『魔王討伐クエスト』で役に立たないからと勇者パーティーに追い出された回復師は新たな仲間と無双する〜PK集団が英雄になるって、マジですか!?〜

あーもんど

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第六章

第287話『ノースダンジョン攻略完了』

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 血迷ったとしか思えないシムナさんの行動に、私は頭を悩ませる。
『斧のままで良かったんじゃない?』と言うべきか、本気で迷った。
慌てふためく私を他所に────シムナさんは銃の引き金に手を掛け、ニヤリと笑う。

「────|《サン・ヒート・ショット》」

 ここに来て、スキルを発動したシムナさんは一瞬の躊躇いもなく、引き金を引いた。
刹那────神龍シェンロンの体の一部は膨れ上がり、腫れたように赤くなる。かと思えば、例の傷口から炎が漏れ出した。
黒い煙と共に肉の焼けたような臭いも広がり、私は思わず鼻を摘む。

 銃口を相手の体内にめり込ませた上でのゼロ距離射撃……!これはかなりエグい……!スキル入りとなれば、尚更……!

 『武器を変えたのは、このためか!』と納得しつつ、私は治癒魔法を展開した。
火傷を負ったであろうシムナさんに治癒を施し、一息つく。
傷口から噴き出た炎はスキルによるものだったため、問題ないが……スキルによって、沸騰した神龍シェンロンの血は違う。
二次被害によって、齎されるダメージは発動者にも、そのまま反映されるのだ。
まあ、シムナさんなら火傷くらい大丈夫だと思うが……。

 熱湯程度で、へこたれる人じゃないしね……。
それでも、火傷前提の攻撃はやめて欲しいけど……正直、心臓に悪い。

 『もう少し自分を大事にしてくれ』と願いつつ、私は防御力アップの支援魔法も送る。
手厚いサポートに気を良くしたのか、シムナさんは嬉しそうに頬を緩めた。
こちらに手を振りながら、彼は『ありがとー!』と元気よくお礼を言う。
全く懲りてないシムナさんの態度に呆れながら、私は黙って手を振り返した。

 『もう何も言うまい……』と苦笑いする中、アラクネさんはおもむろに蜘蛛糸を構える。
そして、自分自身に身体強化魔法を掛けると────神龍シェンロン目掛けて、蜘蛛糸の先端を放り投げた。
風を切る音と共に飛んでいくソレは、重力操作など諸共せず……見事、傷口にめり込む。
行く手を阻む鱗がないため、スルスルと中へ入っていき、瞬く間に血管を切り裂いた。

『うぎゃぁぁぁぁああああ!!!』

 神龍シェンロンは断末魔にも似た叫び声を上げ、悶絶する。
よく切れるワイヤーに蝕まれているような状況のため、かなり参っているようだ。

 アラクネさんって、案外容赦ないよね……。
今までは裏方に回っていたから、気づかなかったけど、意外と戦闘向きかも……。

 『もう非戦闘要員なんて、呼べないな……』と苦笑しつつ、私は事の成り行きを見守る。
うっすらと見える半透明の糸を視線で追うと、アラクネさんの手元に辿り着いた。
小さな手でしっかりと蜘蛛糸を握る彼女は、キュッと口元に力を入れる。
そして、一度深呼吸すると────蜘蛛糸を思い切り引っ張った。
刹那、神龍シェンロンの血肉は裂け、地面へと落ちる。
イノシシより大きな肉塊は、蜘蛛糸で更に切り刻まれ、無惨な状態になった。

 まさか、ゲームで生肉を見せられるとは思わなかったな……。
FROって、いつからグロゲーになったの……?ジャンル変更なんて、聞いてないんだけど……?

 血生臭い現場を見せられた私は、なんとも言えない気持ちで天を仰いだ。
『マグロの解体ショーって、こんな感じかな?』と現実逃避を始める中、男性陣は鼻息荒く捲し立てる。

「すごーい!ミミズの生肉だー!」

「あれって、食べられるのかな~?」

『火を通せば、いけるんじゃないか?』

「腹を壊すから、やめておけ」

 シムナさん、徳正さん、ラルカさん、リーダーの四人は血を大量に含んだ肉塊に釘付けとなっている。
まあ、それでも攻撃の手を緩めることはないが……。

「何はともあれ────よくやった、アラクネ。いい攻撃だったぞ」

「あ、ああああああ、ありがとうございます!」

 蜘蛛糸の回収に励むアラクネさんは、慌てて作業の手を止め、お礼を言った。
深々と頭を下げる彼女に一つ頷き、リーダーは足元に目を向ける。
そして、傷口に突き刺したままの大剣を引き抜くと、おもむろに構えた。

「さて────そろそろ、トドメを刺すか」

 神龍シェンロンの限界が近いことを悟ったのか、リーダーは『決着をつける』と宣言する。
殺人予告をされた神龍シェンロンは、もう言い返す気力も湧かないようで……ひたすら、呻き声を上げた。
息も絶え絶えといった様子の奴を前に、リーダーはスッと目を細める。

「巻き込まれたくなかったら、離れていろ」

「りょーかーい!」

「んじゃ、俺っち達は先に降りてるね~」

『お頭の健闘を祈っている』

 シムナさん、徳正さん、ラルカさんの三人は各々武器を回収し、地上へ降り立った────かと思えば、結界に駆け込む。
素直に前線を退いた彼らに、ヴィエラさんは労いの言葉を掛けると、もう一つ結界を展開した。
防御体制に入った私達を他所に、リーダーはゆっくりと口を開く。

「────狂戦士バーサーカー化40%……|《狂剣の舞》」

 一撃で仕留めるつもりなのか、リーダーは珍しくスキルを発動した。
一気に気配の濃くなった彼は、狂戦士バーサーカーらしい威圧感を放つ。
息が詰まるほどの殺気を放ち、パーティーメンバーである私達さえも圧倒した。

 こ、れは……なかなか堪えるな。
リーダーは味方だと分かっていても、体が言うことを聞かない……本能的に『怖い』と思ってしまう。

 震えの止まらない手をギュッと握り締め、私は何度も深呼吸する。
底知れぬ恐怖を感じながらも、私は何とか平静を保った。

「主君の殺気は相変わらず、強烈だね~。久々だと、結構効くなぁ~」

「手足がビリビリして、楽しいよねー!僕は好きー!」

『そんなことを言うのは、お前だけだ』

 徳正さん、シムナさん、ラルカさんの三人はリーダーの殺気に慣れているのか、顔色一つ変えない。
少なくとも、軽口を叩き合う余裕はあるようだ。
マイペースに振る舞う彼らを前に、私はちょっとだけ気が緩む。
『三馬鹿はどんな時でも、変わらないな』と苦笑する中────リーダーは武器を振り下ろした。

 剥き出しになった血管と神経に大剣を突き立て、奥まで差し込む。
途端に神龍シェンロンは、『ぎゃぁぁああああ』と断末魔を上げ────光の粒子と化した。
蛍のような淡い光は攻撃の余波を受け、ブワッと広がる。
至るところに飛び散る光の粒子を前に、リーダーはトンッと地面に着地した。
狂戦士バーサーカー特有の禍々しいオーラを仕舞い、『終わったな』と呟く。

 ────こうして、私達はノースダンジョン攻略を果たし、全ダンジョン攻略クエストに成功したのだった。
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