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第二章
黒魔術《トリスタン side》
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私は約十時間ほど掛けて、魔術式の構築と材料の調達を終えた。
そして、今────満を持して、魔術を発動させようとしている。
自室のベランダで最終確認を行う私は、おもむろに魔術本を開いた。
室内から漏れ出る灯りを頼りに、文章に目を通していく。
『百人の生贄と共に月の門は開かれ、異界と繋がるだろう』
今回使用する魔術は月を利用したもので、月の満ち欠けによって門の開き方が異なる。
満月に近づくほど開く門の幅は大きくなり、新月に近づくほど小さくなる。
開いた門の幅が小さいと、そこを通れる生物も限られて来るため、出来るだけ満月に近い状態で、魔術を発動させる必要があった。
そして、今日は満月!!魔術を発動させるには、持ってこいの日だ!!
「百人の生贄は疫病感染者に限定したし、使えない奴らを排除できて一石二鳥だろう!」
床に伏せるだけで国に貢献しない者など、生きる価値はない!むしろ、私の役に立てて光栄だろう!
『クックックックッ!』と不気味に笑う私は、ようやく最終確認を終える。
そして、術式が描かれた紙の上にロウソクを置いた。
すると、タイミングを見計らったかのように、雲の中から満月がひょっこり顔を出す。
「────よし、準備完了だ。早速、メイヴィスを取り戻すための儀式を始めよう」
大きな独り言を零した私は、不敵に笑った。
用意したオダマキの花弁を手掴みし、もう一方の手で開いたままの魔術本を持つ。
夜風に揺れるロウソクの灯火を眺めながら、私はゆっくりと口を開いた。
「闇夜の光、愚かな魂、揺れる花弁……百人の生贄と共に月の門は開かれ、悪夢がこの世界を覆うだろう。さあ、異界の門よ。我が呼び掛けに応じ────今、解き放たれよ」
魔術本に書かれた呪文を唱え、私は手に持つ花びらをパッと上から落とした。
ヒラヒラと宙を舞うオダマキの花びらは、魔術式の上に落ちる。
そして────花びらの一枚がロウソクの灯火によって、燃え尽きてしまった。
大丈夫……手順は何も間違っていない。全て完璧にこなした筈だ。
本の内容に間違いがなければの話だが……。
何の変化も起こらない魔術式を見つめ、私はゴクリと喉を鳴らす。
『もしや、失敗したのでは?』と不安に駆られるものの────それは杞憂に終わった。
「うわっ!?何でいきなり、炎が……!?」
ボンッ!と音を立てて、火力を上げたロウソクの炎に、私は焦りを覚える。
『消した方がいいのか?』と決断を躊躇っている間に、炎は術式の描かれた紙へと燃え移った。
でも、不思議なことに紙が灰になる気配は全くない。高温の炎に焼かれているのに、だ。
世界の理を無視する現象に心底驚く中、ロウソクの炎は魔術式をなぞるようにところどころ焦がしていく。
「くっ……!!なんて火力だ……!!」
火柱が上がりそうなほど激しく燃える炎は術式の部分だけ燃やし尽くすと、パッと消えた。
その反動で、中央に立てたロウソクが横に倒れる。
この場に残ったのは倒れたロウソクと術式だけ焼かれた紙、それから────黒く焦げたオダマキの花びらだけだった。
そして、今────満を持して、魔術を発動させようとしている。
自室のベランダで最終確認を行う私は、おもむろに魔術本を開いた。
室内から漏れ出る灯りを頼りに、文章に目を通していく。
『百人の生贄と共に月の門は開かれ、異界と繋がるだろう』
今回使用する魔術は月を利用したもので、月の満ち欠けによって門の開き方が異なる。
満月に近づくほど開く門の幅は大きくなり、新月に近づくほど小さくなる。
開いた門の幅が小さいと、そこを通れる生物も限られて来るため、出来るだけ満月に近い状態で、魔術を発動させる必要があった。
そして、今日は満月!!魔術を発動させるには、持ってこいの日だ!!
「百人の生贄は疫病感染者に限定したし、使えない奴らを排除できて一石二鳥だろう!」
床に伏せるだけで国に貢献しない者など、生きる価値はない!むしろ、私の役に立てて光栄だろう!
『クックックックッ!』と不気味に笑う私は、ようやく最終確認を終える。
そして、術式が描かれた紙の上にロウソクを置いた。
すると、タイミングを見計らったかのように、雲の中から満月がひょっこり顔を出す。
「────よし、準備完了だ。早速、メイヴィスを取り戻すための儀式を始めよう」
大きな独り言を零した私は、不敵に笑った。
用意したオダマキの花弁を手掴みし、もう一方の手で開いたままの魔術本を持つ。
夜風に揺れるロウソクの灯火を眺めながら、私はゆっくりと口を開いた。
「闇夜の光、愚かな魂、揺れる花弁……百人の生贄と共に月の門は開かれ、悪夢がこの世界を覆うだろう。さあ、異界の門よ。我が呼び掛けに応じ────今、解き放たれよ」
魔術本に書かれた呪文を唱え、私は手に持つ花びらをパッと上から落とした。
ヒラヒラと宙を舞うオダマキの花びらは、魔術式の上に落ちる。
そして────花びらの一枚がロウソクの灯火によって、燃え尽きてしまった。
大丈夫……手順は何も間違っていない。全て完璧にこなした筈だ。
本の内容に間違いがなければの話だが……。
何の変化も起こらない魔術式を見つめ、私はゴクリと喉を鳴らす。
『もしや、失敗したのでは?』と不安に駆られるものの────それは杞憂に終わった。
「うわっ!?何でいきなり、炎が……!?」
ボンッ!と音を立てて、火力を上げたロウソクの炎に、私は焦りを覚える。
『消した方がいいのか?』と決断を躊躇っている間に、炎は術式の描かれた紙へと燃え移った。
でも、不思議なことに紙が灰になる気配は全くない。高温の炎に焼かれているのに、だ。
世界の理を無視する現象に心底驚く中、ロウソクの炎は魔術式をなぞるようにところどころ焦がしていく。
「くっ……!!なんて火力だ……!!」
火柱が上がりそうなほど激しく燃える炎は術式の部分だけ燃やし尽くすと、パッと消えた。
その反動で、中央に立てたロウソクが横に倒れる。
この場に残ったのは倒れたロウソクと術式だけ焼かれた紙、それから────黒く焦げたオダマキの花びらだけだった。
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