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第六章
第277話『第五十階層』
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レベルマックスの話題で盛り上がるパーティーメンバーと共に、私はノースダンジョンの奥へと進んでいく。
そして、ついに────ダンジョンボスの居る第五十階層まで辿り着いた。
純白の扉をくぐり抜けた私達は、広々とした空間へと出る。
と同時に、ボスの顕現は始まり、部屋の中央に白い光が集まってきた。どんどん大きくなっていく光を前に、私達は身構える。
これまでの経験則から、ダンジョンボスとの戦いだけは、しっかり集中しないといけない。意思疎通を図れることもそうだけど、彼らはとんでもなく強いから。フロアボスの時のように油断していい相手じゃない。
『嘗めて掛かれば、怪我をする』と自分に言い聞かせ、私は純白の杖を握り締めた。
警戒する私を他所に、ダンジョンボスは白い光の中から姿を現す。
蛇のように細長い体をくねらせる奴は────龍に分類にされる魔物だった。
バハムートやファフニールとは違い、スラッとした体型をしている奴は黄金の鱗を見せつける。
清潔感のある見た目をしているせいか、今まで戦ってきたどの魔物より、神々しく感じられた。
あれがノースダンジョンのラスボスであり、全ダンジョン攻略クエストの最後の砦……能力値そのものはバハムート達と大して変わらないだろうけど、気を抜かないようにしなきゃ。徐々に感覚が麻痺してきたけど、私達がやっているのは────デスゲームなんだから。
リセットもリバイバルもできない事実を思い出し、私はキュッと唇を引き結ぶ。
死の恐怖におののく私を他所に────隣に立つシムナさんはパチクリと瞬きした。
「なんか、ミミズみたいだねー!すっごく、気持ち悪ーい!」
ダンジョンボスをミミズに例えたシムナさんは、『おぇー!』と叫ぶ。
きっと悪気はないんだろうが、彼の発言は侮辱以外の何物でもなかった。
早速相手を刺激するシムナさんに、私は『嘘でしょう……?』と頭を抱える。
軽い目眩を覚える私の前で、侮辱されたダンジョンボスはシムナさんに鋭い眼差しを送った。
『ほう?貴方は面白いことを言いますね。この私をミミズ呼ばわりするだなんて……』
黄金色の瞳を細めるダンジョンボスは、ビタンッと長い尻尾を地面に打ち付ける。
聞き慣れない声に耳を傾ける私は『早速怒らせちゃったかな……?』と不安になった。
状況的にさっきのテノールボイスはダンジョンのものとみて、間違いないだろう。口調は丁寧且つ穏やかだったけど、滲み出る殺気が隠し切れていない……。今のところ、バハムートやファフニールより、賢そうだけど……短気なのは変わらないみたい。だって、今すぐにでもシムナさんを殺したいって顔をしているもん。
「シムナさんは本当に相手を煽るのが得意ですね……」
「えー?そうかなー?僕はただ思ったことを言っただけだけどー!」
『意図して、やっている訳ではない』と言い募り、シムナさんはニッコリ笑う。
遠回しに嫌味を言われたことに、本人は気づいていないようだ。
『知らぬが仏』とも言える状況を前に、私は密かに溜め息を零す。他のメンバーも半ば呆れたように、肩を竦めた。
「シムナって、本当にポジティブだよね~」
「それって、どういう意味ー?」
『時には知らない方が幸せなこともある』
「はぁー?ますます、意味が分からないんだけどー!」
「要するにポジティブすぎて、幸せそうってことよ」
徳正さんとラルカさんの言いたいことをまとめるヴィエラさんは、呆れたように笑う。
極端な結論を突きつけられたシムナさんは『はぁー?』と首を傾げた。
