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第三章

優しい

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「分かりました────とりあえず、やってみます」

 繋がれた手をギュッと握り返し、私は純白の世界に目を向ける。
世界そのものを白いキャンバスだと考え、自然溢れる光景と健やかに暮らす人間達の姿を想像した。
どうか、この世界で皆と幸せな未来を作って欲しいと祈った瞬間────世界は色づく。
白いキャンバスに絵の具を垂らしたかのように景色が変わり、自然の恵みをもたらした。
草木の生い茂る地上を見下ろし、私はパチパチと瞬きを繰り返す。

 こ、これが私の力……なの?とてもじゃないけど、信じられないわ。下界の頃は何の力も持っていなかったから……。

 『神聖力を使った』という実感が湧かない私は、思わず目を剥いた。
自然豊かな世界を一瞥し、民衆たちに目を向けると────元気な姿が目に入る。
無事治癒の権能も発動したようで、彼らの負った怪我は全て治っていた。
感動のあまり泣きじゃくる民衆たちを前に、旦那様はパチンと指を鳴らす。
すると、透明の膜が割れ、民衆たちは地面に尻餅をついた。

「僕達の協力出来るところは、ここまで。ここから先のことは、自分達の力だけでやるといい────新しい世界で生活を一から、始める……それが君達に与える最後の罰だ」

 旦那様は救済措置として、新しい環境での再出発を命じる。
決して甘い罰ではないが、当初に比べれば大分マシだろう。
『妥協案としては悪くない』と考える中、旦那様は冷めた目で地上を見下ろした。

「でも、これだけは決して忘れないでね。君達は────メイヴィスの温情で生かされているんだ。僕はいつでも君達を切り捨てるし、助けたいとも思わない。だから、せいぜいメイヴィスに見放されないようにね」

 『首の皮一枚で繋がっている状態に過ぎない』と釘を刺し、旦那様はニッコリと微笑む。
笑顔そのものはとても綺麗なのに、ゾッとするほど恐ろしかった。
旦那様の強い怒りを感じ、私は────『愛されているんだな』と思う。

 旦那様はきっと、『メイヴィスわたしの気持ちを無駄にするな』と言いたかったんだわ。
せっかく情けを掛けたのに、また問題でも起きたら、私が悲しむと思って……。

 『本当に優しい方ね』と感激する私は、ゆるゆると頬を緩めた。
言い表せぬほどの喜びに包まれる中、旦那様はこちらに目を向ける。

「それじゃあ、帰ろうか────僕達の家に」

 慈愛に満ち溢れた黄金の瞳を前に、私は『はい』と大きく頷いた。
満足気に目を細める旦那様は、身の内に秘める神聖力を放出する。
そして────未だに混乱している民衆たちを置いて、純白の城へ帰還した。
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