29 / 112
第一章
本題《ハワード side》
しおりを挟む
「とりあえず────メイヴィスの死因に関わること全て……思いつく限り、話してくれる?」
『どんな事実でも受け止める』と覚悟を決めた上で、レーヴェン様は本題に入る。
真剣味を帯びた瞳には、表情を強ばらせる私の姿が映っていた。
「分かり、ました……では、まず────フィオーレ王国の第一王子トリスタン・ストレチア・フローレンスにプロポーズされた件から、お話し致します」
不安と緊張に苛まれながらも、私は意を決して口を開いた。
『プロポーズ』という単語にピクッと反応を示したレーヴェン様とカシエル様は、僅かに顔を顰める。でも、話の腰を折ることはなかった。
一先ず、最後まで話を聞くつもりなのだろう。
「トリスタン王子は以前から、聖女様に恋心を抱いておりました。そして、頻繁に教会へ足を運び、聖女様と面会していたのです。正直、迷惑でしかありませんでしたが、王族を蔑ろにする訳にもいかず……ズルズルと交流は続いていました。そんなある日、トリスタン王子は高そうな指輪を持って、聖女様にプロポーズしたのです。お前のような美しい女には次期国王である私こそ、相応しい、と……」
「ほう?それで?」
冷ややかな目でこちらを見つめるレーヴェン様は、相当頭に来ているようだった。
『僕の花嫁に横恋慕するとはいい度胸だ』と言わんばかりに、両腕を組む。
怒りの矛先はトリスタン王子に向いていると分かっていても、やはり恐ろしいな……。少しでも気を抜いたら、卒倒しそうだ。
『神様の気迫は凄まじいな』と苦笑いしつつ、私は震える手をギュッと握り締めた。
「聖女様はもちろん、お断りされました。自分は神の花嫁だから、と……。でも、トリスタン王子は聞く耳を持たず……あろう事か、教会の敷地内で『神など存在しない』と愚弄したのです。それに激怒した聖女様がトリスタン王子を追い出し……反感を買ってしまいました」
「ふ~ん?反感、ねぇ……」
トントンッと肘を一定のリズムで叩くレーヴェン様は、意味ありげに目を細める。
プロポーズをキッパリ断ったと聞いて、かなり溜飲は下がったようだが……それでも、嫌悪感は隠し切れていなかった。
不愉快そうに眉を顰めるレーヴェン様に内心怯えつつ、私は説明を続ける。
「それから、一週間ほど何事もない日が続き……事前に何の連絡もなく、トリスタン王子は現れました。今度はジェラルド公爵家のロゼッタ様と王国騎士を引き連れて……」
「大勢で押し掛けるとは、野蛮ですね……!一人では何も出来ないからって、卑怯ですよ!」
思わずといった様子で声を荒らげるカシエル様は、額に青筋を浮かべた。
感情に呼応して動くのか、純白の翼はバサバサと音を立てる。
『どこまでクズなんですか?その王子は』と苛立つ彼に、私は一抹の不安を覚えた。
『どんな事実でも受け止める』と覚悟を決めた上で、レーヴェン様は本題に入る。
真剣味を帯びた瞳には、表情を強ばらせる私の姿が映っていた。
「分かり、ました……では、まず────フィオーレ王国の第一王子トリスタン・ストレチア・フローレンスにプロポーズされた件から、お話し致します」
不安と緊張に苛まれながらも、私は意を決して口を開いた。
『プロポーズ』という単語にピクッと反応を示したレーヴェン様とカシエル様は、僅かに顔を顰める。でも、話の腰を折ることはなかった。
一先ず、最後まで話を聞くつもりなのだろう。
「トリスタン王子は以前から、聖女様に恋心を抱いておりました。そして、頻繁に教会へ足を運び、聖女様と面会していたのです。正直、迷惑でしかありませんでしたが、王族を蔑ろにする訳にもいかず……ズルズルと交流は続いていました。そんなある日、トリスタン王子は高そうな指輪を持って、聖女様にプロポーズしたのです。お前のような美しい女には次期国王である私こそ、相応しい、と……」
「ほう?それで?」
冷ややかな目でこちらを見つめるレーヴェン様は、相当頭に来ているようだった。
『僕の花嫁に横恋慕するとはいい度胸だ』と言わんばかりに、両腕を組む。
怒りの矛先はトリスタン王子に向いていると分かっていても、やはり恐ろしいな……。少しでも気を抜いたら、卒倒しそうだ。
『神様の気迫は凄まじいな』と苦笑いしつつ、私は震える手をギュッと握り締めた。
「聖女様はもちろん、お断りされました。自分は神の花嫁だから、と……。でも、トリスタン王子は聞く耳を持たず……あろう事か、教会の敷地内で『神など存在しない』と愚弄したのです。それに激怒した聖女様がトリスタン王子を追い出し……反感を買ってしまいました」
「ふ~ん?反感、ねぇ……」
トントンッと肘を一定のリズムで叩くレーヴェン様は、意味ありげに目を細める。
プロポーズをキッパリ断ったと聞いて、かなり溜飲は下がったようだが……それでも、嫌悪感は隠し切れていなかった。
不愉快そうに眉を顰めるレーヴェン様に内心怯えつつ、私は説明を続ける。
「それから、一週間ほど何事もない日が続き……事前に何の連絡もなく、トリスタン王子は現れました。今度はジェラルド公爵家のロゼッタ様と王国騎士を引き連れて……」
「大勢で押し掛けるとは、野蛮ですね……!一人では何も出来ないからって、卑怯ですよ!」
思わずといった様子で声を荒らげるカシエル様は、額に青筋を浮かべた。
感情に呼応して動くのか、純白の翼はバサバサと音を立てる。
『どこまでクズなんですか?その王子は』と苛立つ彼に、私は一抹の不安を覚えた。
28
お気に入りに追加
1,393
あなたにおすすめの小説
稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています
水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。
森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。
公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。
◇画像はGirly Drop様からお借りしました
◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

