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第一章
襲撃《ジェシカ side》
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◇◆◇◆
ん……?何かしら……?足がなんかチクチクして……。
ふと意識が浮上し、身を捩る私はおもむろに目を開けた。
真っ暗な室内を見回し、起き上がると、足を確認しようとする。
────と、ここでいきなり部屋が明るくなった。
どこからともなく現れた、光の玉によって。
「やっと起きたか、ジェシカ。待ちくたびれたぞ」
そう言って、血の着いた氷塊を持ち上げる人物はフードを取り払う。
「貴様の目覚めが悪すぎて、一人遊びをする羽目になったじゃないか」
不満げに唇を尖らせる、侵入者の幼い少女は……イザベラは氷塊の突き出た部分を押し付けてきた────私の足裏に。
そうなると、当然皮膚に刺さる訳で……
「あああああぁぁぁぁぁああ!!!!!」
私は絶叫した。
単純に『痛いから』というのもあるが、この状況が……目の前の少女がひたすら怖くて。
ショックを隠し切れなかった。
「だ、誰か……!誰か、来て!イザベラを追い出して……!」
血に染まった足を引き摺るようにしてベッドから飛び降り、私は人を呼ぶ。
────が、どういう訳か誰も来ない。
これほどの声量で叫んでいるにも拘わらず。
『一体、どういうこと……!?』と混乱していると、イザベラが氷塊を投げ捨てた。
その音に、思わずビクッと反応してしまう。
「助けを呼んでも、無駄だ。誰も来ない。結界で音を遮断しているからな」
『ほら、よく見てみろ』と言い、イザベラは光の玉の効力を強める。
すると、床のシミを数えられるほど明るくなり……半透明の結界が目に入った。
私はそこまで魔法に詳しい訳じゃないため、細かいことは分からないが……内外の空間を隔てているのは分かる。
これ、多分……音だけじゃなくて、物質の出入りも制限しているわ。
足りない頭と知識で状況を理解し、私はサァーッと血の気が引いた。
不安と恐怖に戦きながらイザベラの方を向き、目に涙を溜める。
いくら私でも、相当不味い事態に陥っていることは理解出来た。
「い、イザベラ……話し合いましょう?」
「何を、だ?」
「こ、これからの私達についてよ……」
弱々しく答える私に対し、イザベラは愉快げに目を細めた。
「具体的には?」
「か、カルロスに貴方の境遇を改善するよう説得してみる。もちろん、今日のことだって誰にも言わないわ。だから、変な気は起こさず屋敷へ帰ってちょうだい。ねっ……?」
縋るような目でイザベラを見つめ、私は何とか笑みを作る。
『こちらに敵意はない』と示すために。
もし、戦闘にでも発展したら一巻の終わりのため。
アルバート家はもちろん、ギャレット家の血を引いている訳でもない私ではイザベラに敵わない。
だから、何としてでもこの場を切り抜けなくては。
頭に巻かれた包帯を押さえ、私は『一騎打ちになったら、勝ち目がない』と考える。
今日の昼間に見せた魔法を思い返す私の前で、イザベラは『くくっ……!』と低く笑った。
「あんな小物の説得なぞ、無意味だ。私からすれば、何の価値もない」
「えっ……?」
『交渉のカードにすらなり得ない』と語るイザベラに、私は目を白黒させる。
てっきり、境遇改善のためこのような暴挙に及んだのかと思っていたから。
『じゃあ、復讐……?』と思案する私を前に、イザベラはコツンッと足のつま先で床を軽く突いた。
その途端、ボワァッと上へ広がるようにして炎が舞う。
「いいか?よく聞け。私は今日────貴様らギャレット家を屠るために、ここへ来たんだ」
『お家断絶ってやつだな』と言ってのけるイザベラに、迷いはなかった。
恐らく、本気で私達を殺すつもりなのだろう。
じょ、冗談じゃない……!やっとアルバート家を手に入れられるところまで来たのに、死んで堪るものですか!
