『魔王討伐クエスト』で役に立たないからと勇者パーティーに追い出された回復師は新たな仲間と無双する〜PK集団が英雄になるって、マジですか!?〜

あーもんど

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第六章

第284話『戦闘再開』

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 危ない危ない……ラルカさんの素顔が衝撃的すぎて、神龍シェンロンの存在をすっかり忘れていたよ。

 『神龍シェンロンに回復する時間を与えてしまった』と後悔する私は、小さく肩を落とす。
でも、ラルカさんの素顔を見た直後に戦闘再開できるほど、私は冷静沈着な人間じゃなかった。

 たとえ、過去に戻れたとしても、私は同じ過ちを繰り返すだろう……。それくらい、ラルカさんの素顔はインパクトが強かった。

「あれー?まだ居たのー?存在感薄すぎて、気づかなかったよー」

『なっ……!?無礼だぞ!愚かな人間の分際で、なんて生意気な……!』

 シムナさんの挑発にあっさり乗せられた神龍シェンロンは、怒りを露わにする。
犬のようにキャンキャン吠えるさまは、ちょっと惨めだった。
殺気立つ神龍シェンロンを前に、ヴィエラさんはクスリと笑みを漏らす。

「シムナったら、ダメじゃない。こういう時はもっとオブラートに包んで、言ってあげないと────影の薄さに関しては世界一ですね、とか」

 ブラックホールで死にかけたからか、ヴィエラさんは神龍シェンロンのことを煽りまくった。
意地の悪い笑みを浮かべ、『ミミズさんが可哀想よ』と馬鹿にする。
意外と根に持つタイプなのか、ネチネチと嫌味を言い続けた。

 女の人って、恐ろしいな。まあ、私も女なんだけど。

 活き活きとした表情を見せるヴィエラさんに、私は恐れを抱く。
『絶対に敵に回したくないタイプだ』と確信する中、彼女は再度結界を張ってくれた。
重力操作の影響下から解放され、身軽になった私とアラクネさんはゆっくりと立ち上がる。
痺れた体をほぐしつつ、上空に居る神龍シェンロンと顔を合わせた。

 さて、と……もうそろそろ戦闘再開と行こうか。ブラックホールのクールタイムを考えると、ゆっくりしていられる時間はなさそうだし。何の行動も起こさないまま、第三波をくらうのはさすがに不味い。

 ラルカさんの顔バレ事件で緩んでしまった頬を引き締め、私はゆっくりと息を吐く。
ここは戦場なのだと今一度自分に言い聞かせると、真っ直ぐに前を見据えた。

「皆さん、戦闘準備に入ってください。一気に片をつけます」

 『お遊びはここまでだ』と言い放ち、私は純白の杖を構える。
戦闘再開を仄めかす私に、パーティーメンバーは元気よく頷いた。
嬉々として武器を手に持ち、神龍シェンロンを睨みつける。

「反撃する間もなく、殺してあげるよー」

「命乞いするなら、今のうちよ。まあ、『殺さないで』と懇願されても、やめるつもりはないけど」

 殺る気満々のシムナさんに続くように、ヴィエラさんは宣戦布告を言い渡した。
愉快げに目を細める彼女に対し、徳間さんは『ヴィエラお姉様、こわ~い』と野次を飛ばす。
でも、引導を渡された張本人は煽り散らす余裕もないようで、ブルリと身を震わせた。
死の恐怖に苛まれる神龍シェンロンは、一瞬泣きそうになるものの……エベレスト並に高いプライドに支えられ、何とか堪える。

『や、やれるものなら、やってみなさい!貴方達こそ、今更『助けて欲しい』と頼み込んできても無駄ですよ!』

 頑張って虚勢を張る神龍シェンロンは、震える声で啖呵を切った。
強がっているのは明らかだが、本人は至って真剣である。
恐らく、バレていないと思っているのだろう。

 いや、バレバレだよ。大根役者も驚きの下手さなんだけど……。

 演技力0の神龍シェンロンを前に、私は『何故それで行けると思ったのか』と呆れ返る。
わざわざ指摘するのも面倒だと思い、放置する中、戦闘狂のシムナさんは動き出した。

「んじゃ、遠慮なく行かせてもらうねー」

 うっそりと笑うシムナさんは、待ち切れない様子で舌なめずりする。
完全に獲物をロックオンした彼は、軽く助走をつけてジャンプした。
死の恐怖に苛まれる神龍シェンロンは、ギョッとするものの……逃げる間もなく、背中に着地されてしまう。
慌てて振り落とそうと身じろぎするが、シムナさんには通用しなかった。

「あはははー!なんか、遊園地のアトラクションみたーい!超楽しー!」

 ケラケラと笑い声を上げるシムナさんは、神龍シェンロンの背中に銀の斧を突き立てる。
持ち手の一歩手前まで深く突き刺すと、それを命綱代わりに利用した。
釘のように固定されたソレは、神龍シェンロンが暴れてもビクともしない。
横向きになろうが、仰向けになろうが、銀の斧に捕まっていれば落ちる心配はなかった。

 鱗剥ぎといい、命綱といい……シムナさんは毎回、凄いことを思いつくな。頭を使って、戦えるようになったのは大きな進歩だけど、ここまで残酷だと少し怖い。開けてはいけないパンドラの箱を開けた気分だよ……。

 『私の教育方針は間違っていたのか?』と悩みつつ、静かに戦況を見守る。
神龍シェンロンの背中に居座るシムナさんは、銀の斧を掴みつつ、金の斧で絶えず攻撃を仕掛けていた。
ガンガンと殴るように皮膚を切り裂く彼は、終始笑顔である。

 『なんだ、このサイコパスは……』と言いたくなるような所業に、私は目眩を覚えた。
だが、他のメンバーは満足そうな様子で、『いいぞ、もっとやれ!』と野次を飛ばす。まさにカオスな状況だった。

「私達も負けていられないわね!」

「が、頑張りましょう……!!」

 グッと拳を握るヴィエラさんとアラクネさんは、互いに頷き合う。
気合い十分の女性陣を他所に、徳正さん達もそれぞれ決意表明した。

「とりあえず、加勢に行こっか~!ブラックホールのクールタイムが終わる前に片をつけないと、いけないし~!」

『うむ……今のぺースだと、間に合わないな。出し惜しみしている場合では、ないかもしれない』

「そうだな。スキルをふんだんに使って、神龍シェンロンを追い詰めるぞ」

 遠回しに『集中砲火するぞ』と告げ、リーダーは徳正さんとラルカさんを引き連れて、駆け出した。
痛みに悶絶する神龍シェンロンを他所に、彼らは一斉に地面を蹴る。
ふわりと宙に浮いた体は、物凄いスピードで神龍シェンロンに迫るものの……奴の尻尾に弾かれた。
空中でバランスを崩した彼らは、重力操作の影響もあり、そのまま急降下していく。

「《アイスウォール》」

「《ハイヒール》」

 冷静に対応するヴィエラさんを前に、私も急いで治癒魔法を展開した。
徳正さん達の防御力ならノーダメージで済むと思うが、念には念を入れる必要がある。
淡い光に包まれる男性陣は空中で体勢を整えると、足場代わりに作った氷壁へ降り立つ。
見たところ、三人とも特に怪我はなさそうだった。

「はぁ……尻尾に弾き落とされるとか、俺っち達ダサすぎない~?ちょっとショックなんだけど~」

『重力操作の影響さえ受けていなければ、いくらでも回避できたんだがな……』

「……空中で旋回できないのは地味に痛いな」

 徳正さん、ラルカさん、リーダーの三人は悩ましげな表情を浮かべる。
『ミミズに妨害されるなんて……』と落ち込む彼らは、深い溜め息を零した。
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