41 / 112
第二章
謎の疫病《トリスタン side》
しおりを挟む
「患者の数は、およそ一万。そして、死者の数は────三千人です」
側近候補の口にした数値に、私は一瞬フリーズした。
……はっ?三千?たった数時間で?
疫病が発覚したのは、今日の朝だよな?なのに何でもうそんなっ……!
「教会は一体、何をしている!?あいつらの仕事は、民の怪我や病気を癒すことだろ!」
「そ、それが……突然、教会の人間全員が魔法を使えなくなったみたいで……」
「はぁ!?そんなことある訳ないだろ!疫病患者に関わりたくなくて、そんなデマカセを言ってるんじゃないのか!?」
八つ当たりついでに怒鳴り散らせば、側近候補はビクッと肩を震わせた。
私の気迫に押され、オロオロした様子で一歩後ろへ下がる。
そして、少し悩むような動作を見せてから、彼は口を開いた。
「あ、あの……これは父から聞いた話なんですが……その、王城で働いている宮廷魔導師の方々も────神官達と同じように魔法が使えなくなったみたいです」
「……はっ?」
教会の人間だけじゃなく、宮廷魔導師も魔法が使えなくなっただと……?そんなこと有り得るのか……?
……でも、確かこいつの父親は宮廷魔導師を補佐する文官だった筈。となると、嘘を言っている可能性はかなり低い……。
「他の魔導師は、どうなんだ?普通に魔法を使えているのか?」
「は、はい……王家とも教会とも関わりのない、治癒院の職員や貴族お抱えの魔導師なんかは普通に魔法が使えているみたいです。なので、今は治癒院に患者を集めて治療に当たっているみたいですが……」
「圧倒的に人手が足りぬか……」
フィオーレ王国では、民の怪我や病気の治療を教会に一任している。だから、教会が機能しなくなれば、一気に医療体制が崩壊する……。
治癒院など、所詮一個人が作り上げた小さな診療所に過ぎない……そこで一万人以上の患者を捌くことは到底不可能だった。
「延命させる方法があっても、それを行使できる者が居なければ、意味が無い……チッ!面倒なことになった!」
メイヴィスを処刑してから、後悔の念に駆られる日々が続いていたが、だからと言って面倒事を期待していた訳じゃない。
何故、こうも不幸は重なるのか……。
メイヴィスの死去だけでお腹いっぱいだ。疫病問題など、私の知ったことではない。
「私は自室に戻って休む」
「え?でも、疫病問題が……」
「そんなもの私には関係ない。父上たちがどうにかするだろ」
『面倒事に自ら関わる趣味はない』とでも言うように、縋るような視線を無視して歩き出す。
どれだけ多くの民が疫病に苦しもうと、私にはどうでも良かった。
私にとって重要なのは、美しいものを愛でること。ただそれだけ……。
────どこまでも自己中心的な私は、まだ気づいていなかった。
この異常事態を引き起こしていた元凶の怒りに……。
狂い始めた歯車は、もう二度と元には戻らない。
側近候補の口にした数値に、私は一瞬フリーズした。
……はっ?三千?たった数時間で?
疫病が発覚したのは、今日の朝だよな?なのに何でもうそんなっ……!
「教会は一体、何をしている!?あいつらの仕事は、民の怪我や病気を癒すことだろ!」
「そ、それが……突然、教会の人間全員が魔法を使えなくなったみたいで……」
「はぁ!?そんなことある訳ないだろ!疫病患者に関わりたくなくて、そんなデマカセを言ってるんじゃないのか!?」
八つ当たりついでに怒鳴り散らせば、側近候補はビクッと肩を震わせた。
私の気迫に押され、オロオロした様子で一歩後ろへ下がる。
そして、少し悩むような動作を見せてから、彼は口を開いた。
「あ、あの……これは父から聞いた話なんですが……その、王城で働いている宮廷魔導師の方々も────神官達と同じように魔法が使えなくなったみたいです」
「……はっ?」
教会の人間だけじゃなく、宮廷魔導師も魔法が使えなくなっただと……?そんなこと有り得るのか……?
