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第六章
第274話『檮杌の討伐完了』
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鋭い目付きで睨み付けてくる檮杌に対し、ラルカさんとシムナさんは余裕そうに微笑む。
武器を構えてもいない二人に、憤りを覚える檮杌は床に尻尾を打ち付けた────かと思えば、二人の立っている地面が盛り上がり、天井へと向かっていく。
このまま行けば、シムナさんとラルカさんは地面と天井に挟まれ、押し潰されてしまうだろう。
普通なら、焦って飛び降りるところだけど……二人はどうするんだろう?まさか、檮杌の攻撃をわざと受ける……なんてことないよね?
嫌な予感を抱く私は『あの二人なら、やりかねない……』と目頭を押さえた。
彼らの防御力なら、負傷することはないだろうが……それでも、危険なことに変わりはない。
『何故こうも脳筋なのか』と呆れ返る中────シムナさんとラルカさんの後頭部は勢いよく天井にぶつかった。
ボスフロア全体に鳴り響く鈍い音を他所に、檮杌は更に土を盛り上げる。『絶対に押し潰してやる!』と言わんばかりの勢いだが……二人は全くのノーダメージだった。
驚くほど、ピンピンしているな……まあ、元気そうで何よりだけど。
地面と天井に挟まれても、顔色一つ変えないシムナさんとラルカさんに、私は思わず苦笑する。
隣に座る徳正さんも、『これはさすがに可哀想かも~』と檮杌に同情した。
「地面を押し上げる力より、二人の防御力の方が高くて、完全に相殺されてるね~。あれじゃあ、一生かかっても押し潰せないよ~」
「檮杌からすれば、素手でダイヤモンドを握り潰そうとしているようなものですからね。正直、無謀だと思います」
完全に静観を決め込む私達は、檮杌に同情の眼差しを向ける。
悲しいほどの実力差に思いを馳せる中、シムナさんは『ふわぁ……』と欠伸を零した。
「ねぇー、他にもっとないのー?まさか、これだけー?さすがにつまんないんだけどー」
『下から押し上げられるだけでは、僕達を倒すことは出来ないぞ。もっと頭を使え』
そろそろ戦闘に飽きてきたのか、二人はブーブーと文句を垂れる。
敵からのダメ出しにムッとする檮杌は、額に青筋を立てた。
言葉は通じなくても、馬鹿にされたことは何となく分かったらしい。
「あれ?めちゃくちゃ怒ってるじゃーん!ウケるー!」
危機感の欠片もないシムナさんは殺気立つ檮杌を指さし、大爆笑する。
そして、一頻り笑い終えると─────金の斧を握り直した。
「さてと────もうそろそろ、終わりにしよっかー。あんまり長引くと、ラミエルに怒られちゃうしー。何より、お前との戦いはつまんないからー」
そう言って、金の斧を振り上げたシムナさんは丘のように盛り上がった地面を────叩き割った。たった一度、斧を振り下ろしただけで……。
破壊神とも呼ぶべき破壊力に目を剥く中、地面は粉々に砕け散り、床へと落ちていく。
ブワッと舞い上がる土埃は、私達のところまでやって来た。
『ケホケホッ』と咳き込む私は涙目になりながら、シムナさんを睨みつける。
「もう少し、周りに気を使ってください!危うく、檮杌の作った土を吸い込むところでしたよ!」
「えっ?マジでー?ごめーん!大丈夫ー?怪我とかしてないー?」
バツの悪そうな顔をするシムナさんは、両手を合わせて謝ってきた。
捨てられた子犬のような目で見つめられ、私は『はぁ……』と溜め息を零す。
本人も反省しているようだし、これ以上説教する必要はないか。あんまり責め過ぎると、拗ねちゃうかもしれないし。
なんだかんだ、シムナさんに甘い私は『仕方ないな』とでも言うように肩を竦めた。
「怪我はありません。ちょっと噎せただけです。それより、檮杌の討伐を……」
「────ラミエル、危ない!!」
『討伐を急いでください』と続く筈だった言葉は、シムナさんの大声に遮られた。
彼の視線を辿るように少し顔を動かせば、小さい針のようなものが目に入る。
土で出来たソレは私の眼球を狙っているようで、真っ直ぐこちらへ向かってきた。
えっ!?何これ!?針!?土で出来た針なんて、見たことも聞いたこともないけど……って、土?それって、もしかして────檮杌の土魔法で出来たやつ!?でも、私達の周りには土なんて……いや、待てよ?さっきの土埃を利用すれば、針くらいは作れるかもしれない!
少ない手掛かりから、一つの仮説を見出した私はタラリと冷や汗を垂れ流す。
状況を整理出来ても、打開策が見つからなければ、意味はなかった。
針とはいえ、目に刺されば、失明してしまうかもしれない……!少なくとも、負傷は避けられない……!直ぐに治せばいい話だけど、現場の混乱は避けられないだろう!
