『魔王討伐クエスト』で役に立たないからと勇者パーティーに追い出された回復師は新たな仲間と無双する〜PK集団が英雄になるって、マジですか!?〜

あーもんど

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第六章

第276話『カマイタチの討伐完了』

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 同化の攻略方法(?)も分かり、安堵する中、男性陣は無差別に投擲とうてき武器を投げまくった。おかげさまで、辺りは武器の残骸だらけになる。

「効果があると立証されたとはいえ、傍から見ると、異様な光景ですね」

 足元に転がってきた手裏剣を拾い上げ、私は『ちょっと勿体ないな』と呟いた。
アラクネさんのおかげで、武器に困ることはないが、ただ投げるだけならボールでもいいだろう。

「確かに客観的に見ると、やばい光景だね~。あっ、武器は後で回収するから、そこに置いておいていいよ~」

 『使い慣れない武器はあんまり触らないで』と、やんわり注意する徳正さんは素早く手裏剣を取り上げる。
相変わらず、過保護な彼は『怪我でもしたら、危ないよ』と眉尻を下げた。
心配性な徳正さんに、半ば呆れ返る中─────カマイタチたちはどこからともなく、姿を現す。
同化したまま戦うのは不利だと判断したのだろう。何体か、怪我を負っているカマイタチたちは憎たらしげにこちらを睨みつける。
言葉などなくとも、奴らの殺意はハッキリと伝わってきた。

「ようやく、姿を現したねー!我慢比べは僕達の勝ちだよー!」

 ニッと得意げに笑うシムナさんは、金と銀の斧をそれぞれ握り直す。
既に殺る気満々の彼は、殺気立つカマイタチ達を真っ直ぐに見据えた。

「よーし!それじゃあ────楽しい楽しい大虐殺を始めようか♪」

 無邪気な笑顔とは裏腹に、物騒なことを口走るシムナさんは嬉々として、走り出す。
そして、手っ取り早く一番近くにいるカマイタチに斬りかかった。

 振り下ろされた銀の斧を両腕で受け止めるカマイタチは、何とか持ち堪えようとする。でも、力勝負ではどう頑張ってもシムナさんに敵わないため、一瞬で押し負けた。
流れるような動作で、胴体を切り裂かれたカマイタチは『キィー!』と悲鳴を上げながら、死に絶える。
一方的な蹂躙と言ってもいい光景を前に、私は頬を引き攣らせた。

 相手は魔物モンスターだから仕方ないとはいえ、本当に容赦ないな……。傍から見ると、シムナさんの方が悪者っぽい。

「ラミエルー!僕の活躍、見てたー?」

 『テストで百点取ったよ!』と自慢してくる子供のように、シムナさんは声を弾ませる。
無邪気にはしゃぐ彼は、褒めてとでも言うようにキラキラと目を輝かせた。

「あっ、はい。拝見しておりました。とても、格好良かったです」

「本当ー?やったー!もっともっと活躍するから、そこで見ててねー!」

 嬉しそうにピョンピョンと飛び跳ねるシムナさんは、もっと褒めてもらおうと元気よく駆け出す。
意欲的な態度を見せる彼は力任せに斧を振るい、カマイタチたちに引導を渡した。
やる気に満ち溢れたシムナさんを前に、『煽てたのは間違いだったかもしれない』と少しだけ後悔する。でも、今更どうしようもできないので、私は静観放置を決め込んだ。
『なるようになれ!』と自棄を起こす中、隣に立つ徳正さんは不満げに口先を尖らせる。

「シムナばっかり、ラーちゃんに褒められてズルい……俺っちだって、褒められたい!」

 グッと拳を握り締める徳正さんは、物欲しそうな目でこちらを見つめる。
でも、現時点で大して褒めるところはないため、知らんぷりをした。
ただひたすら、シムナさんの虐殺……じゃなくて、活躍を見守る中────徳正さんはついに痺れを切らす。

「もう!こうなったら、俺っちも前線に出る!そんで、ラーちゃんに褒められるくらいの功績を上げるんだから!」

 褒めざるを得ない状況に追い込んでやる!とでも言うように、徳正さんは抜刀した。
愛刀をしっかりと握り締め、剣先をカマイタチに向ける。刹那────突風と共にカマイタチの体はバラバラに切り刻まれた。
目にも止まらぬ速さとはまさにこの事で、徳正さんはいつの間にか、カマイタチの背後に立っている。瞬間移動とも言える早業に、私は感嘆するしかなかった。

 カマイタチを切り刻む瞬間はもちろん、移動する後ろ姿さえ捉えることが出来なかった。私に褒めてもらうために、いつもより張り切っているみたい。

 頑張って格好つける徳正さんを前に、私はクスリと笑みを漏らした。
単純とも短絡的とも言える行動に目を細める中、彼はどんどんカマイタチを切り捨てていく。他のメンバーも負けじと剣を振るい、カマイタチの討伐に尽力した。
秒単位で減っていくカマイタチを前に、私は『もうそろそろ、次の階層に行けそうだな』と考える。

 投擲武器の回収時間も考えて、時間配分を考えていると────不意にカマイタチと目が合った。
男性陣の攻撃で、ほぼ瀕死状態の奴は何を思ったのか、特殊スキルを発動させる。そして、瞬時に空気と同化した。
見事カマイタチを殺り損ねてしまった男性陣は悔しそうに顔を歪める。

「あいつ、どこ行ったのー?もう負け確なんだから、さっさと殺られてよー!」

『往生際の悪い奴だな』

「そうカッカするな。さっきのように投擲武器で攻撃すれば、いいだけの話だ。徳正、カマイタチは今どこに居る?」

 シムナさん、ラルカさん、リーダーの三人は探知能力に優れた徳正さんに視線を向けた。
『早く居場所を割り出せ』と急かす彼らに、黒衣の忍者は苦笑を漏らす。

「も~!ちょっと、待ってよ~!カマイタチの気配は察知しづらいんだってば~!」

 ガシガシと乱暴に頭を搔く徳正さんは『面倒臭いなぁ』と零しつつ、意識を集中させる。
全神経を尖らせる彼は数秒ほど沈黙したかと思えば────勢いよく顔を上げた。

「────カマイタチはラーちゃんの方に向かっている!今すぐ、陣形を整えて!」

 『あいつの狙いはラーちゃんだ!』と叫ぶ徳正さんは、急いで刀を握り直す。
でも、時すでに遅しとでも言うべきか……カマイタチはとっくのとうに、私の目の前に姿を現していた。鎌とも呼ぶべき前足を振り上げ、奴は私に斬り掛かる。
迫り来る脅威を前に、私は────ずっと手に持っていた毒針をカマイタチの脳天に突き刺した。
ほぼ反射的にやった行動にも拘わらず、効果は絶大だったようで、カマイタチは光の粒子と化す。

「えっ……?あれ?ただの神経毒だったのに、何で死んで……?もしかして、瀕死だったから……?それで一発KOに……?」

 『そんなのほぼ死にかけじゃん』と呟く私は、神経毒に侵されるカマイタチをまじまじと見つめる。
麻痺状態で動くことも出来ない奴は、一矢報いることも出来ずに消えてしまった。
その瞬間────ピロン♪と聞き慣れた効果音が鳴り、目の前には『レベル99に到達しました』という文字が現れる。これは言うまでもなく、レベルアップの通知だった。

「れ、レベルアップしちゃった……」

 カマイタチの討伐による経験値で、私はついにレベルマックスまで登りつめた。
FROプレイヤーの中で、レベルマックスになった回復師ヒーラーは恐らく、私だけだろう。少なくとも、現状いまは……。

 普通に嬉しいし、誇らしいことだけど……他人の経験値を横取りしたみたいで、なんだか申し訳ないな。事故とはいえ、リーダー達が瀕死まで追い詰めたカマイタチを倒しちゃったのは事実だし。

 罪悪感を募らせる私は、右手に持つ毒針を見下ろした。
非常に居た堪れない気持ちになる中、突然徳正さんに肩を掴まれる。

「ラーちゃん、大丈夫!?怪我はない!?」

 焦った様子で、私の顔を覗き込む徳正さんは『何もされなかった!?』と問い質してきた。
心配性な彼を前に、私は一先ず『大丈夫だった』と説明する。HPゲージが減っていないことを示すと、彼は目に見えて安堵した。

「良かった~!ラーちゃんに何かあったら、泣いちゃうところだったよ~!」

「そんな……大袈裟ですよ」

「いや、全然大袈裟じゃないって~!それより、危険な目に遭わせて、ごめんね~?俺っち達がちゃんとしていれば、こんなことにならなかったのに~!」

 カマイタチを殺り損ねたことに責任を感じているのか、徳正さんは申し訳なさそうに眉尻を下げる。
傍に控えるシムナさんやラルカさんも『悪かった』と口を揃えて、言った。
ソワソワと落ち着きのない男性陣を前に、私はゆるゆると首を横に振る。

「いえ、気にしないで下さい。戦闘場面で気を抜いていた私も私ですし……それに────おかげさまで、レベルマックスになりましたから。獲物を横取りしたみたいで申し訳ありませんが、カマイタチの経験値は非常に役に立ちました。ありがとうございます」

 ペコリと小さく頭を下げる私は『これで限界突破オーバーラインの準備が整った』と上機嫌に笑う。
怒られるどころか、逆にお礼を言われてしまった男性陣は困惑気味に顔を見合わせた。
パチパチと瞬きを繰り返す彼らは暫くすると────『おお!』と嬉しそうに声を上げる。

「そう言えば、さっき『レベルが上がった』とか、言っていたねー!おめでとー!」

「おめでとう、ラミエル。横取りなんて思っていないから、心配するな」

『お頭の言う通りだ。ノースダンジョンの中じゃなければ、祝杯でも挙げたいくらいだ』

「それな~!出来れば、今すぐお祝いしたいけど、ダンジョンの中はちょっとね~!地上に戻ったら、祝賀会でも開こうか!」

 ワイワイと盛り上がる男性陣はすっかり、お祝いムードに包まれている。
当事者より嬉しそうな彼らを前に、私は『ふふっ』と笑みを零した。

 ここまで浮かれているパーティーメンバーを見るのは久しぶりかも。祝賀会なんて、恐れ多いけど、皆でどんちゃん騒ぎするのは楽しそうだな。

 ノースダンジョンの未到達階層に居るというのに、私は呑気に祝賀会のことについて考えている。
これほど、緊張感のないダンジョン攻略は生まれて初めてだった。
きっと、私は自分でも気づかない内に────彼らに毒されていたという事だろう。
気の緩みは司令塔として恥ずべき行為なのに、不思議と悪い気はしなかった。
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