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第一章

帰る時間①

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「……ユリウス、大丈夫かしら?」

 かれこれ十五分ほど話し込んでいる緑髪の青年を見つめ、私は少し心配になる。
だって、相手は平気で人を殺せる男なんだから。
『さすがにここで暴れることはないと思うけど……』と考える中、ルカがふと眉を上げた。

「おっ?来たな」

 そう言って、ルカは右側の道路────帝都に繋がる大通りを見る。
────と、ここで金色に彩られた馬車が現れた。
かと思えば、公爵家の正門前で急停止する。

「えっ?あれって、もしかして皇室の……?」

「ああ、お迎えが来たみたいだな」

 『送ってやる手間が省けたな』と肩を竦め、ルカはニヤリと笑った。

「さあ、ガキはもう帰る時間だぞ」

 ヒラヒラと手を振って見送るルカは、非常に悪い顔をしていた。
『これじゃあ、まるで悪党みたいね』と苦笑する中、例の馬車から人が降りてくる。
太陽に反射して光る金髪を靡かせながら、彼はジェラルドに駆け寄った。
そこで何やらユリウスと話し込み、ジェラルドを小脇に抱えると────こちらにウィンクする。

「相変わらず、キザなやつだなぁ」

 『うげぇ……』と顔を顰め、ルカはしっしっ!と猫を追い払うような動作をした。
すると、男性は笑いながら肩を竦め、馬車に乗り込んでいく。

 あ、あれ……?もしかして、ルカのこと見えていた?
じゃあ、あの人が────逆行やジェラルドの対応に手を貸してくれた、協力者?

 鈍いながらも自分で結論を出し、私はルカに目を向けた。
真実を確かめたくてウズウズしている私に、彼は小さく笑う。

「多分、お前の想像通り」

 察しのいいルカは『鈍ちんなりに頑張ったじゃん』と言い、腰に手を当てた。

「ま、詳しいことは本人から聞けよ。そう遠くない未来に、会える筈だから」

 『あっちも直接話したいだろうし』と述べ、ルカは猛スピードで帰っていく馬車を見送る。

「もう一人の方はもうちょい、時間掛かるだろうけど」

 二人目の協力者についても軽く言及し、ルカはスッと目を細めた。
かと思えば、クルリと身を翻す。

「とりあえず一件落着ってことで、ゆっくり過ごそうぜ~」

 頭の後ろで腕を組み、ルカはソファの方へ戻っていく。
『とんだ、茶番だったぜ』と述べる彼に、私は苦笑を漏らした。
────と、ここでジェラルドの対応に追われていたユリウスが部屋を訪れる。
水晶のような丸い玉を持って。

「あの、実はこれから公爵様に第二皇子の件を報告しないといけないのですが……お嬢様の方から、言っていただけませんか?そうすれば、公爵様もあまり怒らない……筈」

 丸い玉をギュッと抱き締め、ユリウスはどこか遠い目をする。
『いや、やっぱり怒るよなぁ……』とボヤきながら。

「それは構わないけど……どうやって、報告するの?手紙?」

 『それなら、レターセットを用意しないと』と考える私に、ユリウスは小さく首を横に振った。

「いえ、今回はこちらの魔道具を使います」

 ────魔道具。
魔力をエネルギーにして動く物の総称で、種類は様々。
恐らく、今回使用するのは遠く離れた場所でも声や情景を共有出来る魔道具と思われる。
昔……と言っても逆行前だけど、そういった魔道具があるらしいという噂を小耳に挟んだから。

「通信用魔道具はかなりの魔力を消費するため基本緊急事態の時しか使わないのですが、今回は皇室絡みなので」

 『出来るだけ早く伝えた方がいい』と主張し、ユリウスはテーブルの上に魔道具を置いた。
かと思えば、そっと片手を翳す。

「私の魔力では、会話出来てもせいぜい二十~三十分程度なので簡潔にお願いします」

「わ、分かったわ。頑張る」

 なんだか急に責任が重くなり、私は軽い気持ちで引き受けたことを後悔した。
が、ジェラルドを追い返すために尽力してくれたユリウスからの頼みなので叶えたい。
『簡潔に……簡潔に……』と自分に言い聞かせながら、私はじっと魔道具を見つめた。
────と、ここで魔道具が仄かな輝きを放つ。

「そろそろ、あちらに繋がります」
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