『魔王討伐クエスト』で役に立たないからと勇者パーティーに追い出された回復師は新たな仲間と無双する〜PK集団が英雄になるって、マジですか!?〜

あーもんど

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第六章

第281話『奥の手』

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『もうこれ以上、我慢できません!────奥の手・・・を使わせて頂きます!』

 ボスフロアの天井ギリギリまで舞い上がった神龍シェンロンは、キッとこちらを睨みつける。
よっぽど私達のことが憎いのか、奴の目は殺意と敵意で満たされていた。

 やっぱり、奥の手があったか。まあ、そう簡単に終わる訳ないよね。相手は一応、ノースダンジョンのボスなんだし。

「皆さん、気をつけてください!神龍シェンロンの奥の手がどんなものなのか、判明するまでは回避に専念するように!決して、触らないでください!」

 一発KO技だったら大変だからと、私はパーティーメンバーに注意を促した。
アラクネさん以外はダンジョンボスとの戦いを経験済みなので、『分かった』と直ぐに了承する。
誰もが神龍シェンロンの行動を警戒する中、奴は突然パカッと口を開けた────かと思えば、奴の口内に莫大なエネルギーが溜まっていく。
どんどん凝縮されていくソレは、やがて黒い球体となり────発射された。

 拳サイズの黒い球体はシムナさん目掛けて、飛んでいく。
標的にされたシムナさんは『えっ?何で僕ー?』と首を傾げながら、横に飛び退いた。
どうやら、彼に思い当たる節はないらしい。

 いや、思い当たる節しかないでしょ!!あれだけのことをしていながら、自覚がないの……!?正直、恨まれて当然だと思うよ!?

 神龍シェンロンをミミズだと罵ったり、鱗を剥ぎ取ったりと……やりたい放題だったシムナさんを思い浮かべ、私は呆れ返る。
『無自覚って、怖い……』と思いつつ、黒い球体の動向を見守った。
シムナさんにあっさりと躱されたソレは、方向転換することも無く、真っ直ぐ突き進む。そして、ボスフロアの壁に直撃すると────台風並みの強風を巻き起こした。

「────えっ……!?ボスフロアの壁が……!?」

 驚きのあまり、大きく目を見開く私は目の前に広がる光景に動揺を示した。
何故なら────圧倒的強度を誇るボスフロアの壁が黒い球体に吸い込まれているから。うちの三馬鹿ですら相当苦労したボスフロアの破壊に、神龍シェンロンはあっさり成功したのだ。
まるで掃除機のようにどんどん壁を吸い込んでいくソレは、三十秒ほどして消滅する。
球体の直撃したところには、人一人通れそうなほどの穴が開いており、私は自分の目を疑った。

 一分足らずで、ボスフロアに穴を……。ダンジョンボスの奥の手って、本当に恐ろしいな……。まさか、ここまで強力だとは思わなかった。

 『回避に専念して良かった』と、私は心の底から安堵する。
他のメンバーも黒い球体の威力に度肝を抜かれたようで、パチパチと瞬きを繰り返した。

「何?あの吸引力~!一瞬でも気を抜いたら、吸い込まれるところだったよ~!」

『某掃除機メーカー顔負けの威力だったな』

「あれはさすがにやばかったねー。もし、直撃していたら、僕でも防ぎ切れなかったかもー」

「触らなくて、正解だったな」

 思い思いの感想を述べる男性陣は、殺傷能力の高い攻撃に警戒心を強めた。
素直に『脅威』だと認める彼らに、私は内心首を傾げる。

 私はヴィエラさんの結界で保護されているから、よく分からなかったけど、黒い球体の吸引力は相当高いみたいだね。シムナさん達があそこまで焦るのは珍しいから、ビックリしちゃった。

「それにしても、あの球の正体は一体何なのかしら?せめて、属性だけでも分かれば、対処できるのだけど……」

 情報量の少なさに呻くヴィエラさんは、困ったように眉を顰めた。
憂いげに溜め息を零す彼女に、アラクネさんは慌てて見解を述べる。

「わ、わわわわわわ、私の個人的な意見ですが、あの球は恐らく────ブラックホール・・・・・・・だと思います!!」

「「!!」」

 聞き慣れない単語を耳にした私とヴィエラさんは、思わず顔を見合わせた。

「ブラックホールって、あのブラックホールですよね……?宇宙空間に存在する天体のうち、極めて高密度で強い重力のために、物質だけでなく光さえ脱出することができない天体だって言う……」

「え、ええ、恐らく……。突拍子もない話だけど、神龍シェンロンは重力魔法の使い手だし、有り得ないではないと思うわ。球体の色だって、黒だったし……」

 様々な根拠を並べるヴィエラさんは困惑しながらも、ブラックホールの可能性を信じているようだった。
穴の開いた壁を見つめ、私も『ブラックホールである可能性は高い』と考える。

「ヴィエラさん、一つだけ確認させてください。魔法使いであるヴィエラさんはブラックホールを作れますか?」

 緊張のあまり、額に汗を滲ませる私はキュッと唇に力を入れた。

 もし、あの球体が本当にブラックホールなら、何か対策を考えないといけない……。全てを呑み込むチート技に、手ぶらで挑むのは危険すぎる……。でも、ボスフロアの壁すら破壊したブラックホールに、どう対処すればいいのか分からない……。一番確実なのは、こちらも同じ攻撃を繰り出し、相殺することだけど……。

 ブラックホールの対策に頭を悩ませる私は、ヴィエラさんの返答に期待する。
でも、現実は甘くないようで────首を左右に振られてしまった。

「ごめんなさい……ブラックホールを作り出すのは、恐らく不可能だと思うわ。少なくとも、私の習得した魔法にそういったものはない。可能性があるとすれば、融合魔法だけど……今すぐ、新しい魔法を編み出すのは厳しいわ」

 『時間が足りない』と述べるヴィエラさんは、申し訳なさそうに肩を竦めた。
概ね予想通りの展開に、私は『やっぱりか』と肩を落とす。
一縷の望みを打ち砕かれた私は、ブラックホールの対策に苦悩するしかなかった。
ああでもないこうでもないと考え込む中、神龍シェンロンは一人勝ち誇った表情を浮かべる。

『ふふふっ!やはり、人間は脆弱な生き物ですね!この程度の攻撃にも、対応できぬとは!』

 いや、『この程度の攻撃にも』って……さっき、自分で『奥の手を使うしかありません』って言ってなかった?あれは嘘だったの?

 神龍シェンロンの罵り文句に、私は思わずツッコミを入れた。
矛盾だらけの言い分に呆れつつ、一つの決断を下す。

「消極的な考えかもしれませんが─────ブラックホールには、触らないようにしてください。恐らく連発は出来ないと思うので、警戒さえ怠らなければ大丈夫です。攻撃よりも回避を優先しつつ、戦う方向で行きましょう」

 優先順位を明確にしつつ、『決して、無理はするな』と念を押す。
ブラックホールの威力は確かに強力だが、ここで無理をする必要は全くなかった。
多少梃子摺てこずるだろうが、このまま行けば、絶対に勝てる。大事なのは焦らず、冷静に対処すること。あちらのペースに乗せられては、いけない。

「ブラックホールを何発撃ってこようと、私達の勝利は揺らぎません。このまま、押し切りましょう」
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