294 / 315
第七章
第293話『魔王城』
しおりを挟む
足止めされる危険性を示唆しながら、セトは新しい……というか、いつも使っている盾を取り出す。
ソレをウァサゴに向ける彼を前に、私達は全速力でこの場から離れた。
「セト!無理はしないでね!」
「おう!ラミエルも気をつけろよ!」
去り際に短く会話を交わし、私達は互いに頷き合うとそれぞれの役目に戻る。
正直凄く心配だが、ここはセトや『牙』の皆を信じて任せるしかなかった。
『必ず無事で居てね!』と心の中で叫びつつ、歩を進めると────
「あれまぁ……ガミジンはんとウァサゴはんときたら、こんなに人を通して……ほんま、役立たずやわぁ」
────今度は三人目の四天王アガレスと遭遇する。
真っ黒な翼を背中に生やし、扇を広げる彼女は朱色の瞳をスッと細めた。
真っ赤な着物をしゃなりと揺らし、お団子にした黒髪から一本簪を抜く。
と同時に、その簪が巨大化し、剣のようになった。
「ほな、まとめてお相手してもらいましょか」
簪の先端をこちらに向けつつ、アガレスは扇を軽く持ち上げる。
そして、優雅に振り下ろそうとした瞬間────『蒼天のソレーユ』のメンバーが牙を向いた。
『そうはさせるか!』とでも言うように。
助かった……!アガレスの能力は風系で、あの扇を揺らすことによって発動するから……!
それを阻止してくれたのは、大きい!
『最悪、僻地へ飛ばされているところだった!』と安堵する中、ヘスティアさんは後ろを振り返る。
「ニール!直ぐに戻る!」
連携を崩しやすいアガレスとの相性を考え、ヘスティアさんは心配そうな表情を浮かべた。
恐らく、『紅蓮の夜叉』や『虐殺の紅月』のように決め手となる一撃を放てるメンバーが居ないため、不安になっているのだろう。
『連携だけで、アガレスにどこまで対抗出来るか』と。
後ろ髪を引かれる思いの彼女に、ニールさんは
「ほざけ!お前が戻るより早く、片を付けてやる!」
と、怒鳴った。
『あまり見くびるなよ!』と叫び、ニールさんはカチャリと眼鏡を押し上げる。
『いいから、早く行け!』と急かす彼の前で、ヘスティアさんはようやく表情を和らげた。
「ああ、分かった!」
太陽のように明るい笑顔を見せる彼女は、視線を前に戻し────二度と振り返らない。
ただひたすら、前進あるのみである。
「おっ?そろそろ、お城の入り口に辿り着くね~」
「じゃあ、僕達の出番ももうすぐだねー!」
『待ちくたびれたぞ』
すぐそこまで迫った真っ黒な建物を前に、三馬鹿はワクワクしている。
恐らく、戦闘狂としての血が騒ぐのだろう。
怯えて二の足を踏まれるよりいいけど……ここまで好戦的なのも、考えものだ。
ダンジョンボスのときのように、魔王を煽らないといいんだけど……無理だろうな、うん。
シムナさんあたりは、絶対小馬鹿にした態度を取ると思う。
『もはや、手遅れ……』と痛感する中、ヘスティアさんは城の前に設置された橋へ足を掛けた。
その瞬間────空から、四人目の四天王バアルが降ってくる。
ドシンッと大きな音を立てて橋の向こう側に着地した彼は、黒い翼を閉じた。
腰まである銀髪を風に揺らしながら、バアルはエメラルドの瞳に我々を映し出す。
と同時に、パチンッと指を鳴らした。
すると、どこからともなく炎の塊が現れ……橋を焼き払おうとする。
でも、残念……こちらには、
「《ファイアランス》!」
“炎帝”と呼ばれる、最強の魔法剣士が居る。
炎の塊を炎の槍で吹き飛ばし、橋を渡り切ったヘスティアさんは威勢よくバアルに斬り掛かった。
「っ……!」
「ほう?今の斬撃を避けるか!なかなか、やるな!」
後ろへ飛び退いたバアルを前に、ヘスティアさんは『いい反射神経だ!』と褒めちぎる。
『いや、一応敵なんですけど……』というこちらのツッコミは聞こえていないようで、目を爛々と輝かせた。
「四天王バアル!貴様の炎と私の炎、どちらが上か勝負しようじゃないか!」
同じ炎の使い手としてライバル意識を燃やし、ヘスティアさんはバアルを蹴り飛ばす。
と言っても、バッチリ防御態勢を取られていたため、ほぼノーダメージだろうが。
とはいえ、これで前に進める。
