き合い、お別れをすることにした。 ※完結まで作成済み。11/22完結。 ※完結後におまけが数話あります。 ※沢山のご感想ありがとうございます。完結しましたのでゆっくりですがお返事しますね。

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので

モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。 貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。 ──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。 ……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!? 公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。 (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

もう二度とあなたの妃にはならない

葉菜子
恋愛
 8歳の時に出会った婚約者である第一王子に一目惚れしたミーア。それからミーアの中心は常に彼だった。  しかし、王子は学園で男爵令嬢を好きになり、相思相愛に。  男爵令嬢を正妃に置けないため、ミーアを正妃にし、男爵令嬢を側妃とした。  ミーアの元を王子が訪れることもなく、妃として仕事をこなすミーアの横で、王子と側妃は愛を育み、妊娠した。その側妃が襲われ、犯人はミーアだと疑われてしまい、自害する。  ふと目が覚めるとなんとミーアは8歳に戻っていた。  なぜか分からないけど、せっかくのチャンス。次は幸せになってやると意気込むミーアは気づく。 あれ……、彼女と立場が入れ替わってる!?  公爵令嬢が男爵令嬢になり、人生をやり直します。  ざまぁは無いとは言い切れないですが、無いと思って頂ければと思います。

そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。

しげむろ ゆうき
恋愛
 男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない  そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった 全五話 ※ホラー無し

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

処理中です...