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第一章

謹慎《ジェラルド side》①

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◇◆◇◆

「────ジェラルド殿下、本日もベアトリス様からのお返事はありません」

 そう言って、震えながら頭を下げるのは────従者のオスカー・ランベール・ワイツマンだった。
褐色の肌を青白く変化させ、こちらの顔色を窺う彼はすっかり怯えてしまっている。
というのも、横領に関する証拠を僕に握られているから。
こちらの機嫌を損ねれば、即座に衛兵へ突き出されると思っているのだろう。
そんな勿体ないこと、する筈ないのに。

 もちろん、こちらに不利となることをすれば話は別だけど。
でも、今は自由に使える駒が少ないからこれしきのことで処分を下すことはない。

 『結果的に損をするのは僕』と考えつつ、席を立った。
何の気なしに窓辺へ近寄り、そっと外の様子を眺める。
皇帝より謹慎を言い渡されてから、早一ヶ月半……僕は一度も部屋から出ていない。
おかげでベアトリス嬢に接触することはおろか、外部の情報を集めることも出来なかった。
まあ、オスカーから簡単な情報は手に入るけど。

「既に十通も手紙を送っているのに返信なし、か……第一皇子に手紙の送付を邪魔されている可能性は?」

「ジェラルド殿下からのお手紙は私自らお届けしているため、その可能性は低いかと……ただ、ベアトリス様からの返信はもしかしたら……」

「いや、そっちの心配は要らない。いくら、あの男でも公爵令嬢の手紙を横取りするような真似はしないだろう」

 ベアトリス嬢のバックに居る人物を考え、僕はトントンと窓の縁を指で叩く。

 考えられる可能性は二つ。
ベアトリス嬢が僕の手紙を無視しているか、あるいは────公爵が手紙を勝手に処分しているか。
個人的には、後者の可能性が高いと思う。
ベアトリス嬢のために使用人を全員解雇し、フィアンマ商会の子供向け商品を全て買い上げたくらいだから。
娘をかなり溺愛しているのは、間違いない。
だからこそ、ベアトリス嬢と関わりを持ちたいんだけど……

「結果的に得をしているのは、第一皇子の方なんだよな」
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