怒り狂う仲間達の姿を思い浮かべ、私は『どうにか出来ないか?』と考える。
でも、針との距離が近すぎて、避けることも防ぐことも出来なかった。
『どう頑張っても間に合わない!』と絶望する中────突然、誰かに肩を抱き寄せられる。
ビックリして固まる私を他所に、小さな針はグシャリと握り潰された。
「────俺っちのラーちゃんに手を出さないでくれる~?マジで不愉快なんだけど~」
緩い口調とは裏腹に、重低音の声を響かせるのは────“影の疾走者”である徳正さんだった。
握り潰した針を地面に投げ捨てたかと思えば、彼はゾッとするような殺気を放つ。
あまりの迫力に、身を固くする私だったが……徳正さんに優しく肩を撫でられ、直ぐに落ち着いた。
どれだけイライラしていても、私への配慮は忘れないんだな……まあ、こうなったのも徳正さんのせいなんだけど。
『恐怖の元凶に慰められ、安心する』という謎の展開に、私は今更ながら違和感を抱く。
でも、気にしたら負けだと思い、直ぐに思考を放棄した。
「シムナ~、ラルカ~。それ、さっさと片付けてくれる~?視界に入るだけでも、不快なんだよね~」
もはや、檮杌を名前で呼ぶ気すらないのか、徳正さんは人差し指でフホアボスを指さした。
殺意に満ちたセレンディバイトの瞳を前に、シムナさんとラルカさんは『言われなくても!』と走り出す。
それぞれ武器を構える彼らは、檮杌の元まで真っ直ぐ向かって行った。
迫り来る敵を前に、檮杌は慌てて土の矢を放つものの……あっさりと防がれる。
もはや、あの二人を止められる者はここに居なかった。
「ラミエルの仇ー!」
『死んで償え!』
各々物騒なセリフを吐く彼らは、檮杌の首と腹にそれぞれ刃を向けた。
『グウァ!』と悲鳴を上げる檮杌は逃げる間もなく、首を撥ねられ、腹を引き裂かれる。
子供には見せられないホラー映像を前に、私は『うわぁ……』と顔を顰めた。
フロアボスを一発KOしちゃったよ、この人達……。
異次元の強さを見せつける二人に、私はもはや呆れるしかなかった。
あっという間に光の粒子と化す檮杌を前に、黙って手を合わせる。『なんか、ごめん』と思いながら……。
────こうして、予想外のトラブルを引き起こした檮杌戦は無事に(?)幕を閉じた。
武器を構えてもいない二人に、憤りを覚える檮杌は床に尻尾を打ち付けた────かと思えば、二人の立っている地面が盛り上がり、天井へと向かっていく。
このまま行けば、シムナさんとラルカさんは地面と天井に挟まれ、押し潰されてしまうだろう。
普通なら、焦って飛び降りるところだけど……二人はどうするんだろう?まさか、檮杌の攻撃をわざと受ける……なんてことないよね?
嫌な予感を抱く私は『あの二人なら、やりかねない……』と目頭を押さえた。
彼らの防御力なら、負傷することはないだろうが……それでも、危険なことに変わりはない。
『何故こうも脳筋なのか』と呆れ返る中────シムナさんとラルカさんの後頭部は勢いよく天井にぶつかった。
ボスフロア全体に鳴り響く鈍い音を他所に、檮杌は更に土を盛り上げる。『絶対に押し潰してやる!』と言わんばかりの勢いだが……二人は全くのノーダメージだった。
驚くほど、ピンピンしているな……まあ、元気そうで何よりだけど。
地面と天井に挟まれても、顔色一つ変えないシムナさんとラルカさんに、私は思わず苦笑する。
隣に座る徳正さんも、『これはさすがに可哀想かも~』と檮杌に同情した。
「地面を押し上げる力より、二人の防御力の方が高くて、完全に相殺されてるね~。あれじゃあ、一生かかっても押し潰せないよ~」
「檮杌からすれば、素手でダイヤモンドを握り潰そうとしているようなものですからね。正直、無謀だと思います」
完全に静観を決め込む私達は、檮杌に同情の眼差しを向ける。
悲しいほどの実力差に思いを馳せる中、シムナさんは『ふわぁ……』と欠伸を零した。
「ねぇー、他にもっとないのー?まさか、これだけー?さすがにつまんないんだけどー」
『下から押し上げられるだけでは、僕達を倒すことは出来ないぞ。もっと頭を使え』
そろそろ戦闘に飽きてきたのか、二人はブーブーと文句を垂れる。
敵からのダメ出しにムッとする檮杌は、額に青筋を立てた。
言葉は通じなくても、馬鹿にされたことは何となく分かったらしい。
「あれ?めちゃくちゃ怒ってるじゃーん!ウケるー!」
危機感の欠片もないシムナさんは殺気立つ檮杌を指さし、大爆笑する。
そして、一頻り笑い終えると─────金の斧を握り直した。
