『魔王討伐クエスト』で役に立たないからと勇者パーティーに追い出された回復師は新たな仲間と無双する〜PK集団が英雄になるって、マジですか!?〜

あーもんど

文字の大きさ
上 下
281 / 315
第六章

第280話『優勢』

しおりを挟む
 愛刀を鞘にしまった徳正さんは、素早い手つきで鱗に手を添えると、一気に引っ張る。
ランカーの怪力に黄金の鱗はあっさりと白旗を上げ、剥がれてしまった。
五分も経たずに二枚目の鱗を引き剥がされた神龍シェンロンは、悲鳴にも満たない唸り声を上げる。

 痛みに苦しむ神龍シェンロンは、お腹に乗る徳正さんを振り払うように、ジタバタと暴れ回った。
剥いだ鱗を小脇に抱える徳正さんは『ここで無理をする必要はない』と判断したのか、素直に地上へ飛び降りる。
血も涙もない鱗剥ぎに、私は『ごめん、神龍シェンロン……』と謝るしかなかった。

 効率よく、ダメージを与えることはできるけど、心が痛むな……。だって、あんなの皮膚を引き剥がしているようなものじゃん。まあ、戦法としては悪くないから、何も言わないけど……。

 『同情で勝利は掴めない』と自分に言い聞かせ、私は戦況を見守った。
氷の上で待機する男性陣は飛び乗るタイミングでも窺っているのか、神龍シェンロンの動きを観察する。
そして、奴に僅かな隙が生まれると────みんな一斉にジャンプした。
後先考えずに神龍シェンロンの背中に乗った彼らは、蝶の羽を毟るように龍の鱗を剥ぎ取っていく。
一方的な蹂躙とも言える攻撃に、神龍シェンロンは再び悲鳴を上げた。

『ぐぎゃぁぁぁあああ!!人間の分際で、龍たる私になんてことをぉぉおおおお!?恥を知りなさい!愚かなる人間め!』

 徐々に痛みに慣れてきたのか、神龍シェンロンは必死に毒を吐く。
自殺行為とも言える上から目線に、徳正さん達の怒りゲージは確実に溜まって行った。
火に油を注ぎ続ける神龍シェンロンに、私は思わず頭を抱える。

 賢そうに振舞っているけど、中身はただの馬鹿じゃない!この状況で、徳正さん達を煽るのは愚策でしかないよ!

 『もっと考えて、行動しよう!?』とツッコミを入れながら、私は一つ息を吐いた。
どんどん禿げていく神龍シェンロンの背中を見つめ、呆れ返る。
『それ見たことか』とかぶりを振りながら、次の段階に移るべきか思い悩んだ。

「もうそろそろ、禿げた……じゃなくて、鱗の剥がれた部分に攻撃を仕掛けるべきでしょうか?」

 みすぼらしい姿になった神龍シェンロンを見つめつつ、私はヴィエラさんとアラクネさんに相談する。
鱗剥ぎはあくまで貫通ダメージを与えるための下準備に過ぎないため、ぶっちゃけ全部剥ぐ必要はなかった。というか、ちょっと可哀想なので、もうそろそろやめてほしい。

「そうね。鱗のない部分も充分確保できたし、いいんじゃないかしら?」

「わ、わわわわわわ、私も良いと思います!」

 首振り人形の如く、コクコクと何度も頷くアラクネさんは、ヴィエラさんの意見に同意する。
私も大体同じような意見なので、『そうですね』と二つ返事で了承した。
そして、男性陣に協力を仰ぐべく、鱗剥ぎに夢中な彼らに手を振る。

「お取り込み中、すみませーん!もうそろそろ、鱗の剥がれた部分に攻撃を仕掛けて頂いても、よろしいでしょうかー!?」

 大声で彼らに呼び掛ける私は、『本格的に攻撃を始めたい』と申し出る。
傍で聞いていた神龍シェンロンはギョッとするものの、男性陣は待ってましたと言わんばかりに大きく頷いた。

「もっちろーん!任せといてー!」

『しっかり痛めつけるから、安心してくれ』

「ラーちゃんを馬鹿にした報いは受けさせるよ~」

「ようやく、攻撃開始か。たぎってきたな」

 鱗剥ぎは攻撃にカウントしていないのか、リーダーは『やっと攻められる』と大喜びだった。
気合い充分の彼らは、アイテムボックスに仕舞った武器を再び取り出し、それぞれ握り締める。
活き活きとした表情を浮かべながら、彼らは我先にと地面を蹴り上げた。
でも、こちらの話を聞いていた神龍シェンロンが大人しく背中に乗せる訳もなく……リーダー以外は上手く躱されてしまう。

「ミミズのくせに避けるなんて、生意気なんだけどー!僕も攻撃したーい!」

『あともう少しだったんだが……残念だ』

「重力操作が地味に痛いね~。空中で上手く方向転換が出来なかった~」

 ふわりと地面に着地したシムナさん、ラルカさん、徳正さんの三人はブーブーと文句を垂れる。
不貞腐れる彼らを他所に、唯一飛び乗りに成功したリーダーはおもむろに大剣を振り上げた。
かと思えば、勢いよく剣を振り下ろし、神龍シェンロンの皮膚に突き刺す。

『ぐぎゃぁぁぁぁああああ!?神聖な体になんてことをぉぉぉおおお!?』

 絶叫する神龍シェンロンは痛みのあまり、のたうち回った。
私達の見立て通り、神龍シェンロンの皮膚に攻撃を防ぐ効果はないようで、普通に出血する。
真っ赤な血を飛び散らせながら暴れ回るおかげで、ボスフロアは一部赤く染まった。
『子供には見せられない光景だな』と苦笑いする中、リーダーは何食わぬ顔で地面に降り立つ。

「効果は抜群のようだな。この調子でどんどん攻めて行くぞ」

 徳正さん達に淡々と指示を出すリーダーは、おもむろに返り血を拭った。
『鉄臭いな』とボヤく彼の前で、徳正さん達はグッと足腰に力を入れる。

「りょーかーい。一気に畳み掛けて、倒しちゃおっか~」

「だねー!さっさと終わらせて、祝杯をあげに行こー!」

『思ったより、早く終わりそうで良かった。また鱗に苦戦するのは嫌だからな』

 思い思いの言葉を並べる彼らは、神龍シェンロンの動きを観察しながら、ジャンプした。
痛みのあまり、冷静さを失う奴の背中に飛び乗ると、それぞれ武器を構える。そして────情け容赦なく、攻撃を仕掛けた。
皮膚を刺され、抉られ、切り落とされた神龍シェンロンは何度目か分からない悲鳴を上げる。もはや、理性を失いかけているのか、ガンガンと自身の頭を壁に打ち付けた。

「……さすがにちょっと可哀想ですね」

「あら?そう?これくらい、普通だと思うけど。だって、うちの可愛いラミエルちゃんを馬鹿にしたのよ?当然の報いでしょう?」

 思わず同情してしまう私に、ヴィエラさんはケロッとした顔でそう答える。
隣に立つアラクネさんも『そうですよ!』と言わんばかりに、何度も頷いていた。

 怒ってくれるのは嬉しいけど、二人とも本当に容赦ないな……。まあ、私も同じ立場だったら、めちゃくちゃ怒っていただろうけど。

 仲間第一の私は『神経毒で身動きを取れなくして、一方的に殴ってやる』と考えながら、戦況を見守った。まあ、勝敗などもう分かり切っているが……。
現在進行形で、集団リンチを受ける神龍シェンロンは、もはや半泣きだった。絶叫と暴走を繰り返し、理性はほとんど残っていない。
『ボスフロアを血の海にでもするつもりか?』という勢いで切りつけられ、大量出血している。

 ご自慢の重力操作はあっさり破られ、頼みの綱である鱗も無力化された。ここまで来れば、私達の勝利は確実だろう。

 ────でも、なんだろう?この不安感は……。
ダンジョンボスとの戦いって、こんなに簡単でいいの?この調子なら、本当に直ぐ終わっちゃうけど……。私達と神龍シェンロンの相性が良かっただけ?
そもそも、神龍シェンロンの能力って、重力操作だけなの?あまりにもシンプルすぎない?もちろん、主体となる能力はそれだろうけど、他にもっと持ってないの?

 紆余曲折はあったものの、比較的簡単に終わりそうなボス戦に、私は不審感を抱く。本当にこれで終わりなのか?と……。
着実に進んでいく神龍シェンロンの討伐に、一抹の不安を抱いていると────奴は突然カッと目を見開いた。

『もうこれ以上、我慢できません!────奥の手・・・を使わせて頂きます!』
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

処理中です...