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第一章

協力者の正体③

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「やあ、こうして会うのは初めてだね。私は────グランツ・レイ・ルーチェ。一応、この国の第一皇子だよ。先日はウチの弟が失礼したね」

 『今日はお詫びのために来たんだ』と言い、グランツ殿下は優雅に一礼した。
皇族にも拘わらず、このように礼儀を尽くすのは偏に父が偉大な存在だから。
ちょっとへりくだりすぎている気もするが、先日の騒動を考えると妥当な対応に思えた────ものの、問題はそこじゃなくて……

 ルカの協力者って、第一皇子だったの!?

 第二皇子の行動を制限出来るくらいだから皇室の関係者であることは分かっていたが、まさかそんな大物だとは思ってなかった。
『そりゃあ、ルカも自信満々に大丈夫って言うよね』と驚いていると、グランツ殿下が頬を緩める。

「ベアトリス嬢は本当に愛らしい子だね。公爵が溺愛するのも、分かる気がするよ」

 『うんうん』と納得したように頷くグランツ殿下に対し、父は眉を顰めた。

「ベアトリスが愛らしいのは、当然のことです。わざわざ言わなくて、結構です。あと、勝手に話し掛けないでください」

「う、うん……?挨拶するのも、ダメなのかい?」

「はい、ウチの娘は人見知りなので。本来であれば、視界に入るのも腹立たしい……」

「お、おお……これは重症だね」

 若干頬を引き攣らせながら、グランツ殿下はまじまじと父を見つめた。
『本当にあの公爵なのかい……?』と驚く彼の前で、私はハッと正気を取り戻す。
と同時に、お辞儀した。

「申し遅れました、ベアトリス・レーツェル・バレンシュタインです。第二皇子の件は、その……ありがとうございました」

 昨日のことはもちろん、これまで足止めしてくれていたことも含めてお礼を述べた。
『ただでさえ、公務で忙しかっただろうに……』と思案する中、グランツ殿下は小さく首を横に振る。

「いやいや、私は当然のことをしたまでだよ。罵られる謂れはあっても、お礼を言われる謂れはないさ。弟の無作法を許してしまった時点で、私も同罪だからね」

 未然に防げなかったことを悔いているらしく、グランツ殿下は物凄く申し訳なさそうにしていた。
かと思えば、場の空気を変えるように明るく笑う。

「あっ、ちなみに今回はきちんと文書を送って正式に訪問している。そうしないと、公爵に追い返されてしまうと思って」

「……」

 図星だったのか、父はフイッと視線を逸らした。
案外分かりやすい反応に、グランツ殿下は『ほらね』と肩を竦める。

「それより、そろそろ食事にしないかい?昨日から何も食べてなくて、お腹ペコペコなんだ」

 『弟の後始末に追われていてさ』と嘆き、グランツ殿下は小さく肩を落とす。
すると、父が私を手招いた。

「ベアトリス、こっちに来なさい」

「は、はい」

 促されるまま父の傍に歩み寄ると、いつものように抱き上げられた。
『まだまだ軽いな』なんて言いながら隣の席に下ろし、父は優しく頭を撫でる。

「何が食べたい?」

「えっと……じゃあ、サラダを」

「分かった」

 慣れた手つきでサラダを取り分け、父はプチトマトを私の口元に運ぶ。
なので、つい食べてしまった────グランツ殿下より早く。
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