「さてと────もうそろそろ、終わりにしよっかー。あんまり長引くと、ラミエルに怒られちゃうしー。何より、お前との戦いはつまんないからー」
そう言って、金の斧を振り上げたシムナさんは丘のように盛り上がった地面を────叩き割った。たった一度、斧を振り下ろしただけで……。
破壊神とも呼ぶべき破壊力に目を剥く中、地面は粉々に砕け散り、床へと落ちていく。
ブワッと舞い上がる土埃は、私達のところまでやって来た。
『ケホケホッ』と咳き込む私は涙目になりながら、シムナさんを睨みつける。
「もう少し、周りに気を使ってください!危うく、檮杌の作った土を吸い込むところでしたよ!」
「えっ?マジでー?ごめーん!大丈夫ー?怪我とかしてないー?」
バツの悪そうな顔をするシムナさんは、両手を合わせて謝ってきた。
捨てられた子犬のような目で見つめられ、私は『はぁ……』と溜め息を零す。
本人も反省しているようだし、これ以上説教する必要はないか。あんまり責め過ぎると、拗ねちゃうかもしれないし。
なんだかんだ、シムナさんに甘い私は『仕方ないな』とでも言うように肩を竦めた。
「怪我はありません。ちょっと噎せただけです。それより、檮杌の討伐を……」
「────ラミエル、危ない!!」
『討伐を急いでください』と続く筈だった言葉は、シムナさんの大声に遮られた。
彼の視線を辿るように少し顔を動かせば、小さい針のようなものが目に入る。
土で出来たソレは私の眼球を狙っているようで、真っ直ぐこちらへ向かってきた。
えっ!?何これ!?針!?土で出来た針なんて、見たことも聞いたこともないけど……って、土?それって、もしかして────檮杌の土魔法で出来たやつ!?でも、私達の周りには土なんて……いや、待てよ?さっきの土埃を利用すれば、針くらいは作れるかもしれない!
少ない手掛かりから、一つの仮説を見出した私はタラリと冷や汗を垂れ流す。
状況を整理出来ても、打開策が見つからなければ、意味はなかった。
針とはいえ、目に刺されば、失明してしまうかもしれない……!少なくとも、負傷は避けられない……!直ぐに治せばいい話だけど、現場の混乱は避けられないだろう!
怒り狂う仲間達の姿を思い浮かべ、私は『どうにか出来ないか?』と考える。
でも、針との距離が近すぎて、避けることも防ぐことも出来なかった。
『どう頑張っても間に合わない!』と絶望する中────突然、誰かに肩を抱き寄せられる。
ビックリして固まる私を他所に、小さな針はグシャリと握り潰された。
「────俺っちのラーちゃんに手を出さないでくれる~?マジで不愉快なんだけど~」
緩い口調とは裏腹に、重低音の声を響かせるのは────“影の疾走者”である徳正さんだった。
握り潰した針を地面に投げ捨てたかと思えば、彼はゾッとするような殺気を放つ。
あまりの迫力に、身を固くする私だったが……徳正さんに優しく肩を撫でられ、直ぐに落ち着いた。
どれだけイライラしていても、私への配慮は忘れないんだな……まあ、こうなったのも徳正さんのせいなんだけど。
『恐怖の元凶に慰められ、安心する』という謎の展開に、私は今更ながら違和感を抱く。
でも、気にしたら負けだと思い、直ぐに思考を放棄した。
「シムナ~、ラルカ~。それ、さっさと片付けてくれる~?視界に入るだけでも、不快なんだよね~」
もはや、檮杌を名前で呼ぶ気すらないのか、徳正さんは人差し指でフホアボスを指さした。
殺意に満ちたセレンディバイトの瞳を前に、シムナさんとラルカさんは『言われなくても!』と走り出す。
それぞれ武器を構える彼らは、檮杌の元まで真っ直ぐ向かって行った。
迫り来る敵を前に、檮杌は慌てて土の矢を放つものの……あっさりと防がれる。
もはや、あの二人を止められる者はここに居なかった。
「ラミエルの仇ー!」
『死んで償え!』
各々物騒なセリフを吐く彼らは、檮杌の首と腹にそれぞれ刃を向けた。
『グウァ!』と悲鳴を上げる檮杌は逃げる間もなく、首を撥ねられ、腹を引き裂かれる。
子供には見せられないホラー映像を前に、私は『うわぁ……』と顔を顰めた。
フロアボスを一発KOしちゃったよ、この人達……。
異次元の強さを見せつける二人に、私はもはや呆れるしかなかった。
あっという間に光の粒子と化す檮杌を前に、黙って手を合わせる。『なんか、ごめん』と思いながら……。
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