「無名、徳正、ヴィエラ、ラルカ、アラクネ、シムナ、ラミエル!ここは任せて、先に行け!魔王討伐クエストの命運は、お前達に託した!────必ずやけ遂げる、と信じている!」
『生きて、現実世界で会おう!』と送り出すヘスティアさんに、私達は大きく頷いた。
「ああ、任せろ」
「ヘスティアお姉様は四天王のことだけ、考えていればいいよ~」
「私達に不可能はないってこと、証明してあげるわ」
『現実世界に戻った時のイメージトレーニングでも、していてくれ』
「へ、へへへへへへへ、ヘスティアさんもどうかお気をつけて!」
「うっかり、倒されないようにねー!」
「残った方々のことは、頼みました!」
思い思いのセリフを口にする私達は、『じゃあ、また現実世界で』と横を通り過ぎる。
もう目と鼻の先まで迫った魔王戦を見据え、ひた走った。
「んじゃ、魔王城に突撃と行こうか~」
大理石で作られた段差を駆け上がり、徳正さんは観音開きの扉を蹴破る。
ガタンッと大きな音を立てて床に転がる二枚の板を一瞥し、こちらを振り返った。
「てことで、ラーちゃん案内よろしく~」
「任されました」
真っ暗且つ真っ黒な室内を見回し、私は『サムヒーロー』時代の記憶を呼び覚ます。
魔王城はあちこちにトラップが仕掛けられており、その対処をするだけで時間が掛かる。
でも、私達『サムヒーロー』は失敗を繰り返すうちにある抜け道を見つけた。
それは魔王の居る玉座の間まで直行出来る上、トラップもない。
まさに最高のルート。
「ヴィエラさん、灯りをお願いします。ただし、中央階段は照らさないよう気をつけてください」
「分かったわ」
こちらの面倒臭い注文にも嫌な顔一つせず、ヴィエラさんは首を縦に振った。
かと思えば、本当に小さな光の玉を作り出す。
明るさもしっかり調整しており、階段に光が当たらないよう角度を注意してくれた。
「これでいいかしら?」
「はい、ありがとうございます」
『助かりました』と言い、私は後ろにピッタリくっついてくるメンバーを見つめる。
『ちゃんと一列になっている……新鮮』と思いつつ視線を前に戻し、私は慎重に前へ進んだ。
床にも幾つかトラップが、仕掛けられているから。
まあ、徳正さん達なら余裕で防ぎそうだけど……でも、トラップの中には移動系のものもあるため分断や遅延を防ぐためにも、出来るだけ避けたい。
『今回は笑い話じゃ、済まないから』と自分に言い聞かせ、細心の注意を払う。
そして、何とか暖炉の傍まで来ると、溜まった灰を全て掻き出した。
と同時に、隠し通路の扉がひょっこり顔を出す。
「よいしょ、っと……」
扉代わりの蓋を持ち上げ、私は何とか隠し通路を開いた。
下へ続く階段を見つめ、私は中腰になりながら足を掛ける。
「結構急なので、気をつけてください」
念のため徳正さん達に声を掛けてから、私は階段を降りた。
一段一段、踏み締めるように。
『階段を踏み外して、転げ落ちたら最悪死ぬかも……』と警戒しつつ、何とか無事に最後の段まで降りる。
と同時に、少し開けた場所へ出た。
「あとは道なりに沿って、進んでいくだけです」
「そうか。案内、ご苦労」
「ここから先は、俺っち達が先頭になるよ~」
リーダーの労いと徳正さんの提案に、私はコクリと頷いた。
一度隊列を組み直し、一本道を進んでいく。
「おっ?行き止まりっぽいね~。じゃあ────」
そこで一度言葉を切ると、徳正さんは妖刀マサムネを手に持った。
「────天井をぶち壊そうか~」
「えっ……?いやいやいや……!ちゃんと手順を踏めば、上に行くための階段が出ますよ……!?」
『待って、待って!』と制止の声を上げる私に、徳正さんはヘラリと笑う。
「悪いけど、あんな階段もう二度とラーちゃんに登らせたくない」
『危険すぎる』と言い、徳正さんは迷わず天井を斬り落とした。
落ちてくる瓦礫をサッカーボールのように蹴り飛ばして退かせると、私の腰を掴む。
そして、一も二もなく跳躍した。
他の男性陣も、ヴィエラさんやアラクネさんを抱っこして飛び立つ。
『えぇ……!?』と叫ぶ私なんて無視して、全員地上……というか、玉座の間に降り立った。
旗やシャンデリアなど最小限の家具しかない空間で、私は慌てて空中をタップする。
は、早く……早くアレを出さなきゃ!
