『魔王討伐クエスト』で役に立たないからと勇者パーティーに追い出された回復師は新たな仲間と無双する〜PK集団が英雄になるって、マジですか!?〜

あーもんど

文字の大きさ
上 下
310 / 315
第七章

第309話『デート』

しおりを挟む
「お姫様ではありませんが、喜んで」

 『せっかく、会いに来てくれたんだから』という気持ちもあり、私はすんなり了承した。
差し出された手に自身の手を重ね、徳正さんからのアクションを待つ。
すると、彼は嬉しそうに頬を緩めながらタクシー乗り場までエスコートしてくれた。
そして待機していたタクシーに乗り込むと、レストランや雑貨店など色んなところに連れて行かれる。

 つい勢いに任せて来ちゃったけど、凄く楽しい。
時間を忘れてしまうくらいに。
でも────残念ながら、もう終わりみたい。

 すっかり暗くなった辺りを見回し、私はなんだか寂しい気持ちになる。
きっと、徳正さんと会うのはこれで最後になるから……少なくとも、当分の間はお互いを気に掛ける余裕もない筈。
だって、私達には仕事や勉強が……それぞれの生活があるもの。
所詮、ネット上の繋がりでしかないこの関係は酷く脆かった。

 FROはサービス停止しちゃったし、ここで何もなければ……全部終わりだろうな。
まあ、そうなるのが自然の流れなんだけど。
むしろ、ここ数週間の交流が不自然だったんだよ。

 人通りの少ない道を歩きながら、私は『あと何分、一緒に居られるだろうか』と考える。
────と、ここで隣を歩いていた徳正さんが足を止めた。
かと思えば、繋いだままの手を軽く引っ張る。

「あのさ、ラーちゃん」

 どことなく緊張した面持ちでこちらを見つめる彼は、黒い瞳に期待を滲ませた。

「俺のこと、好き……ですか?」

 改まった様子でそう問い掛けてくる徳正さんに、私は大きく目を見開く。
と同時に、一瞬だけ考えてしまった。
もし、ここで好きだと答えたらこれからも会えるんじゃないかって。
でも、それは徳正さんに対してあまりに不誠実だし、お互いのためにならない。
なので、嘘をつかず……率直に答えることにした。

「本音を言うと、その……好意は持っています。ただ、自信を持って『好き』と言えるかは分かりません……ごめんなさい」

 『会いたい』という気持ちを押し殺して素直に答えると、徳正さんは────

「マジで!?もう一押しって、感じ!?」

 ────と、歓喜した。
弾けるような笑顔を見せながら、彼は愛おしそうにこちらを見つめる。

「いやぁ、良かった~!これで完全に脈ナシだったら、俺ストーカーになるところだったも~ん!」

 『諦める』なんて選択肢は端からないのか、徳正さんは大きすぎる愛情を向けてくれた。
『犯罪者にならなくて済みそうだわ~』と冗談交じりに言いつつ、繋いだ手をギュッと握り締める。

「じゃあさ、連絡先交換しない!?てか、してください!お願いします!俺のワガママかもしれないけど、これから先もラーちゃんと会いたいから!ネットだけじゃなくて、リアルでも!」

 『このままバイバイは嫌!』と駄々を捏ね、徳正さんはスマホを取り出した。

「もし、不安なら俺の電話番号とメールアドレスだけ教えるから、公衆電話なり捨てアドなり使って連絡して!あっ、なんなら俺専用のスマホ持つ!?もちろん、料金はこっちで払うし!それなら、安心でしょ!?」

 『ケータイショップって、もう閉まっているかな!?』と焦り、徳正さんはあれこれ検索を掛ける。
何としてでも繋がりを持とうとする彼の姿に、私はつい笑みを漏らした。

「ふふふっ……必死すぎですよ」

「だって、今日を逃したらもう会えないかもしれないじゃん!そうなったら、俺発狂するよ!?」

「発狂って……ふふふっ。そんなに焦らなくても、連絡先くらい教えますよ。徳正さんに限って、悪用はしないだろうし」

 ちゃんと信用していることを明かし、私はスマホの画面を見せた。
『はい、どうぞ』と電話番号やメールアドレスを晒す私に、徳正さんは一瞬呆気に取られる。

「ら、ラーちゃん……ちょっと無防備すぎない?」

「いや、私だって誰彼構わず連絡先を教えている訳じゃありませんよ。あと────」

 そこで一度言葉を切ると、私は少し視線を逸らした。

「────今後、リアルで会う時は本名の高宮静香と呼んでください。さすがに『ラーちゃん』呼びは目立っちゃうので」

 ちょっと照れながら呼び方の変更を申し出る私に、徳正さんは目を見開いて固まる。
余程衝撃を受けているのか、先程までの勢いはなくなっており……まじまじとこちらを見つめていた。