『あの屋敷も、お金も、名声も私達のものよ!』と奮起しながら、床を這って逃げる。
────が、当然直ぐに追いつかれ……髪の毛を乱暴に掴まれた。
「後がつっかえているんだ、あまり手間を掛けさせるな」
無機質な声で淡々と喋り、イザベラは簡単そうに炎を操る。
すると、瞬く間に燃え広がり……退路を絶たれた。
これでは、まともに身動きを取れない。
炎の海と化した室内を見回し、私はカタカタと震えた。
所詮は子供?魔法に目覚めたばかりだから、大丈夫?力をつける前に消そう?
そんな甘い考えで、倒せる相手じゃないわ……!
この子はもう既に────アルバート家の化け物よ……!
身を持ってアルバート家の血筋の恐ろしさを知っている私は、ハラハラと涙を流す。
だって、イザベラの顔が────かつて、私を半殺しにした前公爵とそっくりだったから。
実は昔、前公爵に横恋慕していた時期があり、彼の婚約者である前公爵夫人にちょっかいを掛けたことがあった。
やったのは、ドレスにワインを掛けるという典型的なものだが……前公爵の逆鱗に触れてしまった。
それで、顔の形も分からないほどボロボロに……。
幸い、前公爵夫人の計らいにより傷は治してもらえたが……あの時の体験はきっと一生忘れないだろう。
脳裏に染み付いた記憶を呼び起こしながら、私は黒い瞳を見つめ返す。
一瞬でも目を離したら、丸呑みにされそうで怖かったから。
「い、嫌……待って……謝るから……」
蚊の鳴くような声で嘆願し、私は『許して』と乞う。
────が、返ってくるのは冷たい眼差しだけ。
それがまた恐ろしくて……必死に声を張り上げた。
「私はカルロスに言われて、仕方なく加担していただけなの……!貴方やアルバート家に仇なすつもりなんて、なかった……!本当よ!信じて!」
『実は反対だったの!』と弁解し、イザベラの慈悲に縋ろうとする。
でも、彼女は一切顔色を変えなかった。かつての前公爵のように……。
「『仇なすつもりはなかった』か。そういう割には、アルバート家の恩恵を随分と受けていたようだが」
「そ、それは……」
「毎日、あちこちでショッピングは当たり前。アルバート家の管理する別荘地や店を我が物顔で使い、女主人気取り。挙句の果てには、社交界で自分のことを────『ジェシカ・コーリー・アルバート』と紹介していたらしいじゃないか」
『執事から全て聞いているぞ』と言い、イザベラは髪の毛を掴む手に力を込めた。
そうなると、当然痛みも増し……私は『いたっ……』と叫び、顔を顰める。
「ご、ごめんなさい……!調子に乗っていたわ……!でも、本当に危害を加えるつもりはなかったの……!私はただ、カルロスに言われて……!」
「この期に及んで、まだ人のせいにするか。貴様は本当に救いのない馬鹿だな」
呆れを孕んだ声色で吐き捨て、イザベラはやれやれと肩を竦めた。
『ここまで馬鹿だと、始末に負えない』と零し、一つ息を吐くと────私の顔面を勢いよく炎に突っ込ませる。
「ぁが……!?」
混乱のあまり変な声を上げる私は、ジタバタと手足を動かした。
────が、全て空を切り、無駄に終わる。
そのため、私はひたすらこの痛みと熱に耐えるしかなかった。
「お願い、離して……!」
『あの時のようにまた顔面が崩れるかも……!』と危機感を抱き、私は必死に懇願する。
でも、さすがは前公爵の娘とでも言うべきか……一切聞き入れてくれなかった。
それどころか、徐々に火の温度を高めていく始末。
「くくくっ……!やはり、クズほどいい声で鳴くな」
『実に愉快だ』と声を弾ませると、イザベラは不意に火を消す。
そして、ドレッサーの上にある手鏡を持ってくると、こちらに向けた。
「どうだ?傑作だろう」
