愛する婚約者に殺された公爵令嬢、死に戻りして光の公爵様(お父様)の溺愛に気づく 〜今度こそ、生きて幸せになります〜

あーもんど

文字の大きさ
上 下
36 / 265
第一章

講義①

しおりを挟む
「さて、雑談はこの辺にして講義を始めようか」

 『一応、家庭教師の仕事もこなさなきゃ』と言い、グランツ殿下は黒板の前に立った。
新しく書斎にした部屋をグルッと見回し、チョークを手に取る。

「とはいえ、前回の記憶があれば礼儀作法や座学は問題ないよね」

「ああ。俺の見立てが正しければ、貴族に必要な教養はもう身についている。わざわざ学び直す必要はないだろう」

 『このままでも問題ない』と太鼓判を押すルカに、グランツ殿下は相槌を打った。
かと思えば、おもむろに顎を撫でる。

「う~ん……じゃあ、やっぱり────身を守る手段や方法を教えた方が、良さそうだね」

「身を、守る……?」

 もっと専門的なことを学んだり、新しい分野に手を出したりするものだと思っていた私は目を剥く。
動揺のあまり身動きを取れずにいると、グランツ殿下がニッコリ微笑んだ。

「もちろん、君のことは守るよ。何に代えても、ね。でも────私達だって、四六時中ベアトリス嬢の傍に居られる訳じゃない」

「俺達の居ない間に、何かあったら……そのとき、もし一人だったら頼れるのは自分自身ということになる」

「そういう事態にならないよう極力頑張るけど、私達も人間だからね。完璧じゃない。だから、万が一に備えて身を守る術を身につけてほしいんだ」

 生存率を上げるためだと主張し、グランツ殿下は黒板に向き直る。
その隣で、ルカは用意された教科書を開いた。

「一番手っ取り早いのは、魔法を覚えることだけど……」

「あっ、ごめんなさい。私、魔法の才能は全くないみたいなの」

 空中に浮かぶ教科書を一瞥し、私はシュンと肩を落とす。
せっかく、二人が一生懸命考えてくれているのになんだか申し訳なくて……。
『私にもっと才能があれば……』と思案していると、ルカが不意にこちらへ手を伸ばした。

「魔法の才能が全くないってことは、ねぇーと思うぜ?だって、お前からずっと────膨大な魔力を感じているし」

「えっ?でも、マーフィー先生は確かに……」

「あの女の言うことなんて、信じるなよ」

 やれやれといった様子でかぶりを振り、ルカは頭上に手を翳す。
と同時に、目を瞑った。

 なんだろう?凄くムズムズする……。

 擽ったいとは少し違う感覚に首を傾げる中、ルカはパッと目を開けた。

「あー……なるほどなぁ。確かにこれだと、魔導師にはなれねぇーわ」

「や、やっぱり……」

 マーフィー先生は凄く意地悪で怖かったけど、自分の仕事はきっちりこなすタイプの人だから。
嘘をついているとは、思ってなかった。

「じゃあ、魔法は諦めて体術や剣術を……」

「いやいや、何言ってんだよ」

 思わずといった様子で言葉を遮り、ルカは大きく息を吐いた。
かと思えば、呆れたように肩を竦める。

「俺様は確かに『魔導師にはなれない』って言ったけど、『魔法の才能がない』とは言ってないぜ?」

「えっと……つまり?」

「条件さえ揃えば、お前も魔法を使える」

「!!」

 疑問形ですらない確信の籠った言葉に、私はハッと息を呑んだ。
『ほ、本当に……?』と瞳を揺らす私の前で、ルカは両腕を組む。

「いいか?ベアトリスの場合、魔力はちゃんとあるんだ。それも、かなり多く。ただ────無属性の魔力だから、通常の方法だと魔法を使えない。その理由は言わなくても、分かるよな?」
しおりを挟む
感想 118

あなたにおすすめの小説

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

【完結】え、別れましょう?

須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」 「は?え?別れましょう?」 何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。  ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?  だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。   ※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。 ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

〈完結〉毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

処理中です...