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第二章

誇ってほしい②

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 『クソッ……調子が狂う』とボヤく彼を前に、私は小さく笑う。

「ルカからすれば自己満足かもしれないけど、私からすれば優しさよ。だから────もっと、自分のことを誇ってあげて」

「あ”?俺はいつでもどこでも自分が一番だけど」

 『何を言っているんだ?』と眉を顰めるルカに、私はこう答える。

「ええ、確かにルカは自分の能力や特技を誇っているわね。でも────自分自身を褒めてあげることは、あまりないように見えるわ」

「!!」

 図星だったのか、ハッと息を呑むルカはゆらゆらと瞳を揺らした。
こちらを凝視して固まる彼の前で、私は自身の手のひらを見つめる。

「ルカはどこか、自分のことを軽く見ていて……卑下しているように感じる。まるで、自分は生まれちゃいけない存在だったみたいな……そんな感じ。私も前まで同じことを思っていたから、何となく分かるの」

 グッと手を握り締め、私は視線を前に……ルカに戻した。
そして、どこか泣きそうな……でも怒ったような表情を浮かべる彼に、私はふわりと柔らかく微笑む。

「ねぇ、ルカ。私は貴方にこうして出会えて、とても嬉しい。たくさんの優しさと勇気をもらえて、凄く凄く感謝している。貴方のおかげで、今とっても幸せ。だから、ね……私なんかが、こんなことを言ってもいいのか分からないけど────」

 そこで一度言葉を切ると、私はお祈りのときみたいに両手を組んだ。

「────生まれてきてくれて、ありがとう。私は貴方の誕生を心の底から祝福します」

 神官様が洗礼の際に使う言葉を真似て、私は精一杯の想いを伝えた。
貴方は誰かに必要とされて生まれてきたのだと……望まれない子供なんかじゃないんだと、分かってほしくて。
他の誰がルカの誕生を呪っても、私だけは貴方の誕生を心から喜ぶ。
その決意の表れでもあった。

「……あー、クソ。こんなんで……チッ」

 目元を手で覆い隠してそっぽを向くルカは、何故か少し涙声だった。
また、いつものような覇気もない。

「ベアトリス、てめぇ……後で覚えてろよ。肉体を取り戻したら、速攻で頭をグシャグシャにしてやるからな」

 ビシッとこちらを指さして宣言し、ルカは身を翻した。

「んじゃ、さっさと寝ろよ。俺は建物の周りをグルッと回ってくる」

 そう言うが早いか、ルカは床へ沈むようにしてこの場を去る。

 珍しいわね、パトロールなんて。
もしかして、魔物の襲撃を警戒しているのかしら?

 などと思いつつ、私はコテリと首を傾げた。
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