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序章
地下牢
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聖女の座を奪われ、罪人と化した私は王城の地下牢に幽閉されていた。
ジメジメとしていて、埃っぽいこの場所は言うまでもなく、居心地が悪い。
私が平民ということもあって、牢の設備は最悪だった。
石のように硬いベッドに腰掛け、私は真っ赤に染まった手の平を眺める。
入浴はおろか、手洗いすらさせて貰えなかったため、私の手や服はハワードの血で汚れたままだった。
ハワード……私の親代わりであり、唯一信頼していた大人。
彼の亡骸は誰かに引き取って貰えただろうか?きちんと供養してから、埋葬されていると良いのだけれど……。
「って、他人の心配をしている場合じゃないわね……」
だって、私はそう遠くない未来に裁かれるのだから……世界中の人々を騙した大詐欺師として。
トリスタン王子の話によると、私は公開処刑になるみたいだけど……死刑執行日はいつかしら?
出来れば、二十歳の誕生日が良いのだけれど……。
と言うのも、聖女は二十歳の誕生日に黄金の光と共に天に召されるという伝承があるからだ。
聖女が二十歳になる前に死ねば、この世に厄災が舞い降りるとも言い伝えられている。
だから、私は教会で保護され、安全に……そして、大切に育てられて来た。
万が一にも、私を死なせないために……。
「それなのにまさか教会に裏切られるなんて……人生、何があるか分からないものね」
自虐気味に呟いた言葉は、シーンと静まり返った地下牢によく響く。
遠くの方からケラケラと笑う看守の声が聞こえたが、私は知らんふりをした。
とにかく、トリスタン王子や教会の人間を説得して、処刑は二十歳になるまで待ってもらおう。
もし、例の伝承が本当なら大変なことになるもの。
私を嵌めた上層部の人間がどうなろうと構わないけど、無関係の人まで巻き込む訳にはいかない……。
「────よぉ、メイヴィス。気分はどうだ?」
「!?」
聞き覚えのある声にピクッと反応し、顔を上げると────そこには、トリスタン王子の姿があった。
鉄格子の向こうに佇む彼は、騎士を何人か引き連れている。
ニコニコと上機嫌に笑いながら、彼はじっとこちらを見つめた。
「むふふっ!相変わらずお前は綺麗だなぁ?メイヴィス。この純白に輝く髪も、虹色に光る瞳も、人間離れした顔立ちも!全て美しい!!やはり、お前は私のものになるべき存在だ!」
芝居がかった動作でバッと両手を広げ、トリスタン王子は得意げに胸を逸らした。
『光栄に思え』と言わんばかりの態度に、私は嫌悪感を抱く。
つい先程、この方を説得しようと決めたばかりなのに、口を聞くのすら億劫に感じた。
よく平気な顔で、私の前に現れたわね。私を聖女の座から追いやり、罪人扱いした張本人なのに……。この方には、人の心がないのかしら?
「……それでこちらには、一体何の用でいらしたんですか?まさか、一国の王子ともあろうお方が何の用もなく、薄汚い地下牢に来る訳ありませんよね?」
「ふはははっ!お前は相変わらず、気が短いな。まあ、そういうところも可愛くて、非常に魅力的だが……っと、ちょっと無駄話が過ぎたな!早速、本題に入ろう!」
そこで一旦言葉を区切ると、トリスタン王子は自身の腰に手を当てた。
欲望にまみれた目でこちらを見下ろし、彼は焦らすようにゆっくりと口を開く。
「元聖女メイヴィス!身も心も私に捧げると誓うのなら────この地下牢から出してやろう!もちろん、公開処刑もなしだ!」
ジメジメとしていて、埃っぽいこの場所は言うまでもなく、居心地が悪い。
私が平民ということもあって、牢の設備は最悪だった。
石のように硬いベッドに腰掛け、私は真っ赤に染まった手の平を眺める。
入浴はおろか、手洗いすらさせて貰えなかったため、私の手や服はハワードの血で汚れたままだった。
ハワード……私の親代わりであり、唯一信頼していた大人。
彼の亡骸は誰かに引き取って貰えただろうか?きちんと供養してから、埋葬されていると良いのだけれど……。
「って、他人の心配をしている場合じゃないわね……」
だって、私はそう遠くない未来に裁かれるのだから……世界中の人々を騙した大詐欺師として。
トリスタン王子の話によると、私は公開処刑になるみたいだけど……死刑執行日はいつかしら?
出来れば、二十歳の誕生日が良いのだけれど……。
と言うのも、聖女は二十歳の誕生日に黄金の光と共に天に召されるという伝承があるからだ。
聖女が二十歳になる前に死ねば、この世に厄災が舞い降りるとも言い伝えられている。
だから、私は教会で保護され、安全に……そして、大切に育てられて来た。
万が一にも、私を死なせないために……。
「それなのにまさか教会に裏切られるなんて……人生、何があるか分からないものね」
自虐気味に呟いた言葉は、シーンと静まり返った地下牢によく響く。
遠くの方からケラケラと笑う看守の声が聞こえたが、私は知らんふりをした。
とにかく、トリスタン王子や教会の人間を説得して、処刑は二十歳になるまで待ってもらおう。
もし、例の伝承が本当なら大変なことになるもの。
私を嵌めた上層部の人間がどうなろうと構わないけど、無関係の人まで巻き込む訳にはいかない……。
「────よぉ、メイヴィス。気分はどうだ?」
「!?」
聞き覚えのある声にピクッと反応し、顔を上げると────そこには、トリスタン王子の姿があった。
鉄格子の向こうに佇む彼は、騎士を何人か引き連れている。
ニコニコと上機嫌に笑いながら、彼はじっとこちらを見つめた。
「むふふっ!相変わらずお前は綺麗だなぁ?メイヴィス。この純白に輝く髪も、虹色に光る瞳も、人間離れした顔立ちも!全て美しい!!やはり、お前は私のものになるべき存在だ!」
芝居がかった動作でバッと両手を広げ、トリスタン王子は得意げに胸を逸らした。
『光栄に思え』と言わんばかりの態度に、私は嫌悪感を抱く。
つい先程、この方を説得しようと決めたばかりなのに、口を聞くのすら億劫に感じた。
よく平気な顔で、私の前に現れたわね。私を聖女の座から追いやり、罪人扱いした張本人なのに……。この方には、人の心がないのかしら?
「……それでこちらには、一体何の用でいらしたんですか?まさか、一国の王子ともあろうお方が何の用もなく、薄汚い地下牢に来る訳ありませんよね?」
「ふはははっ!お前は相変わらず、気が短いな。まあ、そういうところも可愛くて、非常に魅力的だが……っと、ちょっと無駄話が過ぎたな!早速、本題に入ろう!」
そこで一旦言葉を区切ると、トリスタン王子は自身の腰に手を当てた。
欲望にまみれた目でこちらを見下ろし、彼は焦らすようにゆっくりと口を開く。
「元聖女メイヴィス!身も心も私に捧げると誓うのなら────この地下牢から出してやろう!もちろん、公開処刑もなしだ!」
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