『魔王討伐クエスト』で役に立たないからと勇者パーティーに追い出された回復師は新たな仲間と無双する〜PK集団が英雄になるって、マジですか!?〜

あーもんど

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第七章

第311話『来年の抱負』

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「で、ラルカはどうなの?」

 『もうこの際、ハッキリさせといたら?』と言い、ヴィエラさんはクスリと笑みを漏らす。
完全にこの状況を楽しんでいる彼女の傍で、おっとりイケメンは小さく肩を竦めた。

「僕はラミエルが幸せなら、それでいい」

「あら、随分と消極的……というか、女々しいわね」

「しょうがないだろ。僕もラミエルのことは好きだが、徳正やシムナに比べるとやはり劣る。二人ほどの愛情を注げる自信がないんだ」

「なるほど……確かにあの二人がライバルかと思うと、尻込みしちゃうわよね」

 『特にラルカは感情の起伏が穏やかだし』と零し、ヴィエラさんはそっと眉尻を下げる。
ちょっと同情的な態度を取る彼女に、ラルカさんは
 
「ああ、だから────僕は一生片想いでいい」

 と、言い切った。それも、シレッと。
『いや、お前も失恋せんのかい!』という周囲の視線を他所に、ラルカさんはこちらを見つめる。

「でも、もしその二人が嫌になったり、僕を好きになったりしたら言ってくれ。即刻、攫いに行く」

「いや、そうはならないから大丈夫!」

「そうそう!間に合っているから!」

 『大人しく片想いに徹しておけ!』と主張する結月さんとシムナさんに、ラルカさんはフッと笑みを漏らす。

「なら、せいぜいラミエルに愛想を尽かされないよう頑張るんだな」

 挑発とも宣戦布告とも捉えられるセリフを口にし、ラルカさんは立ち上がった。
かと思えば、空になったグラスを持ってカウンターへ行く。
恐らく、新しい飲み物おかわりを取りに行ったのだろう。
『生追加で』と注文する彼を他所に、結月さんとシムナさんは大きく息を吐き出す。

「あ~~~!もう!隙あらば攫っていく系が、何気に一番タチ悪いんだよ~!」

「てか、ラルカって本気でラミエルのこと好きだったのー!?てっきり、冗談半分で言っているのかと思ったー!」

「あら、あの子最初からわりと本気ガチだったわよ。冗談っぽく振る舞っていたのは、単なる照れ隠し」

 ここに来て衝撃のカミングアウトを遂げるヴィエラさんに、周囲の人々は『嘘ー!?』と驚愕。
そして、当事者達を置き去りにして恋愛トークを繰り広げた。
が、直ぐに飽きたのかFROの思い出話へシフトチェンジしていく。
もう一年経過しているからか、みんな心の整理は出来ているようで終始楽しそうだった。
さすがにレオンさん達の話になった時は、ちょっと暗い雰囲気だったが。
でも、笑顔を崩すことはなかった。

 そうこうしている間にFROの話題も尽き、今度は────

「私、ヘスティアは来年から大学生だー!ちなみにスポーツ推薦!どうだ、凄いだろう!」

 ────新年の抱負について、話すように。
と言っても基本挙手制だし、強制ではないので言いたくない人は言わなくていい。
さすがにネットの友人ネッ友にリアルのことをペチャクチャ喋る訳には、いかないだろうから。
リーダーとか、特に。

「はいはーい!俺、セトは来年から社会人でーす!本当はFROに閉じ込められた時点で大学四年生だったんだけど、現実世界リアルに戻ってきた頃にはもう狙っていた企業の面接終わっててさ!だから、敢えて留年してこの一年就職に備えてきたって訳!ちなみに第一希望のところに受かりましたー!」

 『いえーい!』と言って、金髪の男性はジョッキを持ち上げる。
もうすっかり酔ってしまっているのか、顔も首も真っ赤だった。

 あのチャラ男……じゃなくて金髪、セトだったんだ。
ずっと誰かと思っていたよ。

「では、私も……」

 そう言って、席を立ったのは青髪の男性。
格好よくジャケットを着こなし、大人っぽい雰囲気を放つ彼はカチャリと眼鏡を押し上げた。

「『蒼天のソレーユ』のギルドマスター、ニールだ。私は来年から、海外へ行くことになった。あまり詳しくは言えないが、所属している楽団の都合とだけ。まあ、所謂栄転だから共に喜んでくれると助かる」

 『飛ばされたとかではない』と補足するニールさんに、私達は拍手を送る。
だって、海外デビューなんて並大抵の人じゃ出来ないから。
『世界を跨いで活躍する音楽家か』と感心する中、今度はリーダーが席を立った。

「無名だ。俺は来年から、家業の手伝いに専念する。今年はなんだかんだ忙しくて、疎かにしてしまったからな。親に『そろそろ隠居したい』とも言われているし、近いうち社長になるかもしれん」

 いいお酒を飲んで気分が良いのか、リーダーは珍しく自分のことを話してくれた。
それが嬉しくて、私達『虐殺の紅月』のメンバーは夢中で手を叩く。
『本当に社長へ就任したら、お祝いしたいな』なんて思いながら。

「んじゃ、次俺っちね~!多分、言わなくても分かっていると思うけど、徳正で~す!来年は新アプリを開発して、ぼろ儲けして、ラーちゃんと旅行に行きま~す!行き先は秘密~!てか、まだ決まってな~い!」

 『旅行を思いついたのさっきだし!』と言い、結月さんはヘラりと笑う。
周囲から『ずるいぞー!』『イチャイチャしやがってー!』という野次を飛ばされても、どこ吹く風だ。
そのメンタルは、ちょっと羨ましい。

「じゃあ、次は私ヴィエラね。私は来年から、新規ブランドを立ち上げる予定。これでも、一応名の知れたデザイナーだから期待してて。絶対、軌道に乗せてみせるから」

 『腕の見せどころね』と自信ありげに微笑むヴィエラさんに、私達は感嘆の声を漏らす。
何となくファッション関係の仕事についているのは知っていた……というか予想していたが、新規ブランドを立ち上げるほどの有名人だとは思わなかった。
『ウチのパーティーメンバーって、実は大物揃い!?』と瞠目する中、ラルカさんが立ち上がる。

「ラルカだ。僕は来年から、就職活動だな。まだ内定なんかは貰っていないが、大学からの推薦を勝ち取って就職する予定。ちなみに希望業種は製菓関係とだけ、言っておく」

 パティシエなどを目指しているのか、ラルカさんは『クマさんのケーキを作りたい』と呟いた。
今も変わらぬクマさん愛に、誰もが苦笑を浮かべるものの、素直に『頑張れ』と応援する。
────と、ここでアラクネさんと田中さんが席を立った。

「え、ええええええ、えっと!あ、アラクネです!私は来年から大学に通います!」

「聞いて驚け、俺の母校だ!」

「せ、専攻は生物で……!」

「これも俺と同じだ!」

「け、けけけけけけ、研究とかいっぱいする予定でしゅ!」

「俺の所属する研究機関とも、結託しながらな!」

 アラクネさんのフォローのつもりか……それとも単に自慢したいだけか、田中さんはちょいちょい合いの手を入れてきた。
かと思えば、『あっ、俺は来年から母校近くへ転勤』とだけ言って席へ戻る。
無論、アラクネさんを連れて。

 この人、本当にブレないな……。
いくつになっても、シスコンを拗らせてそう……。

 『アラクネさんが恋人を作ったら、どうするんだろう?』と考える中、今度はシムナさんが手を上げる。

「次は僕ー!シムナねー!来年は一先ず、受験かなー!」

 数ヶ月後の試験を見据えているのか、シムナさんはやる気満々といった様子。

「一応、難関大学を受ける予定だよー!徳正を追い抜かすには、やっぱ学歴で差をつけるしかないからねー!ま、とりあえず面接練習でもするよー!」

 『学力より、そっちの方が心配だしー!』と言い、シムナさんは手を下ろす。
と同時に、あちこちから声援が送られてきた。
『今のお前なら、いける!』と。
そのおかげですっかり上機嫌になっているシムナさんを一瞥し、私は席を立つ。
緊張のあまり高まる鼓動を宥めつつ、大きく深呼吸した。

「えっと……ラミエルです。私は来年から、就職活動ですかね。とりあえず大学の制度で取れる資格は粗方取ったので、それを活かしていい企業に入れればと思います」

 当たり障りのないことを話す私は、『なんだか、面白味がなくてすみません』と謝る。
でも、周囲の人々は『ラミエルらしくていいよ』と温かい言葉を掛けてくれた。
────その後も来年の抱負の発表は続き、気づけば夜の十時過ぎ。
学生も居るため、忘年会はここでお開きに。
『バイバイ』と手を振って別れ、各々駅やタクシーに向かっていった。
人混みへ消える仲間達の後ろ姿を前に、私と結月さんは顔を見合わせる。

「んじゃ、俺達も帰ろっか」

「はい」

 『運転よろしくお願いします』と頭を下げ、私は結月さんの愛車へ乗り込んだ。
そして、いつものように自宅まで送ってもらい、私はお礼を言って下車しようとする。
────が、扉のロックはされたまま。
『あれ?忘れたのかな?』と思い、後ろを振り返ると、不安げな表情を浮かべる結月さんが……。

「あの、さ……ちょっとだけ、家にお邪魔してもいい?も、もちろん変なことはしないから!ただ、その……話がしたくて……」

 普段は絶対にしないであろう徳正さんのお願いに、私は目を剥いた。
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