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第一章
ダンス②
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『おほほほほ』と笑って誤魔化す彼らを前に、父はこちらへ視線を向けた。
「ベアトリス、小鳥の囀りが気になるか?」
「えっ?いえ……」
「本当か?無理して庇わなくていいんだぞ」
こちらの本心を探るようにじっと目を見つめ、父はコツンッと額同士を合わせる。
「優しさは美徳だが、時には厳しく躾なきゃいけない。一言『不快だった』と言ってくれれば、私が小鳥達を蹴散らしてこよう」
『娘のためなら、何でも出来る』と断言する父に、私はスッと目を細めた。
「お気持ちは嬉しいですが、本当に大丈夫です。それより、パーティーを楽しみましょう。私、今日のために礼儀作法やダンスを習い直してきたんですよ。お父様にその……たくさん褒めてほしくて」
こうやって素直な気持ちを口にするのは、まだ慣れてなくて……顔が熱くなる。
『子供みたいなワガママで呆れられていないかな?』と思案していると、父が表情を和らげた。
「お前は生きているだけで偉い」
「えっ……?」
「それなのに、礼儀作法やダンスも出来るなんて……もはや、神の領域に入る素晴らしさだ」
「お、お父様……?それはさすがに言い過ぎでは……?」
「ベアトリスは何をしても偉いし、素晴らしいし、愛らしい。誰よりも何よりも世界よりも尊い存在だ」
予想を遥かに上回る褒め言葉の数々に、私は何も言えなくなる。
だって、あまりにも恥ずかしくて。
もちろん嬉しい気持ちもあるが、こうも大袈裟に褒められると……狼狽えてしまう。
『お父様は至って、真剣だろうし……』と思案しつつ、私は両手で顔を覆った。
「あ、ありがとうございます……もう充分です」
「そうか?まだ思っていることの十分の一も言えていないが」
「それは……今度でお願いします」
『もうやめて』と叫ぶ羞恥心と、『ちょっと気になる』と考える好奇心が混ざり合い……私は先送りを提案してしまった。
我ながら変な対応だが、父は気にならなかったようで
「分かった」
と、二つ返事で了承する。
相も変わらず私に甘い彼は、『一気に言ったら、つまらないもんな』と何故か共感を示す。
────と、ここで最初のワルツの前奏が始まった。
「そろそろ、行くか」
「はい」
父の腕から降りて手を繋ぐと、私は会場の中央へ出た。
そこには既に同年代の男女が多く居て、みんなこちらをチラチラ見ている。
明らかに親子と分かるペアが出てきて、戸惑いを覚えているのだろう。
「ベアトリス」
父は不意に足を止め、人目も憚らず跪いた。
かと思えば、改めてこちらに手を差し出す。
礼儀作法やダンスを習い直したと言ったからか、普段省略しているマナーを守ってくれるようだ。
「私と踊ってくれないか?」
パートナーなのだから踊るのは当然なのに敢えて問い、父は表情を和らげる。
自分より遥かに大きくて丈夫な手を前に、私は柔らかく微笑んだ。
「はい、喜んで」
「ベアトリス、小鳥の囀りが気になるか?」
「えっ?いえ……」
「本当か?無理して庇わなくていいんだぞ」
こちらの本心を探るようにじっと目を見つめ、父はコツンッと額同士を合わせる。
「優しさは美徳だが、時には厳しく躾なきゃいけない。一言『不快だった』と言ってくれれば、私が小鳥達を蹴散らしてこよう」
『娘のためなら、何でも出来る』と断言する父に、私はスッと目を細めた。
「お気持ちは嬉しいですが、本当に大丈夫です。それより、パーティーを楽しみましょう。私、今日のために礼儀作法やダンスを習い直してきたんですよ。お父様にその……たくさん褒めてほしくて」
こうやって素直な気持ちを口にするのは、まだ慣れてなくて……顔が熱くなる。
『子供みたいなワガママで呆れられていないかな?』と思案していると、父が表情を和らげた。
「お前は生きているだけで偉い」
「えっ……?」
「それなのに、礼儀作法やダンスも出来るなんて……もはや、神の領域に入る素晴らしさだ」
「お、お父様……?それはさすがに言い過ぎでは……?」
「ベアトリスは何をしても偉いし、素晴らしいし、愛らしい。誰よりも何よりも世界よりも尊い存在だ」
予想を遥かに上回る褒め言葉の数々に、私は何も言えなくなる。
だって、あまりにも恥ずかしくて。
もちろん嬉しい気持ちもあるが、こうも大袈裟に褒められると……狼狽えてしまう。
『お父様は至って、真剣だろうし……』と思案しつつ、私は両手で顔を覆った。
「あ、ありがとうございます……もう充分です」
「そうか?まだ思っていることの十分の一も言えていないが」
「それは……今度でお願いします」
『もうやめて』と叫ぶ羞恥心と、『ちょっと気になる』と考える好奇心が混ざり合い……私は先送りを提案してしまった。
我ながら変な対応だが、父は気にならなかったようで
「分かった」
と、二つ返事で了承する。
相も変わらず私に甘い彼は、『一気に言ったら、つまらないもんな』と何故か共感を示す。
────と、ここで最初のワルツの前奏が始まった。
「そろそろ、行くか」
「はい」
父の腕から降りて手を繋ぐと、私は会場の中央へ出た。
そこには既に同年代の男女が多く居て、みんなこちらをチラチラ見ている。
明らかに親子と分かるペアが出てきて、戸惑いを覚えているのだろう。
「ベアトリス」
父は不意に足を止め、人目も憚らず跪いた。
かと思えば、改めてこちらに手を差し出す。
礼儀作法やダンスを習い直したと言ったからか、普段省略しているマナーを守ってくれるようだ。
「私と踊ってくれないか?」
パートナーなのだから踊るのは当然なのに敢えて問い、父は表情を和らげる。
自分より遥かに大きくて丈夫な手を前に、私は柔らかく微笑んだ。
「はい、喜んで」
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