────と焦る中、玉座に腰掛ける青年は目を覚ました。
真っ青な瞳に我々を映し出し、まだ小ぶりなツノを手で確認する彼は紫髪をサラリと揺らす。
「────今回の勇者はそれなりに楽しめそうだな」
無機質な声でそう呟き、彼は赤く塗った爪をキラリと光らせた。
と同時に、こちらへ指先を向ける。
「それでは、早速お手並み拝見と行こうか」
そう言って、ここら一帯を黒く染める彼は範囲攻撃に興じた。
いつものように一発KOを狙う彼の前で、私はアイテムボックスから────即死回避のマジックアイテムである笛を取り出す。
『あの悪夢はもう繰り返さない!』と己に誓い、力いっぱい笛を吹いた。
刹那、魔王の範囲攻撃────『暴食』が発動し、私達のHPを吸い込もうとする。
が……マジックアイテムの効果により、HPは0にならなかった。
そうこうしている間に攻撃の持続時間が切れ、黒く染まった部屋は元の色を取り戻す。
「《パーフェクトヒール・リンク》」
HP残量1になった自分達をすかさず癒し、私は純白の杖をギュッと握り締めた。
と同時に、杖の先をトンッと床へ叩きつける。
サラサラと砂のように消えていくマジックアイテムを一瞥し、紫髪の青年を真っ直ぐ見つめた。
「今回は今までのようにいかないからね────魔王ルシファー!」
ソレをウァサゴに向ける彼を前に、私達は全速力でこの場から離れた。
「セト!無理はしないでね!」
「おう!ラミエルも気をつけろよ!」
去り際に短く会話を交わし、私達は互いに頷き合うとそれぞれの役目に戻る。
正直凄く心配だが、ここはセトや『牙』の皆を信じて任せるしかなかった。
『必ず無事で居てね!』と心の中で叫びつつ、歩を進めると────
「あれまぁ……ガミジンはんとウァサゴはんときたら、こんなに人を通して……ほんま、役立たずやわぁ」
────今度は三人目の四天王アガレスと遭遇する。
真っ黒な翼を背中に生やし、扇を広げる彼女は朱色の瞳をスッと細めた。
真っ赤な着物をしゃなりと揺らし、お団子にした黒髪から一本簪を抜く。
と同時に、その簪が巨大化し、剣のようになった。
「ほな、まとめてお相手してもらいましょか」
簪の先端をこちらに向けつつ、アガレスは扇を軽く持ち上げる。
そして、優雅に振り下ろそうとした瞬間────『蒼天のソレーユ』のメンバーが牙を向いた。
『そうはさせるか!』とでも言うように。
助かった……!アガレスの能力は風系で、あの扇を揺らすことによって発動するから……!
それを阻止してくれたのは、大きい!
『最悪、僻地へ飛ばされているところだった!』と安堵する中、ヘスティアさんは後ろを振り返る。
「ニール!直ぐに戻る!」
連携を崩しやすいアガレスとの相性を考え、ヘスティアさんは心配そうな表情を浮かべた。
恐らく、『紅蓮の夜叉』や『虐殺の紅月』のように決め手となる一撃を放てるメンバーが居ないため、不安になっているのだろう。
『連携だけで、アガレスにどこまで対抗出来るか』と。
後ろ髪を引かれる思いの彼女に、ニールさんは
「ほざけ!お前が戻るより早く、片を付けてやる!」
と、怒鳴った。
『あまり見くびるなよ!』と叫び、ニールさんはカチャリと眼鏡を押し上げる。
『いいから、早く行け!』と急かす彼の前で、ヘスティアさんはようやく表情を和らげた。
「ああ、分かった!」
太陽のように明るい笑顔を見せる彼女は、視線を前に戻し────二度と振り返らない。
ただひたすら、前進あるのみである。
「おっ?そろそろ、お城の入り口に辿り着くね~」
「じゃあ、僕達の出番ももうすぐだねー!」
『待ちくたびれたぞ』
すぐそこまで迫った真っ黒な建物を前に、三馬鹿はワクワクしている。
恐らく、戦闘狂としての血が騒ぐのだろう。
怯えて二の足を踏まれるよりいいけど……ここまで好戦的なのも、考えものだ。
ダンジョンボスのときのように、魔王を煽らないといいんだけど……無理だろうな、うん。
シムナさんあたりは、絶対小馬鹿にした態度を取ると思う。
『もはや、手遅れ……』と痛感する中、ヘスティアさんは城の前に設置された橋へ足を掛けた。
その瞬間────空から、四人目の四天王バアルが降ってくる。
ドシンッと大きな音を立てて橋の向こう側に着地した彼は、黒い翼を閉じた。
腰まである銀髪を風に揺らしながら、バアルはエメラルドの瞳に我々を映し出す。
と同時に、パチンッと指を鳴らした。
すると、どこからともなく炎の塊が現れ……橋を焼き払おうとする。
でも、残念……こちらには、
「《ファイアランス》!」
“炎帝”と呼ばれる、最強の魔法剣士が居る。
炎の塊を炎の槍で吹き飛ばし、橋を渡り切ったヘスティアさんは威勢よくバアルに斬り掛かった。
「っ……!」
「ほう?今の斬撃を避けるか!なかなか、やるな!」
後ろへ飛び退いたバアルを前に、ヘスティアさんは『いい反射神経だ!』と褒めちぎる。
『いや、一応敵なんですけど……』というこちらのツッコミは聞こえていないようで、目を爛々と輝かせた。
「四天王バアル!貴様の炎と私の炎、どちらが上か勝負しようじゃないか!」
同じ炎の使い手としてライバル意識を燃やし、ヘスティアさんはバアルを蹴り飛ばす。
と言っても、バッチリ防御態勢を取られていたため、ほぼノーダメージだろうが。
とはいえ、これで前に進める。
「無名、徳正、ヴィエラ、ラルカ、アラクネ、シムナ、ラミエル!ここは任せて、先に行け!魔王討伐クエストの命運は、お前達に託した!────必ずやけ遂げる、と信じている!」
『生きて、現実世界で会おう!』と送り出すヘスティアさんに、私達は大きく頷いた。
「ああ、任せろ」
「ヘスティアお姉様は四天王のことだけ、考えていればいいよ~」
「私達に不可能はないってこと、証明してあげるわ」
『現実世界に戻った時のイメージトレーニングでも、していてくれ』
「へ、へへへへへへへ、ヘスティアさんもどうかお気をつけて!」
「うっかり、倒されないようにねー!」
「残った方々のことは、頼みました!」
思い思いのセリフを口にする私達は、『じゃあ、また現実世界で』と横を通り過ぎる。
もう目と鼻の先まで迫った魔王戦を見据え、ひた走った。
「んじゃ、魔王城に突撃と行こうか~」
大理石で作られた段差を駆け上がり、徳正さんは観音開きの扉を蹴破る。
ガタンッと大きな音を立てて床に転がる二枚の板を一瞥し、こちらを振り返った。
「てことで、ラーちゃん案内よろしく~」
「任されました」
真っ暗且つ真っ黒な室内を見回し、私は『サムヒーロー』時代の記憶を呼び覚ます。
魔王城はあちこちにトラップが仕掛けられており、その対処をするだけで時間が掛かる。
でも、私達『サムヒーロー』は失敗を繰り返すうちにある抜け道を見つけた。
それは魔王の居る玉座の間まで直行出来る上、トラップもない。
まさに最高のルート。
「ヴィエラさん、灯りをお願いします。ただし、中央階段は照らさないよう気をつけてください」
「分かったわ」
こちらの面倒臭い注文にも嫌な顔一つせず、ヴィエラさんは首を縦に振った。
かと思えば、本当に小さな光の玉を作り出す。
明るさもしっかり調整しており、階段に光が当たらないよう角度を注意してくれた。
「これでいいかしら?」
「はい、ありがとうございます」
『助かりました』と言い、私は後ろにピッタリくっついてくるメンバーを見つめる。
『ちゃんと一列になっている……新鮮』と思いつつ視線を前に戻し、私は慎重に前へ進んだ。
床にも幾つかトラップが、仕掛けられているから。
まあ、徳正さん達なら余裕で防ぎそうだけど……でも、トラップの中には移動系のものもあるため分断や遅延を防ぐためにも、出来るだけ避けたい。
『今回は笑い話じゃ、済まないから』と自分に言い聞かせ、細心の注意を払う。
そして、何とか暖炉の傍まで来ると、溜まった灰を全て掻き出した。
と同時に、隠し通路の扉がひょっこり顔を出す。
「よいしょ、っと……」
扉代わりの蓋を持ち上げ、私は何とか隠し通路を開いた。
下へ続く階段を見つめ、私は中腰になりながら足を掛ける。
「結構急なので、気をつけてください」
念のため徳正さん達に声を掛けてから、私は階段を降りた。
一段一段、踏み締めるように。
『階段を踏み外して、転げ落ちたら最悪死ぬかも……』と警戒しつつ、何とか無事に最後の段まで降りる。
と同時に、少し開けた場所へ出た。
「あとは道なりに沿って、進んでいくだけです」
「そうか。案内、ご苦労」
「ここから先は、俺っち達が先頭になるよ~」
リーダーの労いと徳正さんの提案に、私はコクリと頷いた。
一度隊列を組み直し、一本道を進んでいく。
「おっ?行き止まりっぽいね~。じゃあ────」
そこで一度言葉を切ると、徳正さんは妖刀マサムネを手に持った。