「い、いいの……?」

「はい」

「じゃ、じゃあ静香って呼ぶね!俺のことも、結月って呼んで!あっ、ちなみに苗字は氷川ね!」

 僅かに元気……というか勢いを取り戻した徳正さんは、『はいはい』と手を挙げて意見する。
まるで新しい玩具を前にした子供のようにはしゃぐ彼の前で、私は視線を前に戻した。

「わ、分かりました……結月、さん」

 頬を紅潮させつつ名前を呼ぶと、徳正さん────改め、結月さんは額を押さえる。

「ふぅ……本名呼び、マジでいい!俺、今めっちゃ幸せ!」

 溢れんばかりの笑みを零し、結月さんは『今日、誘って本当に良かった!』と叫ぶ。
と同時に、素早く連絡先を交換した。
なんと、登録名はお互い『静香』『結月さん』である。

 一先ず、ネットの友人ネッ友からリアルの友人リア友くらいにはなれたかな?
まあ、関係性そのものは友達以上恋人未満に近そうだけど。

 『なんか改めて考えてみると、照れるな』と思いつつ、私はスマホをポケットに仕舞った。
結月さんも同様にスマホを収納し、こちらへ向き直る。

「えっと……じゃあ、これからもよろしくっことで!毎日、連絡するから!デートもいっぱいしようね!」

「は、はい……大学の講義とか、遅れた分の勉強とかあるので暫くデートは難しいかもしれませんが……」

 『直ぐに時間は取れないかも……』と懸念を零す私に、結月さんは明るく笑ってみせた。

「全っ然オッケー!まずはお互いの私生活を立て直さないといけないからね!あっ!でも、力になれることがあれば言って!俺、そこそこ頭いいし!男だから、力だってあるよ!あと、パソコン系も行ける!」

「ふふふっ。はい、ありがとうございます。結月さんこそ、何かあれば仰ってくださいね。まあ、私じゃ力不足かもしれませんが……」

「いやいや!めちゃくちゃ頼もしいよ!それこそ、FROの件で幾度となく助けられたし!」

 『そんなに自分を卑下しちゃダメ!』と言い、結月さんは必死に否定してくる。
相も変わらず私のことになると一生懸命な彼に、自然と胸が高鳴った。

 現実世界リアルでも、仮想世界ゲームでも……この人は本当に変わらないな。
現実世界リアルの彼を知ったら、仮想世界ゲームの彼が幻みたいになっちゃうんじゃないかって少し不安だったけど、杞憂だった。

 『口調や動作のスピードが違うだけで、中身は同じ』ということが分かって、私は少しホッとする。
────と、ここでゴーンゴーンと九時を告げる鐘が鳴った。

「あちゃ~。そろそろ、時間か~。本当はもっと一緒に居たかったけど、女の子を夜遅くまで連れ回す訳にはいかないよね~」

「えっと……私は別に構いませんよ?どうせ、今は一人暮らしですし……」

 『親に叱られる心配はない』と主張する私に、結月さんはキッパリと首を横に振る。

「ダメダメ!俺、真剣だから不誠実なことはしたくないの!あっ!もちろん、そう言ってくれるのは嬉しいけどね!でも、俺だって男だし……狼になれるんだよ!?」

 『もっと危機感を持って!自分大事に!』と言い、結月さんはそっと手を引いた。
『我慢した俺、マジで偉い』とブツブツ呟きながら大通りに出て、タクシーを捕まえる。
そして先に一万円ほど運転手へ手渡すと、私を車内へ押し込んだ。

「てことで、住所は自分で伝えてね。寄り道なんかせずに、真っ直ぐ帰るんだよ?あと、戸締まりはしっかりすること!いいね?」

「は、はい」

「ん。いい子。じゃあ、このあと直ぐに連絡するから」

 ヒラヒラとスマホを振りながら微笑み、結月さんは運転手に『この子、お願いします』と挨拶した。
かと思えば、直ぐさまタクシーから離れる。
すっかり見送り体制に入った彼を他所に、私は運転手へ住所を伝えた。
間もなくしてタクシーは走り出し、結月さんに手を振られる。
私も慌てて振り返したものの、道順の関係で直ぐに角を曲がることになり……感動のお別れ(?)は即終了した。
『な、なんか申し訳ないな……』と考える中、スマホがピコンと鳴り、新着メッセージを受信する。

 ふふふっ。もう……結月さんったら、早すぎますよ。

 『寂しい……(;_;)』と送られてきた文面を前に、私は思わず頬を緩めた。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

処理中です...