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第一章
後悔《リエート side》③
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守る……とまで行かずとも、こっそり私に教えてくれれば対処出来たのに。
結果論に過ぎないとしても、どうしても考えてしまい……クシャリと顔を歪めた。
『一番の原因は私の怠慢と勇気のなさだというのに』と自責しつつ、天井を仰ぎ見る。
「はぁ……先導していたのは?」
「主に古株の者達です。奥様を甚く尊敬するあまり、お嬢様を逆恨みしていたらしく……」
「妻の想いを踏みにじっておいて尊敬、か……実に都合のいい言葉だな」
『そう言えば、許されると思っているのか?』と零し、私は強く手を握り締めた。
屈辱でしかない現状を憂う中、ユリウスは言葉を続ける。
「それで、他の……全く関係のない者達についてですが、彼らの動機は主に二種類ですね。トラブルに巻き込まれたくなかった派と────」
「────ベアトリスに割り当てた予算を使い込んでいた派、だろ」
先に答えを言うと、ユリウスは驚いたように息を呑んだ。
「ご存知でしたか」
「ああ。なんせ、ベアトリスの部屋には────玩具一つなかったからな」
報告に上がっていたクマのぬいぐるみや絵本の類いは一切なく……全体的にがらんとしていた。
『まるで宿のような……生活感のない部屋だった』と語る私に、ユリウスは眉尻を下げる。
「遊び盛りの子供から、何もかも取り上げていたんですね……」
『さぞお辛かったでしょう』と零し、ユリウスは寝室へ繋がる扉を見つめた。
きっと、ベアトリスのことを哀れんでいるのだろう。
「……それで、処理はどうなさいますか?」
ふとこちらに視線を戻したユリウスは、神妙な面持ちで問い掛けてきた。
わざわざ、聞かずとも分かっているだろうに。
「腐った部分は全部斬り捨てろ」
「畏まりました。では、使用人は総入れ替えということで」
普段なら仕事を増やす度グチグチ文句を言うユリウスも、今回ばかりは腹を立てているようで……あっさり面倒事を引き受ける。
『処罰の詳細はまた後日、話し合いましょう』と述べる彼に、私は小さく頷いた。
と同時に、あることを思い出す。
「そういえば────結局、家庭教師の髪を切り落としたのは誰だったんだ?魔法による攻撃を受けただの、なんだのと騒いでいたが」
「さあ?一応調べてはいるのですが、特に進展はないんですよね」
『自ら散髪したのでは?』と冗談交じりに言い、ユリウスは小さく肩を竦めた。
どうやら、完全にお手上げ状態らしい。
バレンシュタイン公爵家の周辺には、強力な結界を張っている。
よって、外部から魔法攻撃を行うのは不可能……。
内部の犯行と見るのが妥当だが、ベアトリスではなく家庭教師を狙ったのが引っ掛かる。
もしや、何者かがベアトリスを守ろうとしたのか?それで、あんな騒ぎを?
だとしたら、辻褄は合うが……些か強引すぎないか?
いや、守ってくれたのは有り難いが。
『あの騒ぎのおかげで、誤解も解けたことだし』と考え、私は一つ息を吐く。
「とりあえず、魔法の件は保留でいい。使用人達の取り調べを優先しろ」
「畏まりました」
恭しく頭を垂れて応じるユリウスに、私は『頼んだぞ』と言い、溜まった仕事を片付ける。
────ベアトリスと過ごす時間を確保するために。
結果論に過ぎないとしても、どうしても考えてしまい……クシャリと顔を歪めた。
『一番の原因は私の怠慢と勇気のなさだというのに』と自責しつつ、天井を仰ぎ見る。
「はぁ……先導していたのは?」
「主に古株の者達です。奥様を甚く尊敬するあまり、お嬢様を逆恨みしていたらしく……」
「妻の想いを踏みにじっておいて尊敬、か……実に都合のいい言葉だな」
『そう言えば、許されると思っているのか?』と零し、私は強く手を握り締めた。
屈辱でしかない現状を憂う中、ユリウスは言葉を続ける。
「それで、他の……全く関係のない者達についてですが、彼らの動機は主に二種類ですね。トラブルに巻き込まれたくなかった派と────」
「────ベアトリスに割り当てた予算を使い込んでいた派、だろ」
先に答えを言うと、ユリウスは驚いたように息を呑んだ。
「ご存知でしたか」
「ああ。なんせ、ベアトリスの部屋には────玩具一つなかったからな」
報告に上がっていたクマのぬいぐるみや絵本の類いは一切なく……全体的にがらんとしていた。
『まるで宿のような……生活感のない部屋だった』と語る私に、ユリウスは眉尻を下げる。
「遊び盛りの子供から、何もかも取り上げていたんですね……」
『さぞお辛かったでしょう』と零し、ユリウスは寝室へ繋がる扉を見つめた。
きっと、ベアトリスのことを哀れんでいるのだろう。
「……それで、処理はどうなさいますか?」
ふとこちらに視線を戻したユリウスは、神妙な面持ちで問い掛けてきた。
わざわざ、聞かずとも分かっているだろうに。
「腐った部分は全部斬り捨てろ」
「畏まりました。では、使用人は総入れ替えということで」
普段なら仕事を増やす度グチグチ文句を言うユリウスも、今回ばかりは腹を立てているようで……あっさり面倒事を引き受ける。
『処罰の詳細はまた後日、話し合いましょう』と述べる彼に、私は小さく頷いた。
と同時に、あることを思い出す。
「そういえば────結局、家庭教師の髪を切り落としたのは誰だったんだ?魔法による攻撃を受けただの、なんだのと騒いでいたが」
「さあ?一応調べてはいるのですが、特に進展はないんですよね」
『自ら散髪したのでは?』と冗談交じりに言い、ユリウスは小さく肩を竦めた。
どうやら、完全にお手上げ状態らしい。
バレンシュタイン公爵家の周辺には、強力な結界を張っている。
よって、外部から魔法攻撃を行うのは不可能……。
内部の犯行と見るのが妥当だが、ベアトリスではなく家庭教師を狙ったのが引っ掛かる。
もしや、何者かがベアトリスを守ろうとしたのか?それで、あんな騒ぎを?
だとしたら、辻褄は合うが……些か強引すぎないか?
いや、守ってくれたのは有り難いが。
『あの騒ぎのおかげで、誤解も解けたことだし』と考え、私は一つ息を吐く。
「とりあえず、魔法の件は保留でいい。使用人達の取り調べを優先しろ」
「畏まりました」
恭しく頭を垂れて応じるユリウスに、私は『頼んだぞ』と言い、溜まった仕事を片付ける。
────ベアトリスと過ごす時間を確保するために。
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