「────天井をぶち壊そうか~」
「えっ……?いやいやいや……!ちゃんと手順を踏めば、上に行くための階段が出ますよ……!?」
『待って、待って!』と制止の声を上げる私に、徳正さんはヘラリと笑う。
「悪いけど、あんな階段もう二度とラーちゃんに登らせたくない」
『危険すぎる』と言い、徳正さんは迷わず天井を斬り落とした。
落ちてくる瓦礫をサッカーボールのように蹴り飛ばして退かせると、私の腰を掴む。
そして、一も二もなく跳躍した。
他の男性陣も、ヴィエラさんやアラクネさんを抱っこして飛び立つ。
『えぇ……!?』と叫ぶ私なんて無視して、全員地上……というか、玉座の間に降り立った。
旗やシャンデリアなど最小限の家具しかない空間で、私は慌てて空中をタップする。
は、早く……早くアレを出さなきゃ!
────と焦る中、玉座に腰掛ける青年は目を覚ました。
真っ青な瞳に我々を映し出し、まだ小ぶりなツノを手で確認する彼は紫髪をサラリと揺らす。
「────今回の勇者はそれなりに楽しめそうだな」
無機質な声でそう呟き、彼は赤く塗った爪をキラリと光らせた。
と同時に、こちらへ指先を向ける。
「それでは、早速お手並み拝見と行こうか」
そう言って、ここら一帯を黒く染める彼は範囲攻撃に興じた。
いつものように一発KOを狙う彼の前で、私はアイテムボックスから────即死回避のマジックアイテムである笛を取り出す。
『あの悪夢はもう繰り返さない!』と己に誓い、力いっぱい笛を吹いた。
刹那、魔王の範囲攻撃────『暴食』が発動し、私達のHPを吸い込もうとする。
が……マジックアイテムの効果により、HPは0にならなかった。
そうこうしている間に攻撃の持続時間が切れ、黒く染まった部屋は元の色を取り戻す。
「《パーフェクトヒール・リンク》」
HP残量1になった自分達をすかさず癒し、私は純白の杖をギュッと握り締めた。
と同時に、杖の先をトンッと床へ叩きつける。
サラサラと砂のように消えていくマジックアイテムを一瞥し、紫髪の青年を真っ直ぐ見つめた。
「今回は今までのようにいかないからね────魔王ルシファー!」
4
お気に入りに追加
378
あなたにおすすめの小説
貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~
喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。
庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。
そして18年。
おっさんの実力が白日の下に。
FランクダンジョンはSSSランクだった。
最初のザコ敵はアイアンスライム。
特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。
追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。
そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。
世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。
幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』
電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。
龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。
そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。
盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。
当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。
今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。
ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。
ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ
「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」
全員の目と口が弧を描いたのが見えた。
一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。
作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌()
15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

野草から始まる異世界スローライフ
深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。
私ーーエルバはスクスク育ち。
ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。
(このスキル使える)
エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。
エブリスタ様にて掲載中です。
表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。
プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。
物語は変わっておりません。
一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。
よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる