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第二章
エルフ③
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『さて、そろそろ時間だな。ベアトリス、出来るだけ早く帰ってくるから少し待っていなさい』
どことなく優しい声色でそう言う父に、私はふわりと柔らかく微笑む。
「はい、お父様。どうか、お気をつけて」
その言葉を最後に、通信は切れた。
どうやら、ユリウスの魔力を全て使い切ってしまったようだ。
「はぁ……一時はどうなることかと思いましたが、何とか丸く収まりましたね」
『エルフと敵対せずに済んだ』と安堵しつつ、ユリウスは水晶を持ってよろよろと立ち上がる。
「それでは、私は仕事に戻りますので……」
「え、ええ。頑張ってね」
「はい、ありがとうございます……」
力無く微笑み、ユリウスはゆっくりと踵を返していった。
いつもより小さく見える彼の背中を前に、ルカは『The社畜だな』と呟く。
────と、ここでイージス卿以外の騎士達も剣を仕舞い、退室した。
「えっと……とりあえず、座ってお話しませんか?」
『良ければ、朝食もご一緒に』と言い、私はチラリと緑髪の美男子の顔色を窺う。
すると、彼は少し悩んだ末にコクリと頷いた。
さっさと席へつく彼を前に、私はベルを鳴らす。
そして、駆けつけた使用人に追加の料理を用意してもらうと、自分も席についた。
「イージス卿や皆は席を外してくれるかしら?」
壁際に待機する彼らへ声を掛けると、侍女や執事は直ぐに部屋を辞した。
でも、護衛騎士のイージス卿だけは『出来ません』とキッパリ断り……結局、扉を開けた状態にすることを条件に廊下へ出てもらう。
普段はこれで充分なのだけど、今日は声のトーンを落とすなり遠回しな表現を使うなりしないとダメね。
私じゃ、グランツ殿下やルカのように結界を張れないから。
などと考えていると、緑髪の美男子がチラリとイージス卿の方を盗み見る。
「……これは精霊魔法の手本だ」
わざとらしくそう言って、彼は緩い風を巻き起こした。
私達の周囲をグルグル回るような形で。
「これで、会話を聞かれる心配はない。この風によって、声の振動は掻き消される」
どことなく優しい声色でそう言う父に、私はふわりと柔らかく微笑む。
「はい、お父様。どうか、お気をつけて」
その言葉を最後に、通信は切れた。
どうやら、ユリウスの魔力を全て使い切ってしまったようだ。
「はぁ……一時はどうなることかと思いましたが、何とか丸く収まりましたね」
『エルフと敵対せずに済んだ』と安堵しつつ、ユリウスは水晶を持ってよろよろと立ち上がる。
「それでは、私は仕事に戻りますので……」
「え、ええ。頑張ってね」
「はい、ありがとうございます……」
力無く微笑み、ユリウスはゆっくりと踵を返していった。
いつもより小さく見える彼の背中を前に、ルカは『The社畜だな』と呟く。
────と、ここでイージス卿以外の騎士達も剣を仕舞い、退室した。
「えっと……とりあえず、座ってお話しませんか?」
『良ければ、朝食もご一緒に』と言い、私はチラリと緑髪の美男子の顔色を窺う。
すると、彼は少し悩んだ末にコクリと頷いた。
さっさと席へつく彼を前に、私はベルを鳴らす。
そして、駆けつけた使用人に追加の料理を用意してもらうと、自分も席についた。
「イージス卿や皆は席を外してくれるかしら?」
壁際に待機する彼らへ声を掛けると、侍女や執事は直ぐに部屋を辞した。
でも、護衛騎士のイージス卿だけは『出来ません』とキッパリ断り……結局、扉を開けた状態にすることを条件に廊下へ出てもらう。
普段はこれで充分なのだけど、今日は声のトーンを落とすなり遠回しな表現を使うなりしないとダメね。
私じゃ、グランツ殿下やルカのように結界を張れないから。
などと考えていると、緑髪の美男子がチラリとイージス卿の方を盗み見る。
「……これは精霊魔法の手本だ」
わざとらしくそう言って、彼は緩い風を巻き起こした。
私達の周囲をグルグル回るような形で。
「これで、会話を聞かれる心配はない。この風によって、声の振動は掻き消される」
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