……でも、確かこいつの父親は宮廷魔導師を補佐する文官だった筈。となると、嘘を言っている可能性はかなり低い……。
「他の魔導師は、どうなんだ?普通に魔法を使えているのか?」
「は、はい……王家とも教会とも関わりのない、治癒院の職員や貴族お抱えの魔導師なんかは普通に魔法が使えているみたいです。なので、今は治癒院に患者を集めて治療に当たっているみたいですが……」
「圧倒的に人手が足りぬか……」
フィオーレ王国では、民の怪我や病気の治療を教会に一任している。だから、教会が機能しなくなれば、一気に医療体制が崩壊する……。
治癒院など、所詮一個人が作り上げた小さな診療所に過ぎない……そこで一万人以上の患者を捌くことは到底不可能だった。
「延命させる方法があっても、それを行使できる者が居なければ、意味が無い……チッ!面倒なことになった!」
メイヴィスを処刑してから、後悔の念に駆られる日々が続いていたが、だからと言って面倒事を期待していた訳じゃない。
何故、こうも不幸は重なるのか……。
メイヴィスの死去だけでお腹いっぱいだ。疫病問題など、私の知ったことではない。
「私は自室に戻って休む」
「え?でも、疫病問題が……」
「そんなもの私には関係ない。父上たちがどうにかするだろ」
『面倒事に自ら関わる趣味はない』とでも言うように、縋るような視線を無視して歩き出す。
どれだけ多くの民が疫病に苦しもうと、私にはどうでも良かった。
私にとって重要なのは、美しいものを愛でること。ただそれだけ……。
────どこまでも自己中心的な私は、まだ気づいていなかった。
この異常事態を引き起こしていた元凶の怒りに……。
狂い始めた歯車は、もう二度と元には戻らない。
19
お気に入りに追加
1,383
あなたにおすすめの小説
【完結】大聖女は無能と蔑まれて追放される〜殿下、1%まで力を封じよと命令したことをお忘れですか?隣国の王子と婚約しましたので、もう戻りません
冬月光輝
恋愛
「稀代の大聖女が聞いて呆れる。フィアナ・イースフィル、君はこの国の聖女に相応しくない。職務怠慢の罪は重い。無能者には国を出ていってもらう。当然、君との婚約は破棄する」
アウゼルム王国の第二王子ユリアンは聖女フィアナに婚約破棄と国家追放の刑を言い渡す。
フィアナは侯爵家の令嬢だったが、両親を亡くしてからは教会に預けられて類稀なる魔法の才能を開花させて、その力は大聖女級だと教皇からお墨付きを貰うほどだった。
そんな彼女は無能者だと追放されるのは不満だった。
なぜなら――
「君が力を振るうと他国に狙われるし、それから守るための予算を割くのも勿体ない。明日からは能力を1%に抑えて出来るだけ働くな」
何を隠そう。フィアナに力を封印しろと命じたのはユリアンだったのだ。
彼はジェーンという国一番の美貌を持つ魔女に夢中になり、婚約者であるフィアナが邪魔になった。そして、自らが命じたことも忘れて彼女を糾弾したのである。
国家追放されてもフィアナは全く不自由しなかった。
「君の父親は命の恩人なんだ。私と婚約してその力を我が国の繁栄のために存分に振るってほしい」
隣国の王子、ローレンスは追放されたフィアナをすぐさま迎え入れ、彼女と婚約する。
一方、大聖女級の力を持つといわれる彼女を手放したことがバレてユリアンは国王陛下から大叱責を食らうことになっていた。
召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます
かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~
【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】
奨励賞受賞
●聖女編●
いきなり召喚された上に、ババァ発言。
挙句、偽聖女だと。
確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。
だったら好きに生きさせてもらいます。
脱社畜!
ハッピースローライフ!
ご都合主義万歳!
ノリで生きて何が悪い!
●勇者編●
え?勇者?
うん?勇者?
そもそも召喚って何か知ってますか?
またやらかしたのかバカ王子ー!
●魔界編●
いきおくれって分かってるわー!
それよりも、クロを探しに魔界へ!
魔界という場所は……とてつもなかった
そしてクロはクロだった。
魔界でも見事になしてみせようスローライフ!
