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第三章

異臭

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「っ……!!くそ……くそっ!!こんな奴にメイヴィスを渡して堪るものか!!」

 すっかり頭に血が昇ってしまったトリスタン王子は、血走った目でこちらを見つめる。
嫉妬に狂いそうになりながら、彼はこちらへ手を伸ばした────が、届かない。
鉄格子に阻まれて、行動を制限されているため、色々と限界があった。

 馬鹿な人……どんなに手を伸ばしても、どんなに私を欲しても、どんなに愛情を注いでも、両想いになる日は来ないというのに……。
真実の愛だなんだと騒いで、愚かな真似をしなければ、それなりに楽しい人生を送れた筈よ……まあ、今となってはただの夢物語に過ぎないけど。

「おい!こっちに来い、メイヴィス!今、私が目を覚ましてや……」

「────目を覚ますのは君の方だよ、バカ王子。いい加減、失恋した事実を受け入れなよ」

 トリスタン王子の言葉をわざと遮り、旦那様は勝ち誇ったように笑う。
『メイヴィスに愛されているのは、この僕だ』と主張し、顎を逸らした。
トリスタン王子は目を吊り上げ、『ふざけるな!』と怒鳴り散らす。

「ふふふっ。その威勢の良さだけは、褒めてあげるよ。でも────メイヴィスを死に追いやった罪は、きちんと償ってもらう」

 スッと笑みを引っ込めた旦那様は指先に神聖力を集め、パチンッと指を鳴らした。
すると────トリスタン王子は突然、後ろに倒れる。
ビクビクと痙攣しながら、彼はどこか苦しそうな表情を浮かべた。

 ビックリした……。
とりあえず、致命傷になりそうな傷はなさそうだけど……旦那様は一体、何をしたのかしら?

「旦那様、トリスタン王子は何故倒れ……えっ?何!?この臭い……!」

 突然出現した異臭に眉を顰め、私は手で鼻を押さえる。
そして、臭いの発生源を探すため、キョロキョロと辺りを見回した。
すると────下半身を濡らすトリスタン王子の姿が目に入る。
状況から見て、彼の尿が異臭の原因だろう。

「旦那様、まさか……」

「いや、違うからね?僕は別にお漏らしさせようとした訳じゃないよ。そこは勘違いしないで」

 疑いの目を向ける私に対し、旦那様は慌てて弁解を口にした。
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