ん……?何かしら……?足がなんかチクチクして……。
ふと意識が浮上し、身を捩る私はおもむろに目を開けた。
真っ暗な室内を見回し、起き上がると、足を確認しようとする。
────と、ここでいきなり部屋が明るくなった。
どこからともなく現れた、光の玉によって。
「やっと起きたか、ジェシカ。待ちくたびれたぞ」
そう言って、血の着いた氷塊を持ち上げる人物はフードを取り払う。
「貴様の目覚めが悪すぎて、一人遊びをする羽目になったじゃないか」
不満げに唇を尖らせる、侵入者の幼い少女は……イザベラは氷塊の突き出た部分を押し付けてきた────私の足裏に。
そうなると、当然皮膚に刺さる訳で……
「あああああぁぁぁぁぁああ!!!!!」
私は絶叫した。
単純に『痛いから』というのもあるが、この状況が……目の前の少女がひたすら怖くて。
ショックを隠し切れなかった。
「だ、誰か……!誰か、来て!イザベラを追い出して……!」
血に染まった足を引き摺るようにしてベッドから飛び降り、私は人を呼ぶ。
────が、どういう訳か誰も来ない。
これほどの声量で叫んでいるにも拘わらず。
『一体、どういうこと……!?』と混乱していると、イザベラが氷塊を投げ捨てた。
その音に、思わずビクッと反応してしまう。
「助けを呼んでも、無駄だ。誰も来ない。結界で音を遮断しているからな」
『ほら、よく見てみろ』と言い、イザベラは光の玉の効力を強める。
すると、床のシミを数えられるほど明るくなり……半透明の結界が目に入った。
私はそこまで魔法に詳しい訳じゃないため、細かいことは分からないが……内外の空間を隔てているのは分かる。
これ、多分……音だけじゃなくて、物質の出入りも制限しているわ。
足りない頭と知識で状況を理解し、私はサァーッと血の気が引いた。
不安と恐怖に戦きながらイザベラの方を向き、目に涙を溜める。
いくら私でも、相当不味い事態に陥っていることは理解出来た。
「い、イザベラ……話し合いましょう?」
「何を、だ?」
「こ、これからの私達についてよ……」
弱々しく答える私に対し、イザベラは愉快げに目を細めた。
「具体的には?」
「か、カルロスに貴方の境遇を改善するよう説得してみる。もちろん、今日のことだって誰にも言わないわ。だから、変な気は起こさず屋敷へ帰ってちょうだい。ねっ……?」
縋るような目でイザベラを見つめ、私は何とか笑みを作る。
『こちらに敵意はない』と示すために。
もし、戦闘にでも発展したら一巻の終わりのため。
アルバート家はもちろん、ギャレット家の血を引いている訳でもない私ではイザベラに敵わない。
だから、何としてでもこの場を切り抜けなくては。
頭に巻かれた包帯を押さえ、私は『一騎打ちになったら、勝ち目がない』と考える。
今日の昼間に見せた魔法を思い返す私の前で、イザベラは『くくっ……!』と低く笑った。
「あんな小物の説得なぞ、無意味だ。私からすれば、何の価値もない」
「えっ……?」
『交渉のカードにすらなり得ない』と語るイザベラに、私は目を白黒させる。
てっきり、境遇改善のためこのような暴挙に及んだのかと思っていたから。
『じゃあ、復讐……?』と思案する私を前に、イザベラはコツンッと足のつま先で床を軽く突いた。
その途端、ボワァッと上へ広がるようにして炎が舞う。
「いいか?よく聞け。私は今日────貴様らギャレット家を屠るために、ここへ来たんだ」
『お家断絶ってやつだな』と言ってのけるイザベラに、迷いはなかった。
恐らく、本気で私達を殺すつもりなのだろう。
じょ、冗談じゃない……!やっとアルバート家を手に入れられるところまで来たのに、死んで堪るものですか!
『あの屋敷も、お金も、名声も私達のものよ!』と奮起しながら、床を這って逃げる。
────が、当然直ぐに追いつかれ……髪の毛を乱暴に掴まれた。
「後がつっかえているんだ、あまり手間を掛けさせるな」
無機質な声で淡々と喋り、イザベラは簡単そうに炎を操る。
すると、瞬く間に燃え広がり……退路を絶たれた。
これでは、まともに身動きを取れない。
炎の海と化した室内を見回し、私はカタカタと震えた。
所詮は子供?魔法に目覚めたばかりだから、大丈夫?力をつける前に消そう?
そんな甘い考えで、倒せる相手じゃないわ……!
この子はもう既に────アルバート家の化け物よ……!
身を持ってアルバート家の血筋の恐ろしさを知っている私は、ハラハラと涙を流す。
だって、イザベラの顔が────かつて、私を半殺しにした前公爵とそっくりだったから。
実は昔、前公爵に横恋慕していた時期があり、彼の婚約者である前公爵夫人にちょっかいを掛けたことがあった。
やったのは、ドレスにワインを掛けるという典型的なものだが……前公爵の逆鱗に触れてしまった。
それで、顔の形も分からないほどボロボロに……。
幸い、前公爵夫人の計らいにより傷は治してもらえたが……あの時の体験はきっと一生忘れないだろう。
脳裏に染み付いた記憶を呼び起こしながら、私は黒い瞳を見つめ返す。
一瞬でも目を離したら、丸呑みにされそうで怖かったから。
「い、嫌……待って……謝るから……」
蚊の鳴くような声で嘆願し、私は『許して』と乞う。
────が、返ってくるのは冷たい眼差しだけ。
それがまた恐ろしくて……必死に声を張り上げた。
「私はカルロスに言われて、仕方なく加担していただけなの……!貴方やアルバート家に仇なすつもりなんて、なかった……!本当よ!信じて!」
『実は反対だったの!』と弁解し、イザベラの慈悲に縋ろうとする。
でも、彼女は一切顔色を変えなかった。かつての前公爵のように……。
「『仇なすつもりはなかった』か。そういう割には、アルバート家の恩恵を随分と受けていたようだが」
「そ、それは……」
「毎日、あちこちでショッピングは当たり前。アルバート家の管理する別荘地や店を我が物顔で使い、女主人気取り。挙句の果てには、社交界で自分のことを────『ジェシカ・コーリー・アルバート』と紹介していたらしいじゃないか」
『執事から全て聞いているぞ』と言い、イザベラは髪の毛を掴む手に力を込めた。
そうなると、当然痛みも増し……私は『いたっ……』と叫び、顔を顰める。
「ご、ごめんなさい……!調子に乗っていたわ……!でも、本当に危害を加えるつもりはなかったの……!私はただ、カルロスに言われて……!」
「この期に及んで、まだ人のせいにするか。貴様は本当に救いのない馬鹿だな」
呆れを孕んだ声色で吐き捨て、イザベラはやれやれと肩を竦めた。
『ここまで馬鹿だと、始末に負えない』と零し、一つ息を吐くと────私の顔面を勢いよく炎に突っ込ませる。
「ぁが……!?」
混乱のあまり変な声を上げる私は、ジタバタと手足を動かした。
────が、全て空を切り、無駄に終わる。
そのため、私はひたすらこの痛みと熱に耐えるしかなかった。
「お願い、離して……!」
『あの時のようにまた顔面が崩れるかも……!』と危機感を抱き、私は必死に懇願する。
でも、さすがは前公爵の娘とでも言うべきか……一切聞き入れてくれなかった。
それどころか、徐々に火の温度を高めていく始末。
「くくくっ……!やはり、クズほどいい声で鳴くな」
『実に愉快だ』と声を弾ませると、イザベラは不意に火を消す。
そして、ドレッサーの上にある手鏡を持ってくると、こちらに向けた。
「どうだ?傑作だろう」
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