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第二章

侵入者の正体②

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 先日協力関係を結んだとはいえ、まだまだ凝りは残っている筈……。
それでも、庇うというのはあの方に対して特別な思い入れでもあるのかしら?
いや、それはそれとして早く事態を収拾しなきゃ。
幸い、バハルが『私の客だ』と言ってくれたおかげで自然に庇える口実を得られたし。

 『さっきの状態じゃ、庇うに庇えなかったのよね』と思いつつ、私はイージス卿へ向き直る。

「私からもお願いするわ。剣を下ろしてちょうだい」

「ですが……」

「バハルの客は私の客も同然。責任はこちらで取るから……お願い」

 そっと眉尻を下げて懇願すると、イージス卿は『う~ん……』と唸り声を上げる。
緑髪の美男子と私を交互に見やり、悩ましげに眉を顰めた。
他の騎士達も、困ったように顔を見合わせている。
『公爵様がなんと言うか……』と狼狽える彼らを他所に、一人の青年が姿を現した。

「ちょっ……一体、何の騒ぎですか!?まさか、また侵入者……って、エルフ・・・!?」

 ユリウスは緑髪の美男子を見るなり、後ろに仰け反った。
『嘘……!?』と叫ぶ彼を前に、バハルは私の腕から降りる。

「貴方、エルフについて知っているの?」

「えっ?あぁ、はい。確か、圧倒的魔力量と数千年単位の寿命を持つ異種族ですよね?文献で何度か読んだことがあります。こうして、お姿を拝見するのは初めてですが……」

 『普段は人目につかない場所でひっそり暮らしている筈じゃ?』と零し、ユリウスは首を傾げる。
訳が分からないと態度で示す彼に対し、バハルは小さく相槌を打った。

「じゃあ、エルフが自然をこよなく愛し、精霊との親和性に優れているのは?」

「い、一応知ってますけど……」

「なら、話は早いわね。どうやら、彼は四季を司りし天の恵みであるベアトリス様に会いに来たらしいの。多分一エルフとして、季節の管理者をつき従える存在にご挨拶したかったんじゃないかしら?」

「な、なるほど……?」

 『まあ、理解出来る理屈ですね』と納得しつつ、ユリウスは姿勢を正す。
と同時に、顎へ手を当てて考え込んだ。

「絶大な力を持つエルフに喧嘩を売るのは、不味い……最悪、遠征どころではなくなる。でも、だからと言って、勝手に屋敷へ招き入れれば公爵様からどのような罰を下されるか分からない……」
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