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第二章
リズベットの不満
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「では────さらばだ、異世界人。せいぜい、長生きしろよ」
『せっかく助けてやったんだから』と言い、私は嫣然と笑った。
と同時に、魔法陣は発動し、眩い光を放つ。
直視出来ない光を前に、私は一度目を瞑り……数秒後、また開く。
すると、そこにはもう異世界人達の姿はなく、いつもの風景が広がっていた。
「さて、ジーク達に異世界人の帰還を報告するか」
誰に言うでもなくそう呟くと、私はクルリと身を翻す。
その途端、景色は屋外から室内に切り替わり────リズベットに詰め寄られるジークの様子が目に入った。
「な、ん、で!貴方みたいなチンチクリンが、恩師様の伴侶になっているんですか!私、納得行きません!」
プクッと頬を膨らませ、深紅の瞳に不満を滲ませるリズベットは『不釣り合いです!』と非難する。
敵対心剥き出しな彼女を前に、私は『またか……』と呆れ返った。
というのも、リズベットとジーク達を引き合わせた際、自己紹介を聞くなり発狂していたため。
とりあえずその場は力技で収めたものの、根本的解決は難しく……いつも、グチグチと文句を言っている。
だから、最近は極力ジークの傍に居てリズベットを牽制しているんだが……さすがに二十四時間守るのは、厳しい。
『一応、会う度シメているんだがな……』と溜め息を零し、私はリズベットの髪を引っ掴む。
「いい加減にしろ。私の結婚など、貴様には関係のないことだろ」
「あります!大ありです!だって、私も恩師様のこと大好きですもん!結婚したいです!」
「却下だ」
「何でですかぁぁぁぁあああ!?このチンチクリンが良くて、私がダメなんて……!そんなの有り得ないですぅぅぅうううう!」
髪を思い切り引っ張られても微動だにしないリズベットは、ギャーギャー騒ぐ。
相も変わらずうるさい弟子に辟易していると、彼女は勢いよく膝をついた。
「せめて、理由を教えてくださいよぉぉぉぉおおおお!」
私の足に縋り付いて泣き喚き、リズベットはガンガンと床に頭を打ち付ける。
『私の方が絶対スペック高いのにぃ!』と絶叫しながら。
「理由なんて、特にないが。ただ、『こいつなら、夫にしてやってもいい』と思っただけだ」
「えぇ……!?」
理屈ではなく感覚で選んだと知り、リズベットは頭を抱え込む。
『何をどう努力すればいいの……!?』と悩む彼女の前で、私は自身の顎を撫でた。
「まあ、強いて言うならジークが可愛かったからだな」
「私だって、可愛いです!見てください!この美貌を!」
勢いよく顔を上げ、リズベットは頬に手を添える。
と同時に、ウィンクした。
『まさに絶世の美少女!』と自画自賛する彼女を前に、私は
「趣味じゃない」
と、バッサリ切り捨てた。
その途端、リズベットは『そんなぁぁぁあああ!』と大号泣するが……私は全く意に介さず、冷めた目で彼女を見下ろす。
「第一、私達は女同士だろう」
『恋愛対象外じゃないか』と告げると、リズベットは口先を尖らせた。
「恋愛に性別は関係ありません!」
「それはそうだな。たとえ、貴様が異性でも私は恋愛対象として見なかっただろうし」
「くっ……!そのカウンター口撃は予想していませんでした!」
自身の胸を押さえて苦しむリズベットは、『辛辣すぎるー!』と文句を垂れる。
でも、いい加減こちらも我慢の限界だったので一切同情しなかった。
「とにかく、貴様との結婚も恋愛も有り得ない。だから、諦めろ。そして、ジークに八つ当たりするな」
「うぅ……!でもぉ……!」
しゃくり上げながらもまだ不満を漏らそうとするリズベットに、私はやれやれと肩を竦める。
この聞き分けの悪い弟子をどう説得しようか悩んでいると、不意に部屋の扉をノックされた。
「入れ」
「えっ?あっ、失礼します」
ジークの部屋なのに私の声がしたからか、訪問者は若干困惑するものの、一先ず扉を開けた。
と同時に、謎の三角関係を見て『おっと……』と苦笑いする。
「お、お取り込み中なら出直しますが……」
「俺も……」
「わ、我々も……」
アリシア、アラン、リカルド、セザールの四人は入室せずにこちらの様子を窺う。
『別に急ぎの案件じゃありませんし……』と零す彼らの前で、私はドカッとソファに腰掛けた。
まだ何か言いたげなリズベットを足蹴にしながら。
「構わん。入れ」
「「「し、失礼します……」」」
物凄く気まずそうな様子で一礼し、四人は中へ足を踏み入れた。
『何の罰ゲームだ、これ……』と呟くアランを他所に、セザールが扉を閉める。
「それで、用件はなんだ?」
執務机の前に居るジークを手招きしながら、私は並んで待機する四人へ問い掛けた。
すると、彼らは質問に答えようと口を開くが……
「────やあ、魔導師。元気だったかい?」
ジーク達ではない男性の声によって、遮られた。
驚いて固まる彼らを他所に、私とリズベットは顔を顰める。
声の主が誰なのか、知っているため。
「チッ……!まさか、こんなに早く接触してくるとは……別の神の領域を侵すリスクは、貴様も重々承知しているよな?────クソ皇帝」
「その名で呼ばれるのは、本当に久しぶりだなぁ……」
『懐かしい』と零すクソ皇帝は、少しばかり声を弾ませる。
「君や仲間と共に、旅していた時のことを思い出すよ」
「そうか。私はそんな昔のこと、とっくに忘れたが」
「ははっ。嘘ばっかり。君は数千年前の出来事も、鮮明に思い出せるじゃないか。あぁ、もしかして────憑依したことで、その記憶力の良さを失ってしまったのかい?」
私の研究資料から事情はおおよそ把握しているのか、クソ皇帝はサラリと憑依を指摘した。
その瞬間、この場の空気は凍りつく。
そりゃあ、そうだ。ジーク達には、一切何も言ってなかったのだから。
『憑依って……?』と顔を見合わせる彼らの前で、私は額に手を当てた。
恐らく、クソ皇帝はわざと憑依や前世のことを喋っている。
そうすることで、今世の私の居場所をなくすつもりなんだ。
リズベットの言う通り、私を取り戻すことが目的なら……この世界の住民に拒絶された方が、何かと都合がいいため。
『全く……この腹黒さは昔から変わらんな』と思案しつつ、私は部屋全体に結界を展開していく。
クソ皇帝からの接触を断絶するために。
でも、相手は神なのでそう簡単に行かず……凄まじい妨害と反発を受けた。
まあ、これでもマシな方だが。
ここが完全にあいつの領域なら、もっと手を焼いたことだろう。
『結界完成まで、あと四十秒くらいか』と考える中、クソ皇帝は
「神にも勝るその力、本当に忌まわしいな……それさえなければ、君は今頃僕の花嫁になっていただろうに」
と、恨み言を吐いた。
無理やり自分のものに出来ない現実を憂い、落ち込んでいるようだ。
「残念だが、貴様のものになる未来は絶対に有り得ない」
「そう断言するのは、まだ早いと思うけど。だって、僕なら君の悲願を叶えられるからね」
自信満々にそう言い放ち、クソ皇帝はクスリと笑みを漏らした。
『悲願……?』と疑問に思うリズベット達の前で、彼は更に言葉を続ける。
「君は────過去に戻って、やり直したいことがあるのだろう?だから、次元を操る怪物である魔王の討伐に参加し、僕達と旅をした。魔王を研究すれば、何か手掛かりを掴めるかもしれないと思ったから。まあ、結果は空振りだったみたいだけど」
「……貴様、地下の研究室まで調べたのか?」
『あそこは幾重もの魔法で徹底的に隠しておいた筈……』と訝しみ、眉を顰める。
だって、弟子のリズベットにすら教えていない場所だったから。
「地下だけじゃないよ。君の痕跡がある場所全てを暴き、調べたんだ。その中には、もちろん────君の生まれ育った場所もある」
ちょっと得意げになって語るクソ皇帝に、私は────尋常じゃないほどの殺意と敵意を覚える。
身の内に秘めていた魔力を感情の赴くまま垂れ流し、ゆっくりと席を立った。
途端に、この場の空気が重苦しくなるものの……今の私にソレを気にする余裕はない。
「貴様────私達の家に入ったのか?」
『せっかく助けてやったんだから』と言い、私は嫣然と笑った。
と同時に、魔法陣は発動し、眩い光を放つ。
直視出来ない光を前に、私は一度目を瞑り……数秒後、また開く。
すると、そこにはもう異世界人達の姿はなく、いつもの風景が広がっていた。
「さて、ジーク達に異世界人の帰還を報告するか」
誰に言うでもなくそう呟くと、私はクルリと身を翻す。
その途端、景色は屋外から室内に切り替わり────リズベットに詰め寄られるジークの様子が目に入った。
「な、ん、で!貴方みたいなチンチクリンが、恩師様の伴侶になっているんですか!私、納得行きません!」
プクッと頬を膨らませ、深紅の瞳に不満を滲ませるリズベットは『不釣り合いです!』と非難する。
敵対心剥き出しな彼女を前に、私は『またか……』と呆れ返った。
というのも、リズベットとジーク達を引き合わせた際、自己紹介を聞くなり発狂していたため。
とりあえずその場は力技で収めたものの、根本的解決は難しく……いつも、グチグチと文句を言っている。
だから、最近は極力ジークの傍に居てリズベットを牽制しているんだが……さすがに二十四時間守るのは、厳しい。
『一応、会う度シメているんだがな……』と溜め息を零し、私はリズベットの髪を引っ掴む。
「いい加減にしろ。私の結婚など、貴様には関係のないことだろ」
「あります!大ありです!だって、私も恩師様のこと大好きですもん!結婚したいです!」
「却下だ」
「何でですかぁぁぁぁあああ!?このチンチクリンが良くて、私がダメなんて……!そんなの有り得ないですぅぅぅうううう!」
髪を思い切り引っ張られても微動だにしないリズベットは、ギャーギャー騒ぐ。
相も変わらずうるさい弟子に辟易していると、彼女は勢いよく膝をついた。
「せめて、理由を教えてくださいよぉぉぉぉおおおお!」
私の足に縋り付いて泣き喚き、リズベットはガンガンと床に頭を打ち付ける。
『私の方が絶対スペック高いのにぃ!』と絶叫しながら。
「理由なんて、特にないが。ただ、『こいつなら、夫にしてやってもいい』と思っただけだ」
「えぇ……!?」
理屈ではなく感覚で選んだと知り、リズベットは頭を抱え込む。
『何をどう努力すればいいの……!?』と悩む彼女の前で、私は自身の顎を撫でた。
「まあ、強いて言うならジークが可愛かったからだな」
「私だって、可愛いです!見てください!この美貌を!」
勢いよく顔を上げ、リズベットは頬に手を添える。
と同時に、ウィンクした。
『まさに絶世の美少女!』と自画自賛する彼女を前に、私は
「趣味じゃない」
と、バッサリ切り捨てた。
その途端、リズベットは『そんなぁぁぁあああ!』と大号泣するが……私は全く意に介さず、冷めた目で彼女を見下ろす。
「第一、私達は女同士だろう」
『恋愛対象外じゃないか』と告げると、リズベットは口先を尖らせた。
「恋愛に性別は関係ありません!」
「それはそうだな。たとえ、貴様が異性でも私は恋愛対象として見なかっただろうし」
「くっ……!そのカウンター口撃は予想していませんでした!」
自身の胸を押さえて苦しむリズベットは、『辛辣すぎるー!』と文句を垂れる。
でも、いい加減こちらも我慢の限界だったので一切同情しなかった。
「とにかく、貴様との結婚も恋愛も有り得ない。だから、諦めろ。そして、ジークに八つ当たりするな」
「うぅ……!でもぉ……!」
しゃくり上げながらもまだ不満を漏らそうとするリズベットに、私はやれやれと肩を竦める。
この聞き分けの悪い弟子をどう説得しようか悩んでいると、不意に部屋の扉をノックされた。
「入れ」
「えっ?あっ、失礼します」
ジークの部屋なのに私の声がしたからか、訪問者は若干困惑するものの、一先ず扉を開けた。
と同時に、謎の三角関係を見て『おっと……』と苦笑いする。
「お、お取り込み中なら出直しますが……」
「俺も……」
「わ、我々も……」
アリシア、アラン、リカルド、セザールの四人は入室せずにこちらの様子を窺う。
『別に急ぎの案件じゃありませんし……』と零す彼らの前で、私はドカッとソファに腰掛けた。
まだ何か言いたげなリズベットを足蹴にしながら。
「構わん。入れ」
「「「し、失礼します……」」」
物凄く気まずそうな様子で一礼し、四人は中へ足を踏み入れた。
『何の罰ゲームだ、これ……』と呟くアランを他所に、セザールが扉を閉める。
「それで、用件はなんだ?」
執務机の前に居るジークを手招きしながら、私は並んで待機する四人へ問い掛けた。
すると、彼らは質問に答えようと口を開くが……
「────やあ、魔導師。元気だったかい?」
ジーク達ではない男性の声によって、遮られた。
驚いて固まる彼らを他所に、私とリズベットは顔を顰める。
声の主が誰なのか、知っているため。
「チッ……!まさか、こんなに早く接触してくるとは……別の神の領域を侵すリスクは、貴様も重々承知しているよな?────クソ皇帝」
「その名で呼ばれるのは、本当に久しぶりだなぁ……」
『懐かしい』と零すクソ皇帝は、少しばかり声を弾ませる。
「君や仲間と共に、旅していた時のことを思い出すよ」
「そうか。私はそんな昔のこと、とっくに忘れたが」
「ははっ。嘘ばっかり。君は数千年前の出来事も、鮮明に思い出せるじゃないか。あぁ、もしかして────憑依したことで、その記憶力の良さを失ってしまったのかい?」
私の研究資料から事情はおおよそ把握しているのか、クソ皇帝はサラリと憑依を指摘した。
その瞬間、この場の空気は凍りつく。
そりゃあ、そうだ。ジーク達には、一切何も言ってなかったのだから。
『憑依って……?』と顔を見合わせる彼らの前で、私は額に手を当てた。
恐らく、クソ皇帝はわざと憑依や前世のことを喋っている。
そうすることで、今世の私の居場所をなくすつもりなんだ。
リズベットの言う通り、私を取り戻すことが目的なら……この世界の住民に拒絶された方が、何かと都合がいいため。
『全く……この腹黒さは昔から変わらんな』と思案しつつ、私は部屋全体に結界を展開していく。
クソ皇帝からの接触を断絶するために。
でも、相手は神なのでそう簡単に行かず……凄まじい妨害と反発を受けた。
まあ、これでもマシな方だが。
ここが完全にあいつの領域なら、もっと手を焼いたことだろう。
『結界完成まで、あと四十秒くらいか』と考える中、クソ皇帝は
「神にも勝るその力、本当に忌まわしいな……それさえなければ、君は今頃僕の花嫁になっていただろうに」
と、恨み言を吐いた。
無理やり自分のものに出来ない現実を憂い、落ち込んでいるようだ。
「残念だが、貴様のものになる未来は絶対に有り得ない」
「そう断言するのは、まだ早いと思うけど。だって、僕なら君の悲願を叶えられるからね」
自信満々にそう言い放ち、クソ皇帝はクスリと笑みを漏らした。
『悲願……?』と疑問に思うリズベット達の前で、彼は更に言葉を続ける。
「君は────過去に戻って、やり直したいことがあるのだろう?だから、次元を操る怪物である魔王の討伐に参加し、僕達と旅をした。魔王を研究すれば、何か手掛かりを掴めるかもしれないと思ったから。まあ、結果は空振りだったみたいだけど」
「……貴様、地下の研究室まで調べたのか?」
『あそこは幾重もの魔法で徹底的に隠しておいた筈……』と訝しみ、眉を顰める。
だって、弟子のリズベットにすら教えていない場所だったから。
「地下だけじゃないよ。君の痕跡がある場所全てを暴き、調べたんだ。その中には、もちろん────君の生まれ育った場所もある」
ちょっと得意げになって語るクソ皇帝に、私は────尋常じゃないほどの殺意と敵意を覚える。
身の内に秘めていた魔力を感情の赴くまま垂れ流し、ゆっくりと席を立った。
途端に、この場の空気が重苦しくなるものの……今の私にソレを気にする余裕はない。
「貴様────私達の家に入ったのか?」
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