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第三章

能天気

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 ロゼッタ様を置いて、王城にやって来た私達は転移を使って、地下牢に侵入する。
カビ臭い牢屋の中には────トリスタン王子の姿があった。
恐らく誰にも助けて貰えず、逃げることさえ出来なかったのだろう。

 『王子なのにここまで人望がないのか……』と呆れ返る中、トリスタン王子はふと顔を上げた。
そして、私の姿を視界に捉えるなり、嬉々として駆け寄ってくる。
まあ、途中で牢屋の鉄格子に阻まれたけど……。

「メイヴィス!!私を迎えに来てくれたのか!!」

 パァッと表情を明るくさせるトリスタン王子は、子供のようにはしゃいだ声を上げた。
感激した様子で瞳を輝かせる彼に、私は『相変わらず脳天気な方だ』と肩を竦める。

 全く……私の隣に居る旦那様男性が目に入らないのかしら?

「お久しぶりです、トリスタン王子。ご壮健で何よりです」

「はっはっはっはっ!私は健康だけが取り柄だからな!それより、早くここから出してくれないか?愛する妻を早く抱き締めたいんだ!」

「……」

「メイヴィス?」

 すっかり夫気取りのトリスタン王子に、私は眉を顰めた。
蛆虫うじむしでも見たかのような不快感に襲われ、腕を擦る。
勘違いや思い込みもここまで来ると、さすがに気持ち悪かった。

「メイヴィス、どうしたんだ?もしかして、具合が悪……」

「────その臭い口を今すぐ、閉じてくれないかい?いい加減、不愉快だよ」

 完全に存在を無視された挙句、とんでもない勘違いまでされた旦那様は、堪らず口を挟む。
苛立たしげに眉を顰める彼は、鋭い目付きでトリスタン王子を睨みつけた。
ここに来て、ようやく旦那様の存在に気がついたトリスタン王子は、パチパチと瞬きを繰り返す。そして────。

「お前、女みたいな顔してるな」

 全くもって空気が読めないトリスタン王子は、見事に旦那様の地雷を踏み抜いた。
ヒクヒクと頬を引き攣らせる旦那様は、怒りに震える手を握り締める。

「君は本当に無礼だね。メイヴィスの夫だと言い張るだけでも、気に入らないのに……次は侮辱発言かい?失礼にも程があるだろう」

「はぁ?お前は一体、何を言っているんだ?私は歴としたメイヴィスの夫だ。そっちこそ、無礼なんじゃないか?なっ?メイヴィス」

 『ほら、言ってやれ』と言わんばかりにトリスタン王子は、胸を張る。
自信満々の態度を崩さない彼に、私は『はぁ……』と深い溜め息を零した。



明日(2022/08/23)から、一日三回更新に戻ります。
恐らく、数日以内に完結すると思いますので、最後まで楽しんで頂けると幸いです┏○ペコッ
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