【完結】公爵家のメイドたる者、炊事、洗濯、剣に魔法に結界術も完璧でなくてどうします?〜聖女様、あなたに追放されたおかげで私は幸せになれました
冬月光輝
恋愛
ボルメルン王国の聖女、クラリス・マーティラスは王家の血を引く大貴族の令嬢であり、才能と美貌を兼ね備えた完璧な聖女だと国民から絶大な支持を受けていた。
代々聖女の家系であるマーティラス家に仕えているネルシュタイン家に生まれたエミリアは、大聖女お付きのメイドに相応しい人間になるために英才教育を施されており、クラリスの側近になる。
クラリスは能力はあるが、傍若無人の上にサボり癖のあり、すぐに癇癪を起こす手の付けられない性格だった。
それでも、エミリアは家を守るために懸命に彼女に尽くし努力する。クラリスがサボった時のフォローとして聖女しか使えないはずの結界術を独学でマスターするほどに。
そんな扱いを受けていたエミリアは偶然、落馬して大怪我を負っていたこの国の第四王子であるニックを助けたことがきっかけで、彼と婚約することとなる。
幸せを掴んだ彼女だが、理不尽の化身であるクラリスは身勝手な理由でエミリアをクビにした。
さらに彼女はクラリスによって第四王子を助けたのは自作自演だとあらぬ罪をでっち上げられ、家を潰されるかそれを飲み込むかの二択を迫られ、冤罪を被り国家追放に処される。
絶望して隣国に流れた彼女はまだ気付いていなかった、いつの間にかクラリスを遥かに超えるほどハイスペックになっていた自分に。
そして、彼女こそ国を守る要になっていたことに……。
エミリアが隣国で力を認められ巫女になった頃、ボルメルン王国はわがまま放題しているクラリスに反発する動きが見られるようになっていた――。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください
ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。
義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。
外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。
彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。
「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」
――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。
⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎

辺境伯聖女は城から追い出される~もう王子もこの国もどうでもいいわ~
サイコちゃん
恋愛
聖女エイリスは結界しか張れないため、辺境伯として国境沿いの城に住んでいた。しかし突如王子がやってきて、ある少女と勝負をしろという。その少女はエイリスとは違い、聖女の資質全てを備えていた。もし負けたら聖女の立場と爵位を剥奪すると言うが……あることが切欠で全力を発揮できるようになっていたエイリスはわざと負けることする。そして国は真の聖女を失う――

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい
棗
恋愛
婚約者には初恋の人がいる。
王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。
待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。
婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。
従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。
※なろうさんにも公開しています。
※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。
氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。
聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。
でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。
「婚約してほしい」
「いえ、責任を取らせるわけには」
守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。
元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。
小説家になろう様にも、投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる