277 / 315
第六章
第276話『カマイタチの討伐完了』
しおりを挟む
同化の攻略方法(?)も分かり、安堵する中、男性陣は無差別に投擲武器を投げまくった。おかげさまで、辺りは武器の残骸だらけになる。
「効果があると立証されたとはいえ、傍から見ると、異様な光景ですね」
足元に転がってきた手裏剣を拾い上げ、私は『ちょっと勿体ないな』と呟いた。
アラクネさんのおかげで、武器に困ることはないが、ただ投げるだけならボールでもいいだろう。
「確かに客観的に見ると、やばい光景だね~。あっ、武器は後で回収するから、そこに置いておいていいよ~」
『使い慣れない武器はあんまり触らないで』と、やんわり注意する徳正さんは素早く手裏剣を取り上げる。
相変わらず、過保護な彼は『怪我でもしたら、危ないよ』と眉尻を下げた。
心配性な徳正さんに、半ば呆れ返る中─────カマイタチたちはどこからともなく、姿を現す。
同化したまま戦うのは不利だと判断したのだろう。何体か、怪我を負っているカマイタチたちは憎たらしげにこちらを睨みつける。
言葉などなくとも、奴らの殺意はハッキリと伝わってきた。
「ようやく、姿を現したねー!我慢比べは僕達の勝ちだよー!」
ニッと得意げに笑うシムナさんは、金と銀の斧をそれぞれ握り直す。
既に殺る気満々の彼は、殺気立つカマイタチ達を真っ直ぐに見据えた。
「よーし!それじゃあ────楽しい楽しい大虐殺を始めようか♪」
無邪気な笑顔とは裏腹に、物騒なことを口走るシムナさんは嬉々として、走り出す。
そして、手っ取り早く一番近くにいるカマイタチに斬りかかった。
振り下ろされた銀の斧を両腕で受け止めるカマイタチは、何とか持ち堪えようとする。でも、力勝負ではどう頑張ってもシムナさんに敵わないため、一瞬で押し負けた。
流れるような動作で、胴体を切り裂かれたカマイタチは『キィー!』と悲鳴を上げながら、死に絶える。
一方的な蹂躙と言ってもいい光景を前に、私は頬を引き攣らせた。
相手は魔物だから仕方ないとはいえ、本当に容赦ないな……。傍から見ると、シムナさんの方が悪者っぽい。
「ラミエルー!僕の活躍、見てたー?」
『テストで百点取ったよ!』と自慢してくる子供のように、シムナさんは声を弾ませる。
無邪気にはしゃぐ彼は、褒めてとでも言うようにキラキラと目を輝かせた。
「あっ、はい。拝見しておりました。とても、格好良かったです」
「本当ー?やったー!もっともっと活躍するから、そこで見ててねー!」
嬉しそうにピョンピョンと飛び跳ねるシムナさんは、もっと褒めてもらおうと元気よく駆け出す。
意欲的な態度を見せる彼は力任せに斧を振るい、カマイタチたちに引導を渡した。
やる気に満ち溢れたシムナさんを前に、『煽てたのは間違いだったかもしれない』と少しだけ後悔する。でも、今更どうしようもできないので、私は静観を決め込んだ。
『なるようになれ!』と自棄を起こす中、隣に立つ徳正さんは不満げに口先を尖らせる。
「シムナばっかり、ラーちゃんに褒められてズルい……俺っちだって、褒められたい!」
グッと拳を握り締める徳正さんは、物欲しそうな目でこちらを見つめる。
でも、現時点で大して褒めるところはないため、知らんぷりをした。
ただひたすら、シムナさんの虐殺……じゃなくて、活躍を見守る中────徳正さんはついに痺れを切らす。
「もう!こうなったら、俺っちも前線に出る!そんで、ラーちゃんに褒められるくらいの功績を上げるんだから!」
褒めざるを得ない状況に追い込んでやる!とでも言うように、徳正さんは抜刀した。
愛刀をしっかりと握り締め、剣先をカマイタチに向ける。刹那────突風と共にカマイタチの体はバラバラに切り刻まれた。
目にも止まらぬ速さとはまさにこの事で、徳正さんはいつの間にか、カマイタチの背後に立っている。瞬間移動とも言える早業に、私は感嘆するしかなかった。
カマイタチを切り刻む瞬間はもちろん、移動する後ろ姿さえ捉えることが出来なかった。私に褒めてもらうために、いつもより張り切っているみたい。
頑張って格好つける徳正さんを前に、私はクスリと笑みを漏らした。
単純とも短絡的とも言える行動に目を細める中、彼はどんどんカマイタチを切り捨てていく。他のメンバーも負けじと剣を振るい、カマイタチの討伐に尽力した。
秒単位で減っていくカマイタチを前に、私は『もうそろそろ、次の階層に行けそうだな』と考える。
投擲武器の回収時間も考えて、時間配分を考えていると────不意にカマイタチと目が合った。
男性陣の攻撃で、ほぼ瀕死状態の奴は何を思ったのか、特殊スキルを発動させる。そして、瞬時に空気と同化した。
見事カマイタチを殺り損ねてしまった男性陣は悔しそうに顔を歪める。
「あいつ、どこ行ったのー?もう負け確なんだから、さっさと殺られてよー!」
『往生際の悪い奴だな』
「そうカッカするな。さっきのように投擲武器で攻撃すれば、いいだけの話だ。徳正、カマイタチは今どこに居る?」
シムナさん、ラルカさん、リーダーの三人は探知能力に優れた徳正さんに視線を向けた。
『早く居場所を割り出せ』と急かす彼らに、黒衣の忍者は苦笑を漏らす。
「も~!ちょっと、待ってよ~!カマイタチの気配は察知しづらいんだってば~!」
ガシガシと乱暴に頭を搔く徳正さんは『面倒臭いなぁ』と零しつつ、意識を集中させる。
全神経を尖らせる彼は数秒ほど沈黙したかと思えば────勢いよく顔を上げた。
「────カマイタチはラーちゃんの方に向かっている!今すぐ、陣形を整えて!」
『あいつの狙いはラーちゃんだ!』と叫ぶ徳正さんは、急いで刀を握り直す。
でも、時すでに遅しとでも言うべきか……カマイタチはとっくのとうに、私の目の前に姿を現していた。鎌とも呼ぶべき前足を振り上げ、奴は私に斬り掛かる。
迫り来る脅威を前に、私は────ずっと手に持っていた毒針をカマイタチの脳天に突き刺した。
ほぼ反射的にやった行動にも拘わらず、効果は絶大だったようで、カマイタチは光の粒子と化す。
「えっ……?あれ?ただの神経毒だったのに、何で死んで……?もしかして、瀕死だったから……?それで一発KOに……?」
『そんなのほぼ死にかけじゃん』と呟く私は、神経毒に侵されるカマイタチをまじまじと見つめる。
麻痺状態で動くことも出来ない奴は、一矢報いることも出来ずに消えてしまった。
その瞬間────ピロン♪と聞き慣れた効果音が鳴り、目の前には『レベル99に到達しました』という文字が現れる。これは言うまでもなく、レベルアップの通知だった。
「れ、レベルアップしちゃった……」
カマイタチの討伐による経験値で、私はついにレベルマックスまで登りつめた。
FROプレイヤーの中で、レベルマックスになった回復師は恐らく、私だけだろう。少なくとも、現状は……。
普通に嬉しいし、誇らしいことだけど……他人の経験値を横取りしたみたいで、なんだか申し訳ないな。事故とはいえ、リーダー達が瀕死まで追い詰めたカマイタチを倒しちゃったのは事実だし。
罪悪感を募らせる私は、右手に持つ毒針を見下ろした。
非常に居た堪れない気持ちになる中、突然徳正さんに肩を掴まれる。
「ラーちゃん、大丈夫!?怪我はない!?」
焦った様子で、私の顔を覗き込む徳正さんは『何もされなかった!?』と問い質してきた。
心配性な彼を前に、私は一先ず『大丈夫だった』と説明する。HPゲージが減っていないことを示すと、彼は目に見えて安堵した。
「良かった~!ラーちゃんに何かあったら、泣いちゃうところだったよ~!」
「そんな……大袈裟ですよ」
「いや、全然大袈裟じゃないって~!それより、危険な目に遭わせて、ごめんね~?俺っち達がちゃんとしていれば、こんなことにならなかったのに~!」
カマイタチを殺り損ねたことに責任を感じているのか、徳正さんは申し訳なさそうに眉尻を下げる。
傍に控えるシムナさんやラルカさんも『悪かった』と口を揃えて、言った。
ソワソワと落ち着きのない男性陣を前に、私はゆるゆると首を横に振る。
「いえ、気にしないで下さい。戦闘場面で気を抜いていた私も私ですし……それに────おかげさまで、レベルマックスになりましたから。獲物を横取りしたみたいで申し訳ありませんが、カマイタチの経験値は非常に役に立ちました。ありがとうございます」
ペコリと小さく頭を下げる私は『これで限界突破の準備が整った』と上機嫌に笑う。
怒られるどころか、逆にお礼を言われてしまった男性陣は困惑気味に顔を見合わせた。
パチパチと瞬きを繰り返す彼らは暫くすると────『おお!』と嬉しそうに声を上げる。
「そう言えば、さっき『レベルが上がった』とか、言っていたねー!おめでとー!」
「おめでとう、ラミエル。横取りなんて思っていないから、心配するな」
『お頭の言う通りだ。ノースダンジョンの中じゃなければ、祝杯でも挙げたいくらいだ』
「それな~!出来れば、今すぐお祝いしたいけど、ダンジョンの中はちょっとね~!地上に戻ったら、祝賀会でも開こうか!」
ワイワイと盛り上がる男性陣はすっかり、お祝いムードに包まれている。
当事者より嬉しそうな彼らを前に、私は『ふふっ』と笑みを零した。
ここまで浮かれているパーティーメンバーを見るのは久しぶりかも。祝賀会なんて、恐れ多いけど、皆でどんちゃん騒ぎするのは楽しそうだな。
ノースダンジョンの未到達階層に居るというのに、私は呑気に祝賀会のことについて考えている。
これほど、緊張感のないダンジョン攻略は生まれて初めてだった。
きっと、私は自分でも気づかない内に────彼らに毒されていたという事だろう。
気の緩みは司令塔として恥ずべき行為なのに、不思議と悪い気はしなかった。
「効果があると立証されたとはいえ、傍から見ると、異様な光景ですね」
足元に転がってきた手裏剣を拾い上げ、私は『ちょっと勿体ないな』と呟いた。
アラクネさんのおかげで、武器に困ることはないが、ただ投げるだけならボールでもいいだろう。
「確かに客観的に見ると、やばい光景だね~。あっ、武器は後で回収するから、そこに置いておいていいよ~」
『使い慣れない武器はあんまり触らないで』と、やんわり注意する徳正さんは素早く手裏剣を取り上げる。
相変わらず、過保護な彼は『怪我でもしたら、危ないよ』と眉尻を下げた。
心配性な徳正さんに、半ば呆れ返る中─────カマイタチたちはどこからともなく、姿を現す。
同化したまま戦うのは不利だと判断したのだろう。何体か、怪我を負っているカマイタチたちは憎たらしげにこちらを睨みつける。
言葉などなくとも、奴らの殺意はハッキリと伝わってきた。
「ようやく、姿を現したねー!我慢比べは僕達の勝ちだよー!」
ニッと得意げに笑うシムナさんは、金と銀の斧をそれぞれ握り直す。
既に殺る気満々の彼は、殺気立つカマイタチ達を真っ直ぐに見据えた。
「よーし!それじゃあ────楽しい楽しい大虐殺を始めようか♪」
無邪気な笑顔とは裏腹に、物騒なことを口走るシムナさんは嬉々として、走り出す。
そして、手っ取り早く一番近くにいるカマイタチに斬りかかった。
振り下ろされた銀の斧を両腕で受け止めるカマイタチは、何とか持ち堪えようとする。でも、力勝負ではどう頑張ってもシムナさんに敵わないため、一瞬で押し負けた。
流れるような動作で、胴体を切り裂かれたカマイタチは『キィー!』と悲鳴を上げながら、死に絶える。
一方的な蹂躙と言ってもいい光景を前に、私は頬を引き攣らせた。
相手は魔物だから仕方ないとはいえ、本当に容赦ないな……。傍から見ると、シムナさんの方が悪者っぽい。
「ラミエルー!僕の活躍、見てたー?」
『テストで百点取ったよ!』と自慢してくる子供のように、シムナさんは声を弾ませる。
無邪気にはしゃぐ彼は、褒めてとでも言うようにキラキラと目を輝かせた。
「あっ、はい。拝見しておりました。とても、格好良かったです」
「本当ー?やったー!もっともっと活躍するから、そこで見ててねー!」
嬉しそうにピョンピョンと飛び跳ねるシムナさんは、もっと褒めてもらおうと元気よく駆け出す。
意欲的な態度を見せる彼は力任せに斧を振るい、カマイタチたちに引導を渡した。
やる気に満ち溢れたシムナさんを前に、『煽てたのは間違いだったかもしれない』と少しだけ後悔する。でも、今更どうしようもできないので、私は静観を決め込んだ。
『なるようになれ!』と自棄を起こす中、隣に立つ徳正さんは不満げに口先を尖らせる。
「シムナばっかり、ラーちゃんに褒められてズルい……俺っちだって、褒められたい!」
グッと拳を握り締める徳正さんは、物欲しそうな目でこちらを見つめる。