でも、言葉の意味をいちいち考えるのが面倒になったのか、さっさと匙を投げる。
「ねぇー!僕の話はどうでもいいから、あのミミズを倒そうよー!もうそろそろ、旅館に帰りたいんだけどー!」
『早く、ラミエルのお祝いがしたい』と強請るシムナさんは、戦闘開始をせがむ。
金と銀の斧をブンブン振り回すシムナさんの前で、ダンジョンボスは少しばかり身を乗り出した。
『そうですね。もうそろそろ、戦いを始めるとしましょう。まあ、もっとも────あなた方が無事に帰れる保証はどこにもありませんが……』
不穏なセリフを口にするダンジョンボスは、愉快げに目を細める。
『私の名は────神龍。神格を有する、尊き龍です。さあ、ひれ伏しなさい』
仰々しい言い回しで自己紹介を終えると、神龍は────早速攻撃を仕掛けてきた。
「きゃっ……!?」
突然、体が重くなった私は悲鳴と共に膝をつく。
勢いよく跪いた影響か、私の膝はじんじんと痛んだ。
な、何これ……!?全然立てない……というか、凄く重い!でも、これは上から無理やり押さえ付けられていると言うより、地面に引き寄せられている感覚に近い……!てことは、まさか────。
「────重力操作!?」
口を突いて出た言葉は的をいており、疑う余地さえなかった。
両手をつかなければ耐えられないほど強力な重力に、私は唇を噛む。
押し潰されないよう必死に頑張る私を前に、神龍はクツリと喉を鳴らした。
『随分と勘のいいお嬢さんが居ますね。まさか、こんなに早く能力を言い当てられるとは思いませんでした。無能な人間にしては、よく頑張りましたね。少しだけ、見直しました』
『何様だ?』と言いたくなるような物言いで、神龍は私を褒めちぎる。まあ、敵に褒められてもあんまり嬉しくないが……。
『ふふふっ。気の強そうなお嬢さんですね。そんなに嫌そうな顔をしないでください。思わず、重力の強さを上げてしまうところでしたよ。それより、反撃はしないんですか?』
嫌味ったらしい言い方で勝手に話を進める神龍は、クスクスと笑みを漏らす。
人の神経を逆撫でる才能に関しては、シムナさんといい勝負が出来そうだ。
『あっ!そういえば、立てないんでしたね。これは失礼しました。私としたことが人間の弱さを視野に入れていなかったようです』
床に座り込む私を見下ろし、神龍は愉快げに口角を上げる。
『この腹黒め……!』と恨めしく思いながらも、私は湧き上がる怒りをグッと堪えた────が、他の者達はそうもいかなかったようで、額に青筋を浮かべる。今すぐにでもブチ切れそうな彼らは、それぞれ武器を握り締めた。
「ねぇーねぇー!ラミエルー!あいつ、殺っちゃっていーい?」
「見たところ、重力魔法の他に攻撃手段はなさそうだし、俺っち達も動き出そうよ~」
『不埒者に罰を与えるだけだ。そこまで時間は掛からない』
物騒なことを口走る三馬鹿は『お願い、ラミエル』と、可愛らしくお強請りする。
でも、要求された内容は全くもって可愛くなかった。
「ラルカ達の言う通りよ、ラミエルちゃん。ちょっと痛めつけて、殺すだけだから、許してちょうだい」
「わ、わわわわわわ、私からもお願いします!ら、ラミエルさんを馬鹿にされているのに、黙っていられません!」
「……どうせ、いつかは戦わなきゃいけない相手なんだから、今戦っても問題ないだろ」
ヴィエラさん、アラクネさん、リーダーの三人も三馬鹿の意見に賛成した。
殺る気に満ち溢れる仲間達を前に、私は『はぁ……』と深い溜め息を零す。
でも、私のために怒ってくれるのは普通に嬉しかった。
まだ神龍の能力を全て把握した訳じゃないから、出来れば観察を続けたいけど……そうも言っていられないか。リーダーの言う通り、いつかは戦わなきゃいけない訳だし、予定を少し早めるだけだと思って、目を瞑ろう。さすがにあそこまで馬鹿にされたら、私だって腹が立つしね。
『仕方ないな』とでも言うように肩を竦めた私は重力に抗い、顔を上げる。
私の目に映るのは─────余裕綽々の態度を貫く神龍の姿だった。
「分かりました。では────戦闘を開始してください」
そして、ついに────ダンジョンボスの居る第五十階層まで辿り着いた。
純白の扉をくぐり抜けた私達は、広々とした空間へと出る。
と同時に、ボスの顕現は始まり、部屋の中央に白い光が集まってきた。どんどん大きくなっていく光を前に、私達は身構える。
これまでの経験則から、ダンジョンボスとの戦いだけは、しっかり集中しないといけない。意思疎通を図れることもそうだけど、彼らはとんでもなく強いから。フロアボスの時のように油断していい相手じゃない。
『嘗めて掛かれば、怪我をする』と自分に言い聞かせ、私は純白の杖を握り締めた。
警戒する私を他所に、ダンジョンボスは白い光の中から姿を現す。
蛇のように細長い体をくねらせる奴は────龍に分類にされる魔物だった。
バハムートやファフニールとは違い、スラッとした体型をしている奴は黄金の鱗を見せつける。
清潔感のある見た目をしているせいか、今まで戦ってきたどの魔物より、神々しく感じられた。
あれがノースダンジョンのラスボスであり、全ダンジョン攻略クエストの最後の砦……能力値そのものはバハムート達と大して変わらないだろうけど、気を抜かないようにしなきゃ。徐々に感覚が麻痺してきたけど、私達がやっているのは────デスゲームなんだから。
リセットもリバイバルもできない事実を思い出し、私はキュッと唇を引き結ぶ。
死の恐怖におののく私を他所に────隣に立つシムナさんはパチクリと瞬きした。
「なんか、ミミズみたいだねー!すっごく、気持ち悪ーい!」
ダンジョンボスをミミズに例えたシムナさんは、『おぇー!』と叫ぶ。
きっと悪気はないんだろうが、彼の発言は侮辱以外の何物でもなかった。
早速相手を刺激するシムナさんに、私は『嘘でしょう……?』と頭を抱える。
軽い目眩を覚える私の前で、侮辱されたダンジョンボスはシムナさんに鋭い眼差しを送った。
『ほう?貴方は面白いことを言いますね。この私をミミズ呼ばわりするだなんて……』
黄金色の瞳を細めるダンジョンボスは、ビタンッと長い尻尾を地面に打ち付ける。
聞き慣れない声に耳を傾ける私は『早速怒らせちゃったかな……?』と不安になった。
状況的にさっきのテノールボイスはダンジョンのものとみて、間違いないだろう。口調は丁寧且つ穏やかだったけど、滲み出る殺気が隠し切れていない……。今のところ、バハムートやファフニールより、賢そうだけど……短気なのは変わらないみたい。だって、今すぐにでもシムナさんを殺したいって顔をしているもん。
「シムナさんは本当に相手を煽るのが得意ですね……」
「えー?そうかなー?僕はただ思ったことを言っただけだけどー!」
『意図して、やっている訳ではない』と言い募り、シムナさんはニッコリ笑う。
遠回しに嫌味を言われたことに、本人は気づいていないようだ。
『知らぬが仏』とも言える状況を前に、私は密かに溜め息を零す。他のメンバーも半ば呆れたように、肩を竦めた。
「シムナって、本当にポジティブだよね~」
「それって、どういう意味ー?」
『時には知らない方が幸せなこともある』
「はぁー?ますます、意味が分からないんだけどー!」
「要するにポジティブすぎて、幸せそうってことよ」
徳正さんとラルカさんの言いたいことをまとめるヴィエラさんは、呆れたように笑う。
極端な結論を突きつけられたシムナさんは『はぁー?』と首を傾げた。
でも、言葉の意味をいちいち考えるのが面倒になったのか、さっさと匙を投げる。
「ねぇー!僕の話はどうでもいいから、あのミミズを倒そうよー!もうそろそろ、旅館に帰りたいんだけどー!」
『早く、ラミエルのお祝いがしたい』と強請るシムナさんは、戦闘開始をせがむ。
金と銀の斧をブンブン振り回すシムナさんの前で、ダンジョンボスは少しばかり身を乗り出した。
『そうですね。もうそろそろ、戦いを始めるとしましょう。まあ、もっとも────あなた方が無事に帰れる保証はどこにもありませんが……』
不穏なセリフを口にするダンジョンボスは、愉快げに目を細める。
『私の名は────神龍。神格を有する、尊き龍です。さあ、ひれ伏しなさい』
仰々しい言い回しで自己紹介を終えると、神龍は────早速攻撃を仕掛けてきた。
「きゃっ……!?」
突然、体が重くなった私は悲鳴と共に膝をつく。
勢いよく跪いた影響か、私の膝はじんじんと痛んだ。
な、何これ……!?全然立てない……というか、凄く重い!でも、これは上から無理やり押さえ付けられていると言うより、地面に引き寄せられている感覚に近い……!てことは、まさか────。
「────重力操作!?」
口を突いて出た言葉は的をいており、疑う余地さえなかった。
両手をつかなければ耐えられないほど強力な重力に、私は唇を噛む。
押し潰されないよう必死に頑張る私を前に、神龍はクツリと喉を鳴らした。
『随分と勘のいいお嬢さんが居ますね。まさか、こんなに早く能力を言い当てられるとは思いませんでした。無能な人間にしては、よく頑張りましたね。少しだけ、見直しました』
『何様だ?』と言いたくなるような物言いで、神龍は私を褒めちぎる。まあ、敵に褒められてもあんまり嬉しくないが……。
『ふふふっ。気の強そうなお嬢さんですね。そんなに嫌そうな顔をしないでください。思わず、重力の強さを上げてしまうところでしたよ。それより、反撃はしないんですか?』
嫌味ったらしい言い方で勝手に話を進める神龍は、クスクスと笑みを漏らす。
人の神経を逆撫でる才能に関しては、シムナさんといい勝負が出来そうだ。
『あっ!そういえば、立てないんでしたね。これは失礼しました。私としたことが人間の弱さを視野に入れていなかったようです』
床に座り込む私を見下ろし、神龍は愉快げに口角を上げる。
『この腹黒め……!』と恨めしく思いながらも、私は湧き上がる怒りをグッと堪えた────が、他の者達はそうもいかなかったようで、額に青筋を浮かべる。今すぐにでもブチ切れそうな彼らは、それぞれ武器を握り締めた。
「ねぇーねぇー!ラミエルー!あいつ、殺っちゃっていーい?」
「見たところ、重力魔法の他に攻撃手段はなさそうだし、俺っち達も動き出そうよ~」
『不埒者に罰を与えるだけだ。そこまで時間は掛からない』
物騒なことを口走る三馬鹿は『お願い、ラミエル』と、可愛らしくお強請りする。
でも、要求された内容は全くもって可愛くなかった。
「ラルカ達の言う通りよ、ラミエルちゃん。ちょっと痛めつけて、殺すだけだから、許してちょうだい」
「わ、わわわわわわ、私からもお願いします!ら、ラミエルさんを馬鹿にされているのに、黙っていられません!」
「……どうせ、いつかは戦わなきゃいけない相手なんだから、今戦っても問題ないだろ」
ヴィエラさん、アラクネさん、リーダーの三人も三馬鹿の意見に賛成した。
殺る気に満ち溢れる仲間達を前に、私は『はぁ……』と深い溜め息を零す。
でも、私のために怒ってくれるのは普通に嬉しかった。
まだ神龍の能力を全て把握した訳じゃないから、出来れば観察を続けたいけど……そうも言っていられないか。リーダーの言う通り、いつかは戦わなきゃいけない訳だし、予定を少し早めるだけだと思って、目を瞑ろう。さすがにあそこまで馬鹿にされたら、私だって腹が立つしね。
『仕方ないな』とでも言うように肩を竦めた私は重力に抗い、顔を上げる。
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