『魔王討伐クエスト』で役に立たないからと勇者パーティーに追い出された回復師は新たな仲間と無双する〜PK集団が英雄になるって、マジですか!?〜

あーもんど

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第六章

第286話『好機』

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 アラクネさんって、平気な顔して恐ろしいことをやってのけるよね……。味方で本当に良かったよ……敵だったらと思うと、震えが止まらない。

 小刻みに震える手のひらを見つめ、私は『絶対に敵に回したくない人だ』と苦笑いする。
隣に立つヴィエラさんも、今回はさすがにヤバいと判断したのか、僅かに頬を引き攣らせた。
『もしも、プレイヤーにも有効な毒だったら』と考えると、危機感を覚えずにはいられないらしい。

「えっと……とりあえず、試作品の使用はしばらく控えてくれる?どうしても、使用したい場合は私達に相談してちょうだい。必要であれば、魔物モンスターを生け捕りにしたり、実験材料を揃えたりするから。ねっ?」

 幼子おさなごに言い聞かせるような口調で諭し、ヴィエラさんはアラクネさんに賛同を求める。
『好き勝手に動くな』と釘を刺されたアラクネさんは、大して抵抗することもなく、すんなり頷いた。

「わ、分かりました!今度からはそうします!」

 了承の意を示すアラクネさんは、慌てて香水をアイテムボックスの中に仕舞う。
でも、観察をやめるつもりはないのか、レポートは手に持ったままだ。

 まあ、経過を観察するくらいは別にいいか。私達に害がある訳じゃないし……。

 『好きにさせておこう』と結論づけた私は、研究熱心なアラクネさんから視線を逸らす。
紙とペンの擦れる音を聞きながら、未だに暴れ回る神龍シェンロンに目を向けた。
白目を剥く神龍シェンロンは、リーダー達の攻撃によって更なる苦痛を伴う。
気を失うことも出来ずに苦しみ続ける姿は、凄惨そのものだった。

 ちょっと気の毒ではあるけど……戦況を考えれば、かなり有利な状況だ。
ここまで冷静さを失えば、反撃しようとは思わない筈……少なくとも、ブラックホールを打たれる心配はないだろう。今の神龍シェンロンに戦う意思はないようだから……。
とはいえ、毒の効果がいつ切れるか分からないから、今のうちにケリをつけてしまおう。

「正気を失っている今が好機です!皆さん、スキルと魔法を解放してください!」

 『魔力MPの消費量は気にしなくてもいい』と告げ、私は徹底的に叩き潰すよう命じた。
戦意喪失しつつある敵に追い討ちを掛けるなんて、冷酷そのものだが────ウチのメンバーは二つ返事で、了承する。
情けも容赦も必要ないと言わんばかりに、それぞれスキルや魔法を発動した。

「最後くらい、派手に行こうかしら────スキル|《魔力無限》発動」

 悪戯っぽく微笑むヴィエラさんは、限界突破オーバーラインで得たスキルを発動する。
魔力MPの制限から解放された彼女は、即座に魔法を展開した。

「全てを切り裂く刃となれ────|《万物切断》」

 風の最上位魔法を発動したヴィエラさんは、ブーメラン型の刃を顕現させる。
圧縮された空気で作られたソレは、大鎌ほどの大きさがあった。

 『命中したら、一溜りもなさそうだ』と考える中、ヴィエラさんはパチンッと指を鳴らす。
それを合図に、半透明の刃は発射され────無防備に晒された神龍シェンロンの皮膚に突き刺さった。
そのまま内部へと食い込んだ刃は、奴の臓器や神経までも切り裂き、腸から飛び出す。
残念ながら、胴体を切断することは出来なかったが、奴の体に大穴を開けることは出来た。

 神龍シェンロンの体を完全に貫いた……!反対側の鱗は引き剥がしていなかったのに……!さすがは風の最上位魔法ね……!切れ味が半端ない……!

 シュルシュルと煙のように消えていく風の刃を前に、私は思わずガッツポーズする。
『このまま押し切れそう!』と浮かれる中、神龍シェンロンの傷口から大量の血が噴き出た。
雨のように降り注ぐ返り血を見つめ、私はサァーッと青ざめる。
泣く子も黙る惨たらしい光景に、吐き気を覚えるものの……何とか堪えた。

 ここで吐いたら、変な誤解を生みかねない……何より、頑張ってくれたヴィエラさんに申し訳ない。

 『そもそも、これは私の命令なんだし……』と考え、己を律する。
気合いと根性で何とか吐き気を抑える中、ヴィエラさんは次々と強力な魔法を放った。
魔力MP切れを気にしなくてもいいからか、彼女の横顔は実に活き活きとしている。
自由に……そして、好きなだけ魔法を使える状況はヴィエラさんによって、至福そのものらしい。
怒涛の魔法攻撃に早くも神龍シェンロンが音を上げる中、他のメンバーも動き出した。

「ヴィエラお姉様ってば、相変わらずエゲつないな~。俺っち達も頑張らないと~」

『このままだと、出番なしだな。少しばかり、本気を出すか』

 神龍シェンロンの背中に立つ徳正さんとラルカさんは、それぞれ武器を構える。
準備万端の彼らは、大きく振りかぶると────神龍シェンロンの傷口目掛けて、武器を振り下ろした。
刹那、奴の絶叫と共に血飛沫が上がり、ボスフロアを汚す。
もう何度目か分からない血の雨を目撃し、私は『ゲームのくせに無駄にグロい……』と呟いた。

 それにしても、神龍シェンロンのHPは凄まじいな。あれだけダメージを負っていながら、まだ倒れないなんて……。フロアボスなら、とっくに消滅しているよ。

「ダンジョンボスって、本当にタフですね」

 『ドラゴンだからかな?』と考えつつ、私はダンジョンボスそのものに感服する。
素直な感想を述べる私の前で、アラクネさんはカチャリと眼鏡を押し上げた。

「た、確かに神龍シェンロンの生命力はゴキブリ並ですね……!」

「ふふふっ。そうね。でも、逆に良かったじゃない────HPが多ければ多いほど、長く苦しめられるんだから」

 クスクスと笑みを零すヴィエラさんは、上品な口調で恐ろしいことを口走る。
馬鹿にされたことをまだ根に持っているのか、彼女は復讐の鬼と化していた。
同じ場所を執拗に攻撃する彼女に狂気を感じつつ、私は『そ、そうですね……』と頷く。
引き攣りそうになる頬を何とか動かし、自然に振る舞う中────ついにシムナさんが動き出す。

「僕も負けていられないねー!徳正達より、活躍しなきゃー!」

 謎の対抗心を燃やすシムナさんは、金と銀の斧を一旦アイテムボックスに仕舞った。
代わりにアラクネさんお手製の狙撃銃を取り出し、ニンマリと笑う。
『今度は何をやらかすつもりだ……?』と不安になる中、彼は銃口を下に向けた────かと思えば、傷口にそのまま突き刺す。
返り血で濡れるのも気にせず、グイグイと奥に押し込んだ。

 えっ……!?一体、何をやっているの……!?まさか、銃本体で攻撃を……!?いや、それはさすがに非効率的すぎない……!?狙撃手スナイパーの職業能力はあくまで銃撃に作用するのであって、銃本体に効果はないだけど……!?『狙撃銃で攻撃したから、ダメージ増加』なんて、特典はないよ……!?
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