でも、現時点で大して褒めるところはないため、知らんぷりをした。
ただひたすら、シムナさんの虐殺……じゃなくて、活躍を見守る中────徳正さんはついに痺れを切らす。
「もう!こうなったら、俺っちも前線に出る!そんで、ラーちゃんに褒められるくらいの功績を上げるんだから!」
褒めざるを得ない状況に追い込んでやる!とでも言うように、徳正さんは抜刀した。
愛刀をしっかりと握り締め、剣先をカマイタチに向ける。刹那────突風と共にカマイタチの体はバラバラに切り刻まれた。
目にも止まらぬ速さとはまさにこの事で、徳正さんはいつの間にか、カマイタチの背後に立っている。瞬間移動とも言える早業に、私は感嘆するしかなかった。
カマイタチを切り刻む瞬間はもちろん、移動する後ろ姿さえ捉えることが出来なかった。私に褒めてもらうために、いつもより張り切っているみたい。
頑張って格好つける徳正さんを前に、私はクスリと笑みを漏らした。
単純とも短絡的とも言える行動に目を細める中、彼はどんどんカマイタチを切り捨てていく。他のメンバーも負けじと剣を振るい、カマイタチの討伐に尽力した。
秒単位で減っていくカマイタチを前に、私は『もうそろそろ、次の階層に行けそうだな』と考える。
投擲武器の回収時間も考えて、時間配分を考えていると────不意にカマイタチと目が合った。
男性陣の攻撃で、ほぼ瀕死状態の奴は何を思ったのか、特殊スキルを発動させる。そして、瞬時に空気と同化した。
見事カマイタチを殺り損ねてしまった男性陣は悔しそうに顔を歪める。
「あいつ、どこ行ったのー?もう負け確なんだから、さっさと殺られてよー!」
『往生際の悪い奴だな』
「そうカッカするな。さっきのように投擲武器で攻撃すれば、いいだけの話だ。徳正、カマイタチは今どこに居る?」
シムナさん、ラルカさん、リーダーの三人は探知能力に優れた徳正さんに視線を向けた。
『早く居場所を割り出せ』と急かす彼らに、黒衣の忍者は苦笑を漏らす。
「も~!ちょっと、待ってよ~!カマイタチの気配は察知しづらいんだってば~!」
ガシガシと乱暴に頭を搔く徳正さんは『面倒臭いなぁ』と零しつつ、意識を集中させる。
全神経を尖らせる彼は数秒ほど沈黙したかと思えば────勢いよく顔を上げた。
「────カマイタチはラーちゃんの方に向かっている!今すぐ、陣形を整えて!」
『あいつの狙いはラーちゃんだ!』と叫ぶ徳正さんは、急いで刀を握り直す。
でも、時すでに遅しとでも言うべきか……カマイタチはとっくのとうに、私の目の前に姿を現していた。鎌とも呼ぶべき前足を振り上げ、奴は私に斬り掛かる。
迫り来る脅威を前に、私は────ずっと手に持っていた毒針をカマイタチの脳天に突き刺した。
ほぼ反射的にやった行動にも拘わらず、効果は絶大だったようで、カマイタチは光の粒子と化す。
「えっ……?あれ?ただの神経毒だったのに、何で死んで……?もしかして、瀕死だったから……?それで一発KOに……?」
『そんなのほぼ死にかけじゃん』と呟く私は、神経毒に侵されるカマイタチをまじまじと見つめる。
麻痺状態で動くことも出来ない奴は、一矢報いることも出来ずに消えてしまった。
その瞬間────ピロン♪と聞き慣れた効果音が鳴り、目の前には『レベル99に到達しました』という文字が現れる。これは言うまでもなく、レベルアップの通知だった。
「れ、レベルアップしちゃった……」
カマイタチの討伐による経験値で、私はついにレベルマックスまで登りつめた。
FROプレイヤーの中で、レベルマックスになった回復師は恐らく、私だけだろう。少なくとも、現状は……。
普通に嬉しいし、誇らしいことだけど……他人の経験値を横取りしたみたいで、なんだか申し訳ないな。事故とはいえ、リーダー達が瀕死まで追い詰めたカマイタチを倒しちゃったのは事実だし。
罪悪感を募らせる私は、右手に持つ毒針を見下ろした。
非常に居た堪れない気持ちになる中、突然徳正さんに肩を掴まれる。
「ラーちゃん、大丈夫!?怪我はない!?」
焦った様子で、私の顔を覗き込む徳正さんは『何もされなかった!?』と問い質してきた。
心配性な彼を前に、私は一先ず『大丈夫だった』と説明する。HPゲージが減っていないことを示すと、彼は目に見えて安堵した。
「良かった~!ラーちゃんに何かあったら、泣いちゃうところだったよ~!」
「そんな……大袈裟ですよ」
「いや、全然大袈裟じゃないって~!それより、危険な目に遭わせて、ごめんね~?俺っち達がちゃんとしていれば、こんなことにならなかったのに~!」
カマイタチを殺り損ねたことに責任を感じているのか、徳正さんは申し訳なさそうに眉尻を下げる。
傍に控えるシムナさんやラルカさんも『悪かった』と口を揃えて、言った。
ソワソワと落ち着きのない男性陣を前に、私はゆるゆると首を横に振る。
「いえ、気にしないで下さい。戦闘場面で気を抜いていた私も私ですし……それに────おかげさまで、レベルマックスになりましたから。獲物を横取りしたみたいで申し訳ありませんが、カマイタチの経験値は非常に役に立ちました。ありがとうございます」
ペコリと小さく頭を下げる私は『これで限界突破の準備が整った』と上機嫌に笑う。
怒られるどころか、逆にお礼を言われてしまった男性陣は困惑気味に顔を見合わせた。
パチパチと瞬きを繰り返す彼らは暫くすると────『おお!』と嬉しそうに声を上げる。
「そう言えば、さっき『レベルが上がった』とか、言っていたねー!おめでとー!」
「おめでとう、ラミエル。横取りなんて思っていないから、心配するな」
『お頭の言う通りだ。ノースダンジョンの中じゃなければ、祝杯でも挙げたいくらいだ』
「それな~!出来れば、今すぐお祝いしたいけど、ダンジョンの中はちょっとね~!地上に戻ったら、祝賀会でも開こうか!」
ワイワイと盛り上がる男性陣はすっかり、お祝いムードに包まれている。
当事者より嬉しそうな彼らを前に、私は『ふふっ』と笑みを零した。
ここまで浮かれているパーティーメンバーを見るのは久しぶりかも。祝賀会なんて、恐れ多いけど、皆でどんちゃん騒ぎするのは楽しそうだな。
ノースダンジョンの未到達階層に居るというのに、私は呑気に祝賀会のことについて考えている。
これほど、緊張感のないダンジョン攻略は生まれて初めてだった。
きっと、私は自分でも気づかない内に────彼らに毒されていたという事だろう。
気の緩みは司令塔として恥ずべき行為なのに、不思議と悪い気はしなかった。
2
お気に入りに追加
378
あなたにおすすめの小説

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します
あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。
異世界パルメディアは、大魔法文明時代。
だが、その時代は崩壊寸前だった。
なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。
マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。
追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。
ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。
世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。
無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。
化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。
そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。
当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。
ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!!
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる