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予想以上に気性の荒いパトリシア嬢を前に、私は淡々と言葉を紡ぐ。
「確かに力の源の証明は、出来ていないわ。でも、そのことも含めて全面的に神の力だと認める旨を皇帝陛下や教皇聖下より、文書で頂いている。それらの証言をひっくり返すような事実でも出てこない限り、私をインチキだと決めつけることは出来ないわ」
『よって、この拘束は不当』と言い切り、騎士達の動きを牽制する。
案の定とでも言うべきか……事情を全く知らずに来たらしく、鎧を着た屈強な男達は狼狽えた。
トラヴィス殿下の命令に盲目的に従うべきか否か迷い、忙しなく視線を動かす。
落ち着かない様子の彼らを前に、トラヴィス殿下は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
『余計なことを……!』とでも言いたげな目でこちらを睨みつけ、黙りこくる。
この場になんとも言えない空気が流れる中────動きを見せたのは、パトリシア嬢だった。
「────か、神のお告げよ!教理に背く貴方を断罪しなさいって、言われたの!」
トラヴィス殿下や騎士達を庇うように前へ出ると、彼女は真っ直ぐにこちらを見つめ返す。
『もう後には引けない』と判断したのか、最後の悪足掻きを披露した。
苦し紛れに吐き出したであろう反論を前に、私は思わず失笑する。
『ついに神の名まで使うようになったか』と。
本当に愚かな人。
中央神殿で、神に関する嘘を吐くなんて……いくら貴族と言えど、許されない行為よ。
公爵夫人のために出来るだけ穏便に済ませようと思ったけど、気が変わった。
きっちり、お灸を据えることにしましょう。
『さすがに看過出来ない』と思い、私は気持ちを切り替える。
そして、『何がおかしいの!』と喚くパトリシア嬢と青ざめる神官、渋い顔のトラヴィス殿下を順番に見つめた。
徐々に張り詰めていく空気を肌で感じながら、私はニコッと笑う。
「私を断罪するのが神のお告げですって?なら────本人を呼んでみましょうか」
こちらの怒りを表すかのようにわざと敬語で喋り、私はクルリと身を翻した。
唯一神ヴァルテンの姿を象った石像にそっと近づき、横髪に挿していたカサブランカの花を手に取る。
神聖力を帯びたおかげでまだ元気なソレを石像の足元に置き、供物として捧げた。
本当は血や肉の方がいいのだけど、長時間降臨させる訳じゃないから、問題ない筈。
もし、供物として不十分であれば神聖力を使って補おう。
などと考えながら、私は膝をついた。
両手を組んでおもむろに目を閉じる私は、儀式に必要な呪文を口にする。
自分でも聞き取れないような小声で。
まあ、仮に聞き取れたとしても普通の人間では発音出来ないだろうが……だって、全部神語だから。
『神に許された者しか喋れない言語なのよね』と考える中、私は目を開ける。
その瞬間────唯一神ヴァルテンの姿を象った石像が動き出し、色を帯びた。
と同時に、生命体らしい呼吸音と心音を響かせる。
「いらっしゃい、ヴァルテン。よく来てくれたわね」
石像という仮初の体を借りて降臨したヴァルテンに、私は軽く挨拶した。
すると、彼はニッコリ笑ってこちらへ手を差し伸べる。
「面倒なものに絡まれて災難だったね、オリアナ」
『神の住む空間からずっと見ていたよ』と言って、ヴァルテンはパライバトルマリンの瞳を細めた。
『お気の毒~』と軽快な口調で述べる彼を前に、私は神聖文字のタトゥーが入れられた手を掴む。
石像だったにも拘わらずきちんと温もりのある彼にグイッと引っ張られ、立ち上がった。
と同時に、あんぐりと口を開けて固まる周囲の人々へ目をやる。
『信じられない』とでも言いたげな表情ね。
でも、目の前に居る人物はヴァルテン本人で間違いないわ。
それは貴方達も分かっているでしょう?
だって────唯一、神聖文字の使用を許された石像に憑依したのだから。
ヴァルテンの二の腕から手の甲にかけて刻まれたタトゥーは、基本複製・再現不可。
体に彫ったり、絵に描いたりしようとしても出来ない。
頭の中が真っ白になって、作業の手を止めてしまうから。
なので、ヴァルテンの石像や絵画はタトゥーの部分を省略したり、適当な模様で誤魔化したりしている。
────聖女専用の祈祷室にある、この石像を除いて。
これだけは特別で、ヴァルテンのタトゥーを正確に反映出来ていた。
そのため、ヴァルテンを降臨させる際はこの石像に憑依させる形を取っている。
生身での降臨は多くの供物を捧げなければ、出来ないから。
リスクが大き過ぎる。
「さて、本人も登場したことだし、事実確認を始めしましょうか」
「確かに力の源の証明は、出来ていないわ。でも、そのことも含めて全面的に神の力だと認める旨を皇帝陛下や教皇聖下より、文書で頂いている。それらの証言をひっくり返すような事実でも出てこない限り、私をインチキだと決めつけることは出来ないわ」
『よって、この拘束は不当』と言い切り、騎士達の動きを牽制する。
案の定とでも言うべきか……事情を全く知らずに来たらしく、鎧を着た屈強な男達は狼狽えた。
トラヴィス殿下の命令に盲目的に従うべきか否か迷い、忙しなく視線を動かす。
落ち着かない様子の彼らを前に、トラヴィス殿下は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
『余計なことを……!』とでも言いたげな目でこちらを睨みつけ、黙りこくる。
この場になんとも言えない空気が流れる中────動きを見せたのは、パトリシア嬢だった。
「────か、神のお告げよ!教理に背く貴方を断罪しなさいって、言われたの!」
トラヴィス殿下や騎士達を庇うように前へ出ると、彼女は真っ直ぐにこちらを見つめ返す。
『もう後には引けない』と判断したのか、最後の悪足掻きを披露した。
苦し紛れに吐き出したであろう反論を前に、私は思わず失笑する。
『ついに神の名まで使うようになったか』と。
本当に愚かな人。
中央神殿で、神に関する嘘を吐くなんて……いくら貴族と言えど、許されない行為よ。
公爵夫人のために出来るだけ穏便に済ませようと思ったけど、気が変わった。
きっちり、お灸を据えることにしましょう。
『さすがに看過出来ない』と思い、私は気持ちを切り替える。
そして、『何がおかしいの!』と喚くパトリシア嬢と青ざめる神官、渋い顔のトラヴィス殿下を順番に見つめた。
徐々に張り詰めていく空気を肌で感じながら、私はニコッと笑う。
「私を断罪するのが神のお告げですって?なら────本人を呼んでみましょうか」
こちらの怒りを表すかのようにわざと敬語で喋り、私はクルリと身を翻した。
唯一神ヴァルテンの姿を象った石像にそっと近づき、横髪に挿していたカサブランカの花を手に取る。
神聖力を帯びたおかげでまだ元気なソレを石像の足元に置き、供物として捧げた。
本当は血や肉の方がいいのだけど、長時間降臨させる訳じゃないから、問題ない筈。
もし、供物として不十分であれば神聖力を使って補おう。
などと考えながら、私は膝をついた。
両手を組んでおもむろに目を閉じる私は、儀式に必要な呪文を口にする。
自分でも聞き取れないような小声で。
まあ、仮に聞き取れたとしても普通の人間では発音出来ないだろうが……だって、全部神語だから。
『神に許された者しか喋れない言語なのよね』と考える中、私は目を開ける。
その瞬間────唯一神ヴァルテンの姿を象った石像が動き出し、色を帯びた。
と同時に、生命体らしい呼吸音と心音を響かせる。
「いらっしゃい、ヴァルテン。よく来てくれたわね」
石像という仮初の体を借りて降臨したヴァルテンに、私は軽く挨拶した。
すると、彼はニッコリ笑ってこちらへ手を差し伸べる。
「面倒なものに絡まれて災難だったね、オリアナ」
『神の住む空間からずっと見ていたよ』と言って、ヴァルテンはパライバトルマリンの瞳を細めた。
『お気の毒~』と軽快な口調で述べる彼を前に、私は神聖文字のタトゥーが入れられた手を掴む。
石像だったにも拘わらずきちんと温もりのある彼にグイッと引っ張られ、立ち上がった。
と同時に、あんぐりと口を開けて固まる周囲の人々へ目をやる。
『信じられない』とでも言いたげな表情ね。
でも、目の前に居る人物はヴァルテン本人で間違いないわ。
それは貴方達も分かっているでしょう?
だって────唯一、神聖文字の使用を許された石像に憑依したのだから。
ヴァルテンの二の腕から手の甲にかけて刻まれたタトゥーは、基本複製・再現不可。
体に彫ったり、絵に描いたりしようとしても出来ない。
頭の中が真っ白になって、作業の手を止めてしまうから。
なので、ヴァルテンの石像や絵画はタトゥーの部分を省略したり、適当な模様で誤魔化したりしている。
────聖女専用の祈祷室にある、この石像を除いて。
これだけは特別で、ヴァルテンのタトゥーを正確に反映出来ていた。
そのため、ヴァルテンを降臨させる際はこの石像に憑依させる形を取っている。
生身での降臨は多くの供物を捧げなければ、出来ないから。
リスクが大き過ぎる。
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