『魔王討伐クエスト』で役に立たないからと勇者パーティーに追い出された回復師は新たな仲間と無双する〜PK集団が英雄になるって、マジですか!?〜

あーもんど

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第七章

第293話『魔王城』

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 足止めされる危険性を示唆しながら、セトは新しい……というか、いつも使っている盾を取り出す。
ソレをウァサゴに向ける彼を前に、私達は全速力でこの場から離れた。

「セト!無理はしないでね!」

「おう!ラミエルも気をつけろよ!」

 去り際に短く会話を交わし、私達は互いに頷き合うとそれぞれの役目に戻る。
正直凄く心配だが、ここはセトや『牙』の皆を信じて任せるしかなかった。
『必ず無事で居てね!』と心の中で叫びつつ、歩を進めると────

「あれまぁ……ガミジンはんとウァサゴはんときたら、こんなに人を通して……ほんま、役立たずやわぁ」

 ────今度は三人目の四天王アガレスと遭遇する。
真っ黒な翼を背中に生やし、扇を広げる彼女は朱色の瞳をスッと細めた。
真っ赤な着物をしゃなりと揺らし、お団子にした黒髪から一本簪を抜く。
と同時に、その簪が巨大化し、剣のようになった。

「ほな、まとめてお相手してもらいましょか」

 簪の先端をこちらに向けつつ、アガレスは扇を軽く持ち上げる。
そして、優雅に振り下ろそうとした瞬間────『蒼天のソレーユ』のメンバーが牙を向いた。
『そうはさせるか!』とでも言うように。

 助かった……!アガレスの能力は風系で、あの扇を揺らすことによって発動するから……!
それを阻止してくれたのは、大きい!

 『最悪、僻地へ飛ばされているところだった!』と安堵する中、ヘスティアさんは後ろを振り返る。

「ニール!直ぐに戻る!」

 連携を崩しやすいアガレスとの相性を考え、ヘスティアさんは心配そうな表情を浮かべた。
恐らく、『紅蓮の夜叉』や『虐殺の紅月』のように決め手となる一撃を放てるメンバーが居ないため、不安になっているのだろう。
『連携だけで、アガレスにどこまで対抗出来るか』と。
後ろ髪を引かれる思いの彼女に、ニールさんは

「ほざけ!お前が戻るより早く、片を付けてやる!」

 と、怒鳴った。
『あまり見くびるなよ!』と叫び、ニールさんはカチャリと眼鏡を押し上げる。
『いいから、早く行け!』と急かす彼の前で、ヘスティアさんはようやく表情を和らげた。

「ああ、分かった!」

 太陽のように明るい笑顔を見せる彼女は、視線を前に戻し────二度と振り返らない。
ただひたすら、前進あるのみである。

「おっ?そろそろ、お城の入り口に辿り着くね~」

「じゃあ、僕達の出番ももうすぐだねー!」

『待ちくたびれたぞ』

 すぐそこまで迫った真っ黒な建物を前に、三馬鹿はワクワクしている。
恐らく、戦闘狂としての血が騒ぐのだろう。

 怯えて二の足を踏まれるよりいいけど……ここまで好戦的なのも、考えものだ。
ダンジョンボスのときのように、魔王を煽らないといいんだけど……無理だろうな、うん。
シムナさんあたりは、絶対小馬鹿にした態度を取ると思う。

 『もはや、手遅れ……』と痛感する中、ヘスティアさんは城の前に設置された橋へ足を掛けた。
その瞬間────空から、四人目の四天王バアルが降ってくる。
ドシンッと大きな音を立てて橋の向こう側に着地した彼は、黒い翼を閉じた。
腰まである銀髪を風に揺らしながら、バアルはエメラルドの瞳に我々を映し出す。
と同時に、パチンッと指を鳴らした。
すると、どこからともなく炎の塊が現れ……橋を焼き払おうとする。
でも、残念……こちらには、

「《ファイアランス》!」

 “炎帝”と呼ばれる、最強の魔法剣士が居る。
炎の塊を炎の槍で吹き飛ばし、橋を渡り切ったヘスティアさんは威勢よくバアルに斬り掛かった。

「っ……!」

「ほう?今の斬撃を避けるか!なかなか、やるな!」

 後ろへ飛び退いたバアルを前に、ヘスティアさんは『いい反射神経だ!』と褒めちぎる。
『いや、一応敵なんですけど……』というこちらのツッコミは聞こえていないようで、目を爛々と輝かせた。

「四天王バアル!貴様の炎と私の炎、どちらが上か勝負しようじゃないか!」

 同じ炎の使い手としてライバル意識を燃やし、ヘスティアさんはバアルを蹴り飛ばす。
と言っても、バッチリ防御態勢を取られていたため、ほぼノーダメージだろうが。
とはいえ、これで前に進める。

「無名、徳正、ヴィエラ、ラルカ、アラクネ、シムナ、ラミエル!ここは任せて、先に行け!魔王討伐クエストの命運は、お前達に託した!────必ずやけ遂げる、と信じている!」

 『生きて、現実あっちの世界で会おう!』と送り出すヘスティアさんに、私達は大きく頷いた。

「ああ、任せろ」

「ヘスティアお姉様は四天王のことだけ、考えていればいいよ~」

「私達に不可能はないってこと、証明してあげるわ」

現実世界リアルに戻った時のイメージトレーニングイメトレでも、していてくれ』

「へ、へへへへへへへ、ヘスティアさんもどうかお気をつけて!」

「うっかり、倒されないようにねー!」

「残った方々のことは、頼みました!」

 思い思いのセリフを口にする私達は、『じゃあ、また現実世界で後で』と横を通り過ぎる。
もう目と鼻の先まで迫った魔王戦を見据え、ひた走った。

「んじゃ、魔王城に突撃と行こうか~」

 大理石で作られた段差を駆け上がり、徳正さんは観音開きの扉を蹴破る。
ガタンッと大きな音を立てて床に転がる二枚の板を一瞥し、こちらを振り返った。

「てことで、ラーちゃん案内ナビよろしく~」

「任されました」

 真っ暗且つ真っ黒な室内を見回し、私は『サムヒーロー』時代の記憶を呼び覚ます。

 魔王城はあちこちにトラップが仕掛けられており、その対処をするだけで時間が掛かる。
でも、私達『サムヒーロー』は失敗を繰り返すうちにある抜け道を見つけた。
それは魔王の居る玉座の間まで直行出来る上、トラップもない。
まさに最高のルート。

「ヴィエラさん、灯りをお願いします。ただし、中央階段は照らさないよう気をつけてください」

「分かったわ」

 こちらの面倒臭い注文にも嫌な顔一つせず、ヴィエラさんは首を縦に振った。
かと思えば、本当に小さな光の玉を作り出す。
明るさもしっかり調整しており、階段に光が当たらないよう角度を注意してくれた。

「これでいいかしら?」

「はい、ありがとうございます」

 『助かりました』と言い、私は後ろにピッタリくっついてくるメンバーを見つめる。
『ちゃんと一列になっている……新鮮』と思いつつ視線を前に戻し、私は慎重に前へ進んだ。
床にも幾つかトラップが、仕掛けられているから。

 まあ、徳正さん達なら余裕で防ぎそうだけど……でも、トラップの中には移動系のものもあるため分断や遅延を防ぐためにも、出来るだけ避けたい。

 『今回は笑い話じゃ、済まないから』と自分に言い聞かせ、細心の注意を払う。
そして、何とか暖炉の傍まで来ると、溜まった灰を全て掻き出した。
と同時に、隠し通路の扉がひょっこり顔を出す。

「よいしょ、っと……」

 扉代わりの蓋を持ち上げ、私は何とか隠し通路を開いた。
下へ続く階段を見つめ、私は中腰になりながら足を掛ける。

「結構急なので、気をつけてください」

 念のため徳正さん達に声を掛けてから、私は階段を降りた。
一段一段、踏み締めるように。
『階段を踏み外して、転げ落ちたら最悪死ぬかも……』と警戒しつつ、何とか無事に最後の段まで降りる。
と同時に、少し開けた場所へ出た。

「あとは道なりに沿って、進んでいくだけです」

「そうか。案内、ご苦労」

「ここから先は、俺っち達が先頭になるよ~」

 リーダーの労いと徳正さんの提案に、私はコクリと頷いた。
一度隊列を組み直し、一本道を進んでいく。

「おっ?行き止まりっぽいね~。じゃあ────」

 そこで一度言葉を切ると、徳正さんは妖刀マサムネを手に持った。

「────天井をぶち壊そうか~」

「えっ……?いやいやいや……!ちゃんと手順を踏めば、上に行くための階段が出ますよ……!?」

 『待って、待って!』と制止の声を上げる私に、徳正さんはヘラリと笑う。

「悪いけど、あんな階段もう二度とラーちゃんに登らせたくない」

 『危険すぎる』と言い、徳正さんは迷わず天井を斬り落とした。
落ちてくる瓦礫をサッカーボールのように蹴り飛ばして退かせると、私の腰を掴む。
そして、一も二もなく跳躍した。
他の男性陣も、ヴィエラさんやアラクネさんを抱っこして飛び立つ。
『えぇ……!?』と叫ぶ私なんて無視して、全員地上……というか、玉座の間に降り立った。
旗やシャンデリアなど最小限の家具しかない空間で、私は慌てて空中をタップする。

 は、早く……早くアレを出さなきゃ!

 ────と焦る中、玉座に腰掛ける青年は目を覚ました。
真っ青な瞳に我々を映し出し、まだ小ぶりなツノを手で確認する彼は紫髪をサラリと揺らす。

「────今回の勇者はそれなりに楽しめそうだな」

 無機質な声でそう呟き、彼は赤く塗った爪をキラリと光らせた。
と同時に、こちらへ指先を向ける。

「それでは、早速お手並み拝見と行こうか」

 そう言って、ここら一帯を黒く染める彼は範囲攻撃に興じた。
いつものように・・・・・・・一発KOを狙う彼の前で、私はアイテムボックスから────即死回避のマジックアイテムである笛を取り出す。
『あの悪夢はもう繰り返さない!』と己に誓い、力いっぱい笛を吹いた。

 刹那、魔王の範囲攻撃────『暴食』が発動し、私達のHPを吸い込もうとする。
が……マジックアイテムの効果により、HPは0にならなかった。
そうこうしている間に攻撃の持続時間が切れ、黒く染まった部屋は元の色を取り戻す。

「《パーフェクトヒール・リンク》」

 HP残量1になった自分達をすかさず癒し、私は純白の杖をギュッと握り締めた。
と同時に、杖の先をトンッと床へ叩きつける。
サラサラと砂のように消えていくマジックアイテムを一瞥し、紫髪の青年を真っ直ぐ見つめた。

「今回は今までのようにいかないからね────魔王ルシファー!」
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