邪魔するなら排除します!
--------------
恋愛はスローペース
物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。
私生児聖女は二束三文で売られた敵国で幸せになります!
近藤アリス
恋愛
私生児聖女のコルネリアは、敵国に二束三文で売られて嫁ぐことに。
「悪名高い国王のヴァルター様は私好みだし、みんな優しいし、ご飯美味しいし。あれ?この国最高ですわ!」
声を失った儚げ見た目のコルネリアが、勘違いされたり、幸せになったりする話。
※ざまぁはほんのり。安心のハッピーエンド設定です!
※「カクヨム」にも掲載しています。
【完結】婚約破棄された聖女はもう祈れない 〜妹こそ聖女に相応しいと追放された私は隣国の王太子に拾われる
冬月光輝
恋愛
聖女リルア・サウシールは聖地を領地として代々守っている公爵家の嫡男ミゲルと婚約していた。
リルアは教会で神具を用いて祈りを捧げ結界を張っていたのだが、ある日神具がミゲルによって破壊されてしまう。
ミゲルに策謀に嵌り神具を破壊した罪をなすりつけられたリルアは婚約破棄され、隣国の山中に追放処分を受けた。
ミゲルはずっとリルアの妹であるマリアを愛しており、思惑通りマリアが新たな聖女となったが……、結界は破壊されたままで獰猛になった魔物たちは遠慮なく聖地を荒らすようになってしまった。
一方、祈ることが出来なくなった聖女リルアは結界の維持に使っていた魔力の負担が無くなり、規格外の魔力を有するようになる。
「リルア殿には神子クラスの魔力がある。ぜひ、我が国の宮廷魔道士として腕を振るってくれないか」
偶然、彼女の力を目の当たりにした隣国の王太子サイラスはリルアを自らの国の王宮に招き、彼女は新たな人生を歩むことになった。
似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります
秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。
そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。
「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」
聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。
この野菜は悪役令嬢がつくりました!
真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。
花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。
だけどレティシアの力には秘密があって……?
せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……!
レティシアの力を巡って動き出す陰謀……?
色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい!
毎日2〜3回更新予定
だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!
聖女召喚に巻き込まれた挙句、ハズレの方と蔑まれていた私が隣国の過保護な王子に溺愛されている件
バナナマヨネーズ
恋愛
聖女召喚に巻き込まれた志乃は、召喚に巻き込まれたハズレの方と言われ、酷い扱いを受けることになる。
そんな中、隣国の第三王子であるジークリンデが志乃を保護することに。
志乃を保護したジークリンデは、地面が泥濘んでいると言っては、志乃を抱き上げ、用意した食事が熱ければ火傷をしないようにと息を吹きかけて冷ましてくれるほど過保護だった。
そんな過保護すぎるジークリンデの行動に志乃は戸惑うばかり。
「私は子供じゃないからそんなことしなくてもいいから!」
「いや、シノはこんなに小さいじゃないか。だから、俺は君を命を懸けて守るから」
「お…重い……」
「ん?ああ、ごめんな。その荷物は俺が持とう」
「これくらい大丈夫だし、重いってそういうことじゃ……。はぁ……」
過保護にされたくない志乃と過保護にしたいジークリンデ。
二人は共に過ごすうちに知ることになる。その人がお互いの運命の人なのだと。
全31話
聖女の代わりがいくらでもいるなら、私がやめても構いませんよね?
木山楽斗
恋愛
聖女であるアルメアは、無能な上司である第三王子に困っていた。
彼は、自分の評判を上げるために、部下に苛烈な業務を強いていたのである。
それを抗議しても、王子は「嫌ならやめてもらっていい。お前の代わりなどいくらでもいる」と言って、取り合ってくれない。
それなら、やめてしまおう。そう思ったアルメアは、王城を後にして、故郷に帰ることにした。
故郷に帰って来たアルメアに届いたのは、聖女の業務が崩壊したという知らせだった。
どうやら、後任の聖女は王子の要求に耐え切れず、そこから様々な業務に支障をきたしているらしい。
王子は、理解していなかったのだ。その無理な業務は、アルメアがいたからこなせていたということに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる